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デート

「これでとどめ!」

 エリカの渾身の袈裟斬りにより討伐されたジャイアントレッドベア。

「エリカちゃん、凄い!お疲れ様。」

 完全に事切れたのを見計らい、駆け寄るルシア。祝杯のハイタッチが恒例となっている。

「ルシアの補助魔法のおかげよ。」

「二人ともいい動きだったよ。」

 離れた所から事の成り行きを見守っていたユーノが二人の元へ。

「ルシアの補助魔法をかけるタイミングはバッチリだったし、エリカも魔物との間合いの詰め方が上手くなったね。」

「本当!」

 ユーノに褒められて喜びを表に出すルシアとそっぽを向いて照れているのを誤魔化すエリカ。

 そんな二人の仕草が愛おしくて気が付けば二人の頭を優しく撫でていた。

「それじゃあこの魔物を解体してギルドに戻ろうか。」

 三人は手分けしてジャイアントレッドベアを解体。その足でギルドへ。

「お疲れ様です。こちらがクエスト達成報酬と素材買取金額です。」

 硬貨が詰まった袋を受け取ったタイミングを見計らって、受付嬢が言葉を続ける。

「それからルシアさんとエリカさん。今回の達成で冒険者ランクがDへ昇格されました。おめでとうございます。」

「やった。これでユーノに追いついたわ。」と喜ぶエリカ。

「ありがとうございます。」

 礼儀よくお辞儀をしたルシアはユーノの元へ駆け寄り、

「ユーノ君、私達昇格したよ。褒めて。」

 両手を後ろにまわして上目遣いで頭撫でを催促。

「それにしてもユーノがすでに冒険者登録をしていたとはね。おまけにDランクだし。」

「村で狩りをしていた時、素材を売る際に登録が必要だったからね。」

「なるほどね。所でいつまでそれを続けるつもり?」

 ルシアの髪の感触を味わいながら頭を撫で続けるユーノに少々呆れ顔。

「エリカもしてあげようか?」

「いやよ。恥かしいから。」

 拒否表明をするエリカ。

 最後の呟きはギルド内の騒がしさにかき消されたが、ユーノの耳にはしっかり届いていたので、耳元でこう囁いた。

「なら、家に帰って二人っきりの時にしてあげるね。」

 ドキッ!と心臓が飛び跳ねる。照れ隠しに早口で話題を変える。

「それよりもせっかく昇格したのだし、明日受けるクエストを探しましょう。」

 逃げるように掲示板へ向かおうとするエリカを引き留める。

「ちょっと待って、明日は休みを取ろうと考えていたのだけど。」

「えっ、そうなのユーノ君。」

「ああ、この所ずっと動き続けていたから休息を入れるべきだと思っているのだが・・・。」

 ユーノ達がチームを組んで2週間が経過。

 三人は精力的に動いていた。午前は学園で授業、午後はクエストを受け、夜はその日の反省会と鍛錬。

 その結果、エリカとルシアは大きく成長を見せていた。

 ルシアは魔法防壁の複数展開はまだ出来ないが、補助魔法を幾つか取得。後方で積極的に支援を行えるまで成長。

 エリカも多くの魔物との間合いの詰め方や立ち回りが上手くとれるようになっていた。

 自分自身の成長を実感できているからこそこの2週間休むことなくやれてきたのであるが、これ以上は怪我の恐れがあるとユーノは判断。その故、休みを提案したのである。

 ユーノ提案に少し不満気な表情を見せる二人。

 なのでユーノは二人のやる気を削ぐことなく休ませる、魔法の言葉を口にする。

「明日はせっかくの休みだし、三人でデートをしたいな、と思っていたのだけど。」

「「デート!!」」

 前のめりで目を輝かせる二人。

「するする!デートしたい!」

 ぴょんぴょん跳ねて喜ぶルシアと、

「仕方がないわね。」

 と言いつつも影で小さくガッツポーズするエリカ。

 ユーノの思惑通り、休日を確保。デートを行う事が決定された。


