パーティ結成
「今日のこの時間はグループ決めを行う。」
「グループ決め?」
GGの発言に色めき立つクラスの中でただ一人ユーノの首を傾げる。
「パーティメンバーの事よ。入学時に先生が説明した事、覚えていないの?」
「あ~、そういえばそんな事言っていたな。」
「全くもう。」
ユーノとエリカの会話が耳に届いたのかGGが改めて説明をする。
「いいか。知っての通りこの学園は試験とこのグループで獲得したポイントによって成績がつけられる。ポイントは学園やギルドからの依頼を達成した際に各個人に分け与えられる。つまりこのグループ決めは今後を学園生活の上で極めて重要だという事が理解できただろう。グループの人数は3人以上。同クラスのみで作ってもらう。あとは自分達で決めろ。」
「3人以上という事はクラス全員でもいいのか?」
「問題はないわ。ただデメリットが大きいわ。」
「デメリット?」
「依頼で得たポイントはメンバーで山分け。人数が多いと得るポイントが少なくなるのよ。」
「なるほどね。他クラスとグループを組んではいけない理由は?」
「昔、下位のクラスの生徒が何もせずにポイントだけ獲得していて、それでグループ内で揉めて大問題になった事があるの。ところでルシア、あなたはさっきから何をしているの?」
ユーノとエリカが話している間、ルシアは黙々とペンを走らせていた。
「えっと私とエリカちゃんとユーノ君。リーダーはユーノ君でいいよね。」
ルシアが記入していたのは先程GGが配っていたメンバー表。
とても見やすく可愛らしい字でユーノ、エリカ、ルシアの順番で名前が記されていた。
「私は構わないわ。」
「俺でいいのか?」
3人で組む前提で話が進む。
「ええ、私達の中で一番実戦経験があるのですから。村にいた時は毎日のように狩りにしていた事、兄さまから聞いたわよ。」
「それは事実だけど、狩りは一人でしていたから指示出しとかは自信ないぞ。それでもいいのか?」
「構わないわ。」
「私も大丈夫。じゃあ提出してくるね。」
「なるほど、お前達3人か。いいんじゃないか、お前達ずっと一緒にいるからな。」
澱みない動きで承認の判を押すGG。
(おいアイツ、エリカとルシアと組んだぞ。)
(学年一可愛いと言われているルシアちゃんと組むなんて羨ましすぎる!)
(最近、エリカの物腰が柔らかくなって人気が出てきたんだよな。元々美人だったけど前まではしかめっ面で近寄りがたい雰囲気だったのに。)
ヒソヒソ声で話す男子大多数のFクラス面々。
大半はユーノに対しての妬みとルシア、エリカの容姿に対する評価。
しかし、その中に批評の声が混じる。
(でもあの2人、容姿しか取り柄ないだろう。)
(わかる。『名折れ』のエリカとは組みたくないよな。)
(ルシアは可愛いけど、パーティとなると・・・。『カカシ』だしな。)
魔術科の生徒はルシアの事を『カカシ』と証する理由はただ一つ、彼女は攻撃魔法を使えないから。
魔術に関する授業は殆どが攻撃魔法に関する内容で攻撃魔法が一切扱えないルシアはFクラスの中でも劣等生の立ち位置。
常に端の方で佇んでいるその様を『カカシ』と見立てて見下されているのである。
(ルシアって攻撃魔法が一切使えないからな。正直言って足手まといなんだよなぁ。)
(防壁魔法は使えるらしいけど、それだけじゃあな。)
(お荷物二人をよくパーティに入れたなアイツ。)
(成績よりもオンナを取ったんだろう。)
本人達には聞こえていないと思っているのだろう。
好き放題言い放つクラスメイトにユーノはあからさまにため息一つ。
そのため息が自分のせいだと思ったルシアが頭を下げる。
「ごめんねユーノ君。エリカちゃん。」
「ルシアが謝る必要はないよ。」
「そうよルシア。勝手に言わせておけばいいのよ。」
「エリカの言う通りさ。彼等はただ僻んでいるだけさ。」
ルシアとエリカの頭を優しく撫でる。
途端、ルシアの沈んでいた表情に明るさを取り戻すその横でエリカが一言。
「何で私も撫でるのよ。」
「いや、なんか無理しているように見えたから。嫌だった?」
「イヤとは言っていないでしょう。」
否定されなかったのでそのまま続けると満更でもない表情に変わるエリカ。
(二人は容姿端麗だけではないのに。全く見る目がないな。)
心の中でほくそ笑むのであった。
午後は模擬戦。
午前中に決めたグループ同士で戦い、各々の動きや相性などを確認する事が目的となっている。
なので早速作戦会議。
「まずは互いの把握を行おう。何が出来るのかを共有していきたい。」
「じゃあ私から。」とエリカが率先。
「と言っても私は剣のみよ。」
エリカは『名折れ』という汚名返上の為、両親の目を盗み練習を励んできた。
その為、剣以外に時間を割くことができなかったのである。
「なるほどね。ルシアは?」
「私は防壁魔法と回復魔法だけ。」
「ならエリカが前衛でルシアが後衛に控えるフォーメーションにしよう。」
エリカにゲイ・ジャルグの剣を渡す。
「そして俺はエリカの少し後ろに待機―――ルシア?」
落ち込んでいるルシアに声をかける。
