理不尽な怒り
(くそ!どうしてこのオレがこんな目に。)
馬車の中で悪態を吐き散らしているのはダート。
ユーノとの決闘後、全ての悪事が知れ渡り家から勘当。
姓を剥奪されて現在、辺境の地へと追放されている途中である。
「こうなったのも全てアイツのせいだ。許さない、絶対に許されない。」
反省の色は一切なく彼への恨みつらみ、そして怒りが無限に沸き上がる。
「今に見ていろ。絶対に復讐してやる。」
顎の痛みを堪えながら恨み節を募らせるダートが向かわされている場所は帝国から東端の位置にあるカルフィスナ地方にある孤島。
土地の殆どが荒野で資源や草木が乏しい枯れ果てた土地として有名な場所である。
「だがまずはここから逃げ出さないと・・・。」
カーテン越しから外を伺う。
馬車の周りには数人の騎士の姿が。
彼等はダートの父親が手配した者達でダートの護衛と逃亡阻止の為、隊列を成している。
帝国を出発して早4日。
監視の目が厳しく抜け出す手立てを見出せずにいた。
(くそ!このままではカルフィスナに着いてしまう。あそこに到着したらもう終わりだ。)
ダートが送られる孤島は連絡船が月に1本しか無い、監獄と呼ばれる場所。
連絡船に乗せられるまでに逃亡しなければ、詰んでしまうのだ。
(どうすれば逃げ出せる?)
ダートの手元には武器はおろか、金すらもない。
「何でこんな事に。オレがこんな目に遭わないといけないんだ。くそ!」
癇癪で反対側のベンチを蹴り上げる。
「うるさいぞ!大人しくしていろ!」
隣を同行していた騎士が窓を強く叩き黙らす。
「クソクソクソ、ふざけるなよ。このオレが、帝国騎士団の将軍になるはずのこのオレがどうしてこんな目に・・・。全てアイツのせいだ。許さないぞユーノ=トライシア!!」
「おい!!」
またしても窓が叩かれる。
罵倒を浴びせられる覚悟をしたダート。しかしそれは違った。
「今お前、なんて言った?」
「あ?」
「今お前、ユーノ=トライシアの名前を叫んだよな?」
扉の向こう側から顔を覗かせた騎士の名はゴルドー。
入試の実技試験でユーノに顔面を蹴らせた試験官であった。
彼は試験時の横暴な態度が明るみになり、小隊長から降格。
帝国からカルフィスナ地方の往復便の護衛兵と成り下がった。
いわば左遷である。
「そうかお前もユーノ=トライシアに因縁があるのか。」
馬の休息の為に野営中。
他の騎士達を目を掻い潜るように物陰でお互いの身上話を報告しあう。
「アイツのせいで俺は降格、左遷だ。やってられねえよ。」
「オレもアイツのせいで勘当だ。人生を狂わせられた。」
「・・・。」
「・・・。」
固い握手。同志に巡り会えた瞬間である。
「なあ、ゴルドーさん。ちょっと相談があるのだが。」
「なんだ?」
「オレをここから逃がしてくれよ。」
「何!?いや無理だ。お前を逃す手引きをしてみろ。それこそ終わりだ。」
「なあゴルドーさん、考えてみろよ。左遷で出世の道も閉ざされ、外れの役回りをさせられて。アンタはそれでいいのか?」
ダートの囁きに口を噤むゴルドー。
今の立場に不満がある事は分かっていたダートは彼を仲間に引き抜きを目論んでいた。
「こんな先のない仕事よりも面白おかしく生きた方が賢いと思うぞ、オレは。」
「・・・・・・。」
腕組みして考え込むゴルドー。
脳内で天秤が左右に揺れる。
「オレはここを逃げ出し、ユーノのヤロウに復讐するつもりだ。」
「殺すのか?」
「いいや、ただ二度と動けないようにしてやるのさ。そしてエリカを奪い返す。」
「エリカ・・・、お前の元婚約者か。」
「ああ、愛想は一切ないが、身体だけはいいオンナだ。」
「ほぉ~。」
今まで一文字だったゴルドーの口元が緩んだのを見逃さなかったダート。
妙案を思いつく。
「知っているか?ユーノにはエリカの他もう一人オンナが傍にいる。なかなかの美少女で学園ではかなり有名だ。」
「魔術科にかなりの美少女が入学した話なら耳にしたが、もしかしてそのオンナのことか?」
「ああ、そうさ。小柄だがカラダは極上ものさ。」
デェスチャーでルシアの身体つきを伝える。
「どうだ?アイツの動けなくして、その目の前で二人を犯してやるのは。」
「そいつは・・・・・・、最高だな。」
邪悪な笑みを浮かべるゴルドー。
それを見たダートは占めたとほくそ笑む。
「くくく、楽しみだぜ。地面に這いつくばるアイツが悔しがるザマが。服を引き剥れ泣きながら犯されるエリカ達が。」
「そして最後は貢ぎ物にしてやろうぜ。ハハ、楽しみだ。」
「よし交渉成立だ。オレをここから―――。」
「いや、今はまずい。」
途端冷静になるゴルドーに詰め寄る。
「いいか、落ち着け。今お前には何人もの騎士が周りにいると思う?20人以上だ。」
「そ、そんなにいるのか!?くそ、親父の策略か!」
「いや、ただ別小隊と合流しただけだ。この先で魔物の群れらしきものを目撃らしい。」
チッ、自分の運の無さに舌打ち。
「だが安心しろ。彼等とはもうすぐ別れる。お前を逃すのはその後だ、どうせなら追手がない方がいだろう。」
「そうだな。」
「なら大人しくしていろ。必ず逃がしてやる。その代わりに―――。」
「分かっている。オンナは分けてやるさ。」
不適な笑みを浮かべ合い、二人はそれぞれの立ち位置へ戻って行った。
「レスター隊長、少しよろしいでしょうか?」
「フィリップ副隊長、どうしたのかね?」
隊の先頭にいたレスターに話しかける。
「少々小耳に挟みたい情報が。」
「話せ。」
「先程の休息時に護衛兵の一人が護衛者と何かしら話している所を見かけまして。人目を気にしている素振りがありましたので一つご報告を。」
「なるほど。」
第48番小隊長のレスターは細かすぎる事で有名。
小さな綻びはやがて大きな損傷を招く、を信念としており、部下には些細な事でも逐一報告するよう指導されている。
「その護衛兵の名は?」
「ゴルドーです。先日降格により護衛兵の任に就いたばかりです。我々の隊には直接関係はないかもしれませんが、少し気になりまして。」
「ふむ・・・。」
顎を撫でながら思考を巡らす事20秒。
「フィリップよ、何人か見繕い別れた後も密かに尾行させなさい。後我が隊全員にその事を通達するように。」
「かしこまりました。」
もう暫くで別行動になるが、自分達へ悪影響をもたらす可能性は無きにしも非ず。
こうしてゴルドーは48番隊から注意深く監視される立場となった。