 翌日、ルシアの「折角だしデートの醍醐味を味わいたい。」という提案により待ち合わせをすることに。

 待ち合わせ場所である広場で待つ事10分。

「ユーノ君、お待たせ。」

 ルシアの声に導かれて二人の見たユーノは息を呑む。

 二人の姿に見惚れたのだ。

「ユーノ君、どうかな?」

 その場でターンして本日の服装を見せるルシア。

 淡いピンクのカーディガンに紺色のロングスカートに白のベルト。露出が少なく派手さはないゆったりとした服装であるが、彼女の身体のラインはハッキリとわかる。普段の可愛さと大人びた美しさを兼ね備えた今日のルシアに心を鷲掴みされた。

「うん似合っている。とても可愛くて惚れ直したよ。」

 頬に手を添え眼を見つめて本音を口にする。

「本当に嬉しい!」

 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表現するルシア。

「ほらエリカちゃんも。せっかくオシャレしたのだからユーノ君に見てもらわないと。」

「ちょっと待ってルシア。」

 小柄なルシアの後ろに隠れていたエリカをユーノの前へ押し出す。

「・・・。」

 照れるエリカ。袖なしで丈が少し短い白のワンピース。きめ細やかな肌と服の色合いが見事にマッチ。

 髪もいつものポニーテールではなく、後ろで編んでいた。普段とは全く違う美しさと可憐さに自然と賞賛を口にした。

「本当に美しいよエリカ。化粧も前より断然いいし、髪型もとても似合っているよ。」

「化粧と髪はルシアがしてくれたの。」

「本当に美しい。そんなに君と隣を歩ける事、光栄に思うよ。」

「あ、ありがとう。」

「よかったねエリカちゃん。」

 エリカが褒められた事を自分の事のように喜ぶルシア。

「さあ、時間も勿体ないし行こうか。」

「うん。」

 ごく自然な動きでユーノの腕に抱きつくルシア。一方のエリカは躊躇を見せた為、行動が遅れる。

 触れるぐらいの弱々しく添える彼女の手を恋人繋ぎにして自分の元へ引き寄せて共に歩み始めた。


「これ、可愛い~~~。」

「そう、かな?」

「前から思っていたけどルシア、あなたの感性って少しおかしくないかしら?」

 長い舌を出したギョロ目の犬の人形に目を輝かせるルシアに対し微妙な顔をするユーノとエリカ。

 三人は広場内の露店通りを散策中。様々な露店を巡っていた。

 最初は緊張していたエリカも大分いつもの調子を取り戻し、気がつけばルシアと同様にユーノの腕に抱きついていた。

「ユーノ、あのお店に行きましょう。」

「ユーノ君、あれ凄いよ。」

 二人の問いかけに誠意を見せるユーノ。周囲から嫉妬を浴びるが、それ以上に両手に抱える花の甘い香りと腕に感じる柔らかい感触の幸福さが遥かに優っていた。

(二人とも美少女だから見惚れるのは分かるさ。それにしても―――。)

 楽しそうに露店を眺めるエリカの方に視線を向ける。

(何度も胸を押し付けて。多分無意識なんだろうな。)

 エッチな事には耐性が低いエリカであるが抜けている所が多々みられ、風呂上がりにバスタオル一枚で歩く姿をよく目撃しているのだ。

(エリカはよく自虐するけど、本当に綺麗だし、胸も大きい部類に入るのだけどね。)

「ユーノ君。」と名前を呼ぶルシア。

 強く抱き付くのでユーノの腕はルシアの胸の谷間に埋もれている。

「あれ見てよ、凄いよね。」

 明らかにわざと大きな胸を押し付けるルシア。

 一緒に暮らし始めてから彼女のアプローチは積極的になった傾向が見られる。

 元々社交的で誰にでも親しい対応をしているが、異性に対する線引きは明確でガードはかなり堅い。ここまで気を許している異性はユーノただ一人だけ。

 その事をユーノは承知しており、この嬉しさを噛み締めている。

(本当に大切にしないといけないな。)