どうやらグループ決め時に耳にした『カカシ』の件を思い出したようだ。
そんな彼女にユーノは真っ直ぐ眼を見て訴えかける。
「いいかいルシア、君はこのチームの要だ。君の防壁魔法と回復魔法は随一。誰にも負けない。だから自信持って。」
「そうよルシア。多分私はあなたにたくさん助けてもらう事になるわ。一緒に頑張りましょう。」
ユーノとエリカの励ましにルシアの顔から不安は消えた。
「でもわかっていた事だけど、弓や遠距離からの魔法攻撃にどう対処するかがカギになりそうね。」
「その辺は気にしたくていいよ。俺、魔法扱えるから。」
「「え?!」」
何気ない発言に眼を丸くす女子二人。
「ちょ、ちょっと待ってユーノ。あなた魔法扱えるの?!」
「一通りね。」
「ユーノ君、凄い。」
素直に驚くルシアと感嘆を漏らすエリカ。
「と言う事だから俺は遊撃で。指示は一応俺が出すつもりでいるけど、何かあったらどんどん言って。常に周りを意識するように。」
「わかったわ。」
「うん。」
「お~い、お前達の番だぞ。用意はいいか?」
ユーノ達が対する相手はアークを含めた騎士科3人と魔導科1人の計4人組のグループ。
GGが「始め!」の合図に先行したのは相手の方。
(エリカに盾を持った生徒一人。俺に二人か。)
「深追いはするな。相手は『名折れ』だ。勝手に自滅する。」
「わかってるぜ。」
全身を隠せるほどの大きな盾で牽制する生徒――キール。
「なるほど、前衛で足止めして、後衛からの魔法攻撃で仕留める戦法か。」
「その通りだ。お前さえ抑えれば後は何もできない二人のみだ。」
アークの後方で杖を掲げ詠唱する男子。
「絶対にここを通さないぞ。」
二人の連携はそれ程悪くなく、上手くユーノを抑える。
「アーク!」
後方の魔導科の男子生徒が名前を呼ぶ。
それが合図だった。
「きゃっ。」
キールの盾を使った突進でユーノがいる方へ飛ばされるエリカ。
同時にアーク達は後退。
「ライトニング・ボルト‼︎」
杖から放たれた雷は上空へと駆け上がりユーノとエリカ目掛けて落ちる。
(前衛が足止めして後ろから中級魔法ではかなりの威力があるライトニング・ボルトで仕留める戦法。初めてにしては中々の連携だ。)
巻き上がる砂煙を身に受けながら戦況を見守っていたGG。
雌雄を決したと判断した腕が途中で止まる。
薄くなる砂煙の向こう側に無傷のユーノ、エリカの姿を確認したからである。
「二人共、大丈夫?」
「ええ助かったわルシア。」
そう、ルシアの防壁魔法が二人を守ったのである。
「嘘だろ、あの『カカシ』が俺の魔法を完全に防いだだと。」
(なんだ、彼はルシアの防壁魔法の強固さを知らなかったのか。)
「怯むな。もう一度だ!」
アークの叱咤激励で相手側の士気が高まる。
「大丈夫だ。お前なら出来る!自信を持て!」
「わ、わかった。」
再び詠唱を始める。
次こそは仕留める、という意識が高かったのだろう。
詠唱に意識し過ぎて無防備な状態をユーノは見逃さなかった。
「射貫け、ファイヤーボール。」
左手から放たれた攻撃は魔導科の男子に直撃。
一撃で戦闘不能となった。
「ルシアの事を『カカシ』と馬鹿にする割には君も大概だよ。」
「っ!プランB。」
驚くアーク。だがすぐに我に返り、指示を出す。
「ちゃんと後衛が倒された時を作戦も考えていたのか。感心感心。」
今度はキールがユーノに、他の二人がエリカと対する。
相手の狙いはいち早くエリカを潰し、三人がかりでユーノを倒す作戦のようだ。
「彼女の元へは絶対に行かせない。」
キールの役目はユーノがエリカの応援に行かせない事。時間を稼ぐ魂胆である。
「そのつもりはないよ。」
「??」
ユーノの視線はエリカへ向けられる。
「君なら出来るだろう、エリカ。」
「もちろん!」
アーク達の猛攻を防ぎながら答えるエリカ。
(ユーノが期待してくれている、私に。絶対に応えてみせる!)
誰もが『名折れ』と呼び、蔑む中でただ一人自分の事を信じてくれた彼の為に!
この想いがエリカに勇気を与える。
「くそっ。何で折れない。いつもならすでに折れているのに。」
「私は負けない。絶対に!」
アークがエリカを引き付けている隙にもう一人が背後へ回り込み剣を振り下ろす。が、エリカは瞬時に反応。
剣で弾かれた拍子にバランスを崩す相手。
その隙をエリカは見逃さない。
「もらった!」
「させるか。」
アークが味方を助けようと割って入る。がエリカに向けられた剣は彼女に当たる寸前、透明な壁―――ルシアの防壁魔法が行手を阻む。
「くそっ!またかよ!―――っ!」
エリカは袈裟斬りからの回転斬りで瞬く間に二人を倒した。
「やった・・・。」
勝てた喜びに浸るエリカ。
しかしまだ相手が残っている事を思い出し、ユーノの方を向く。
「お見事!」
ユーノはすでにキールを倒していた。
盾の隙間を縫うように足払いを仕掛けて転ばせ、倒れた相手の喉元に棍を突き立てていた。
これによりユーノ達の勝利が決まる。
「やったねエリカちゃん、ユーノ君!」
二人の元へ駆け寄ってくるルシアの弾む声。
三人のハイタッチの音が訓練場に響き渡った。




