討伐隊と物資隊
「凄い人の数・・・。」
「いつもより増しているわね。」
ギルドに訪れたユーノ達は溢れかえる冒険者達の多さに少し萎縮。
「こんなにも多くの冒険者が討伐に参加するのか・・・。」
「ここにいるのは全員ランクB以下。防衛と物資隊ばかりだぜ、坊主。」
ユーノ達に声をかけてきたのは以前ルシアが回復魔法を施した冒険者『人知無法』の二人。
ルシアを通じて顔見知りとなったのだが、この二人はルシアのファンになっていた。
「こんにちは。」
「おはよう、ルシアちゃん。3人も参加してくれるのか。」
「助かるよ。特にルシアちゃんの回復魔法は大いに活躍する場だな。」
「ところでAランク以上は何故ここにいないのですか?」
「討伐隊と防衛隊とは役割が違うからな。ここは防衛隊の作戦会議場だ。討伐隊は王宮で打合せをしているさ。」
「ここだけの話、今回の討伐にAランク以上の冒険者は参加していない。」
「どうしてですか?」
「Aランク以上は他のクエスト中でここを離れている―――というのが建前で本当はは全ての手柄を勇者に渡す為さ。」
「スケルトン・キングを倒した実績が欲しいのだとよ。イスカディール帝国に勇者あり、と世界に知らしめる絶好の機会らしい。」
「騎士団で囲い、勇者にトドメを刺させる。後は事実を少し湾曲させれば全ては勇者の手柄となる、て筋書きか。」
「そういう事だ坊主。因みに勇者は俺達の後に出発。盛大なパレードを行って出撃するそうだ。」
「全く、お偉いさんは呑気だぜ。」
「静粛に!!!!!」
ギルドマスターが壇上に姿を見せた事で話は中断。彼の指示の元、今回のクエストの説明が行われた。
「これで荷物は全部です。」
「了解、それじゃあ出発だ。」
荷台に積まれた物資に異常がないことを確認し、出発する人知無法とユーノ一行。
御者はユーノが行い、ルシアはその隣に座り後の三人は徒歩。
周囲の警戒に努める。
「私だけ歩かなくていいの?」
申し訳なさそうに尋ねるルシア。
「気にしない事さルシア。この機会に御者のやり方でも覚えてみる?」
「うん覚える!ユーノ君教えて。」
(本当に仲がいいわね。)
ユーノとルシアの仲慎ましい光景を傍から眺めるエリカ。
微笑ましさと若干の嫉妬を抱える。
「本当に仲がいいよな。」
エリカの心を代弁するかのように話しかける。
「そうですよね・・・。」
「なに他人事のように言っているんだ。エリカ嬢ちゃんも坊主と二人っきりの時はいつもあんな感じだぜ。」
「えっ、そうですか?」
「ああ、そうだとも。この前ギルドの待合で二人寄り添っていただろう。ちょうど今みたいにいい雰囲気だったぜ。」
「~~~。」
心当たりがあり恥ずかしくなるエリカ。
「エリカ嬢ちゃんは自分の事を過小評価する傾向があるな。」
「言っておくが、今エリカ嬢ちゃん達はギルド内ではかなり有名だぜ。」
「強くて可愛くて美人なエリカ嬢ちゃんと冒険者としては希少な回復魔法を扱う優しくて可愛いルシアちゃん、てな。」
「ああ、誰もがお近づきになりたい、と思っているはずだぜ。」
「そうなのですか?でもそんな場面一度もないのですが・・・。」
「そりゃあ、そうだろうよ。何せあの坊主が牽制しているからな。」
男二人の視線はユーノへ向けられる。
「邪な気持ちで近づこうならばユーノの坊主に排除されるからな。」
「実際に何度かあったし。二人とも知らないかもしれないけど。」
「初耳です。」
「それを気づかせないようにするとは、坊主も中々やるよな。」
「何だっけ?『二人には指一本触れさせない!彼女たちは俺のオンナだ!』だったか。」
「そうそう、大勢の場で堂々と見栄を切っていたな。」
「あそこまで言われちゃあ、俺達は何もできねえな。」
「違いない。」
大笑いしながら与太話する二人にエリカは顔を真っ赤にして黙る他なかった。
道中は何度か魔物と遭遇したが、難なく対処。
予定通りに中継地の砦に到着。
砦にはすでに多くの騎士達が補修と補強に忙しなく働いていた。
「邪魔にならない様に物資を運ぶぞ。」
ユーノ達が運んできたのは食糧全般。
回復薬や予備の武器は他の物資隊が運んでくる予定である。
「この後はどうするの?」
「待機だね。他の物資隊が来るまで防衛の方に入る事になっているよ。」
ルシアの質問に答えた時、外が騒がしくなる。
敵襲の慌ただしさではない。
歓声に近い騒がしさからユーノは勇者が到着したのだな、確信を得る。
「騎士団の皆さん、そして冒険者の皆さん。この勇者カリウスにお任せを。この僕がスケルトン・キングを討ち取り、帝国の平和を勝ち取ります。皆さんこの僕に力を貸してください!」
高らかな宣言に大歓声で答える騎士団。士気が上がったのが眼に見えてわかる。
「大丈夫かしら?」
「大丈夫だよエリカ。仮にも勇者だし、それに優秀な騎士が周りについてフォローしてくれるさ。」
興味なさげにその光景から背を向けるユーノ。
「彼には彼のやるべきことがあって、俺達には俺達のやるべきことがある。そうだろう。」
「うん。」
「そうね。」
二人を連れて持ち場に戻った。
「斥候隊の報告ですとスケルトンの群れはゆっくりですが、こちらの方へ向かってきております。数は200体ほど。人型だけでなく魔物型も確認出来ましたがスケルトン・キングの姿だけは確認できませんでした。」
「レスター隊の生存確認は?」
「残念ながら・・・。」
村は壊滅していたことを報告。
端で控えていたランドルフは悔しさを滲ませる。
「では打ち合わせ通り、編成を組み防衛ラインを保ちつつスケルトンを各個撃破。スケルトン・キングが出現次第総攻撃をかける。勇者様は私、メルセデス隊に同行して下さい。」
「分かりました、よろしくお願いしますメルセデス将軍。」
「では出撃は明日。各隊よろしくお願いします。」
今回この討伐に参加した小隊の数は3。
60名ほどの騎士団と勇者。
かなり大掛かりな規模の編成が組まれている。
その理由は勇者カリウスに手柄を取らせるため。彼は勇者の資格である加護を持っているが実績はまだなく、今回の討伐で功績を得らせるようにと国王から厳命が下されたのである。
(全く国王様も無茶を言いなさる・・・。)
会議が終わり、一人になった所で外れくじを引かされたと深いため息を落とすメルセデス。
「本来は冒険者の力を借りて討伐に当たりたい所なのだがな。はて、この人数でスケルトンの大群を抑えることが出来るのであろうか・・・。」
一抹の不安が脳裏から離れようとしない。
「頼むから不測の事態よ、起こらないでくれ。」
そう願うのであった。