 命をかけて守りたい人。

 ユーノにとってエリカとルシアはそれぐらい大切で大きな存在になっていた。

 いずれは二人と契りを結んで共に生きていきたい、と強く思う。もちろん自分の生い立ちを全て明かした上で。

「どうしたのユーノ君。」

「何かあったのユーノ?」

「いや、何でもないさ。ちょっと小腹が空いたな、と思ってね。」

「ならちょうどいい時間だし、どこかのお店に入りましょう!」

 ルシアの提案でおしゃれな外装のお店にて昼食。

 その後は商店街へ。

「何か欲しい物があるの?」

 ユーノの問いかけに答えようとしたルシアがあるお店に興味を示す。

「ほら見てみて、この細工凄いよ。」

「本当ね。」

「金属細工店か・・・。」

 看板に書かれている文字を読み上げるユーノ。

「ねえちょっと寄ってみていい?」

 断る理由もないので、店の中へ。

 小さなお店を二手に分かれて鎮座されている商品を眺める。

「本当によくできているわね。」

「そうだね~~。てあれ?」

 とここでルシアはある商品に目を惹く。

 それはミスリル銀で作られた指輪。中央の小さな宝石、その周りに天使の羽が刻まれているシンプルな作り。

「これはエンギャルリングね。」

「エンジェルリング?」

「愛する人へ贈る指輪よ。成熟すれば永遠の愛で結ばれる事で巷ではちょっとした話題になっていたのよ。」

「へえ~、詳しいねエリカちゃん。」

「ま、前に使用人達から聞いたのよ。」

「なんでそんなに慌てているの?」

「別に慌てていないわよ。」

 会話から仲の良さが伺える。

 他の商品を見て回り、堪能した三人は金属細工店を後にした。

「所でルシアはどこに行きたいの?」

「う~とね、ランジェリーショップ。」

「えっ!」

 珍しくユーノの顔が引き攣る。

「実はブラのサイズがまた合わなくなったの。」

「ちょっとルシア。公然の場で何言っているのよ。」

「後、エリカちゃんの分も。聞いてユーノ君。エリカちゃんって今スポーツブラしか持っていないのよ。」

「ルシア!!!」

 顔を真っ赤にして抗議するエリカ。

「なら俺は店の前で待っているよ。」

「え~~、せっかくだしユーノ君に選んでもらおうと思っていたのに。」

「駄々をこねないで。それ以前にユーノは男性だから入室不可よ。」

 エリカの言う通り、ランジェリーショップは男性入室厳禁。

 結局、店には女子二人だけが入りユーノはお留守番。

 1時間後、ホクホク顔のルシアと疲労感満載のエリカが店から出てくる。どうやら店内で色々あったようだ。

「大丈夫か、エリカ。」

「ええ、心身に堪える時間だったわ。」

 詳しい事は聞かぬが吉と判断。話題を変える事にする。

「この後行きたい所はあるかい?」

「私はもう大丈夫。エリカちゃんは?」

「私も特にないわ。」

「ならちょっと寄りたい所があるのだけど、いいかな?」

 待っている間に思いついた事内容を実行に移すことに。

 二人を連れてある場所へ向かっていた途中で思わぬ人物と出くわす。

「お、見つけたぞ。」

「あれ?先生。」

 その人物はGG。どうやらユーノ達をずっと探していたようだ。

「ギルドに行ったら今日はクエストは受けていないと言われ、家に向かえば留守。お前達を探し求めて足が棒になったぞ。にしても・・・。」

 エリカ、ルシアを見比べて意地汚い笑みをユーノへ向ける。

「学園の二大美少女を両手に抱えてデートとは中々やるな。」

「何の用ですか?」

 苛立ちを込めての発言。ポケットに忍ばせていたある物に軽く触れる。

「実はお前達三人に頼みがあってな、ずっと探していたのさ。」

「私達に、ですか?」

「ああ、とりあえずまずは店だ。喉が渇いて仕方がない。一杯奢ってくれよ、色男。」


「どうぞ、ハーブティーです。」

 奢る気は一切なかったのでデートを切り上げて帰宅。

 その事にブーブー文句を言うGG。

「それで俺達への頼み、て何ですか?あ、因みにこの一杯しか用意しないので悪しからず。」

「おい、それはちょっと厳しすぎないか?」

 一気飲みしようとした動きが止まる。

「こっちはデートを中断されて気が荒立っている事、分かっていますか?」

「・・・、すいません。この一杯で充分です。」

「それでそろそろ話して下さい。」

 ユーノの催促にGGはハーブティーを半分飲んで話し始める。

「先日、出兵していた第48小隊レスター隊の一兵士が帰兵、救援を要請した。スケルトンの群れとスケルトン・キングを目撃したそうだ。」

「スケルトン・キング・・・、かなりの高ランク魔物ですね。」

「ああ、その報告を重く見た国と軍は大掛かりな討伐隊を結成することを決めた。そしてお前達の招集されることになった。」

「招集って、私達3人が前線で戦うのですか?」

「いいやエリカ。お前達は後方、物資隊だ。この討伐隊は騎士団単独だけでなく、ギルド合同で行われる。前線での討伐は騎士団とAランク以上の冒険者で行い、Bランク~Dランクまでの冒険者は物資運搬と拠点防衛を任される事となった。で、お前達はギルド側からの要望で参加が認められる事となったのだ。どうだ、嬉しいか?」

「光栄ではありますが・・・。二人ともどうする?」

「受けましょうユーノ。」

 そう答えるエリカの横でルシアも力強く頷く。

 二人の意見を尊重、受ける事をGGに伝えた。

「そうか、それは良かった。光栄に思えよ。学生で今回の討伐に選ばれたのはお前達と勇者だけだからな。それじゃあ明朝、ギルドを訪れてくれ。詳しい説明はそこで行われるから。」

 と言い残して立ち去るGG。

「なんか凄い事になったわね。」

 ティーカップを炊事場に運び終えたルシアがしみじみと感想を述べる。

「ああ、そうだな。おかげでデートの中途半端になったし・・・。」

「でも仕方がないわね。」

「うん、ところでユーノ君が私達をどこに連れて行く予定だったの?」

「礼拝堂だよ。礼拝堂の屋上テラスから見渡す景色は絶景だと、耳にしたから。」

「デートスポットとしてよく挙げられる場所ね。特に沈む夕日が幻想的で凄いらしいわ。」

「見たかったな~。」

「また今度行けばいいさ。討伐が終わった後にね。」

 ポケットに忍ばせた物はその時に渡そう、と誓うユーノ。

「そうだね、絶対に行こうね三人で。」

 デート、楽しかったな~~、と思い出に浸るルシア。

 エリカも満足そうにしており、いいリフレッシュになったようだ。

 そんな二人にユーノはデートの最後の思い出を渡すことに。

「俺もとても楽しかったよ、ありがとうルシア。」

 自然な流れでルシアの額にそっと口づけ。

 その時、ユーノが時計の針の音よりも小さな声で何かを囁いたが、二人は全く気付かなかった。

「ユ、ユーノ君??」

 突然の事にテンパるルシア。

 頬に両手を当てて顔の熱を冷まそうとする仕草がまた可愛らしくて愛おしい。

「・・・・・・。」

 一連の流れを横で呆然と流れるエリカ。

 思考が停止しているのを幸いと彼女の元へ歩み寄る。

「ちょっとユーノ、待って。」

「ありがとうエリカ。君とデート出来て幸せだったよ。」

 ルシアにしてあげた事をエリカにも行う。

「さぁ、明日は早いし、忙しくなりそうだから早めに寝ようか。」

 これにて解散、と手を叩くユーノに、

(こんな事されてすぐに寝れる訳ないでしょう!)

(ユーノ君のイジワル。)

 と心の中で抗議する2人であった。

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