エリカの身に起きていた事実
(来ちゃった。)
十数人が一斉に入れる程の大きさはある浴室にて一人シャワーを浴びるエリカ。
シャワーのお湯がエリカのハリのある肌に当たり滴り落ちる。
(私、ユーノの家に来ちゃった。)
「今夜、エリカを俺の家に泊まらせて下さい。」
ユーノの提案に両親は大賛成。
瞬く間に話が進むことに一人取り残された感があるエリカ。
戸惑いと混乱でその後の昼食の味も分からず、流されるままユーノの家へ。
「この数日、心休まらなかっただろう。用意は出来てるからゆっくり寛いで。」と促されるまま浴室に案内され現在に至る。
この家に着いた時から変に緊張、心臓の鼓動でシャワーの音が耳に届いてこない。
(私をお風呂に・・・。つまりそういう事だよね。きっとこの後・・・。)
寝室まで抱き運ばれ、一糸纏わない自分をベッドに押し倒すユーノを妄想。
反射的にシャワーの温度を下げ、身体に帯びた熱を冷ます。
(でも不思議、昨日まであれだけ男性に抱かれる事を嫌がっていたはずなのに・・・。やっぱり相手がユーノだから?)
ダートや貴族の時の抵抗や嫌悪感は全くなく、それどころか抱かれてもいい、と願望が湧き上がる。
―その男好みの身体で誘惑しなさい。―
母親から常々言われてきた言葉が脳内に反芻される。
(お母様にはよく言われてきたけど、本当にそうなのかな?普段から鍛えているから見せれない身体ではないと思うけど。)
太腿から臀部、腰のくびれと指でなぞる。
(私はルシアみたいに可愛くもないし、胸だって。)
自分の胸を触りながら脳内のルシアと比べて悲観。
しかしそれはルシアのがかなり大きいだけであってエリカも人並み以上の大きさはある。
「ユーノは私の事―――カラダを気に入ってくれるのかな・・・・・・。」
エリカの想いが浴室に反響。
そんなことを考えていたらついつい長湯。
浴室を出たエリカは少しのぼせていた。
「ずいぶん長湯だったね。休めた?」
「え、ええ。」
風呂上がり、普段来ている寝間着姿で談話室へ赴くエリカ。
顔が少し赤いのは風呂でのぼせたのと母親がこっそり忍ばせた際どい肌着を発見したせいである。(もちろん今はつけていない。)
「どうぞ。」
ダブルソファーに腰掛けたエリカの前にハーブティーが淹れられたカップを置く。
「ありがとう・・・。あ、おいしい。」
一口付けた瞬間、口の中に広がるハーブの香り。口当たりもよく、飲みやすい。
緊張が解け、ほっと心が落ち着く。
「気に入った?このハーブは俺の村で採れた物なんだ。用意して良かった。」
「もしかしてユーノが淹れてくれたの?使用人は?」
「雇っていないよ。だから今ここにいるのは俺とエリカだけさ。」
二人っきりを意識して、また緊張してしまうエリカ。
脳内にユーノとまぐわう光景を再び妄想。
そんなエリカに対してユーノはエリカの隣に腰を降ろし、腕を回して優しく肩を抱く。
その動作はごく自然でエリカの肩を何度もフェザータッチ。
心の中で悶えるエリカ。
(弄ばれてる。私、ユーノに弄ばれている。)
触っているか否かのぎりぎりの攻め。
少しでも手に力を込めれば簡単に服を脱がせる事ができるのにあえてしない。
(イジワル。私の口から言わせようとしているんだわ。)
羞恥心で身体を震わすエリカ。
耐えようとするが我慢出来ず、残ったハーブティーを一気飲みして覚悟を決める。
「ユーノ!」
「ど、どうしたのいきなり。」
「わ、私、覚悟はできたわ。だ、だから・・・。」
「覚悟って?」
(ダメ・・・、これ以上は―――。)
恥ずかしくて悶えるエリカ。
ユーノは不思議そうに首を傾げること暫し。
そして何かに気が付いた途端、無邪気な悪い笑みを浮かべる。
「もしかしてエリカ、俺とまぐわう事を期待してた?」
図星。
反射的に距離を置こうとするが、ユーノはそれを許さない。
力強く抱き寄せ、明後日を向く顔を自分の方へ向かせる。
「そうか、それはとても魅力的な提案だね・・・。」
ユーノの指がエリカの耳裏から顎のラインをなぞり唇へ。
肩を抱いていた腕は撫でる手つきで背中から腰に移動。
「嬉しいよエリカ。君から俺を求めてくれることに。ああ、このまま押し倒したい。でも駄目なんだ。」
「え、何で・・・?」
「それはね、君に大切な話があるからさ。」
いつにもなく真剣な表情。
「気を強く持って聞いてほしい。」
桃色の羞恥心を取り払い、一抹の不安ながらも真顔で頷いたエリカにユーノは重大な発表をする。
「実は君の両親は憑りつかれている。」
「今日という素晴らしい日に乾杯。」
「乾杯。」
高級ワインが注がれたグラスのぶつかる音と男女の優雅な笑い声。
「エリカがまさかあ英雄の息子と恋仲になるとは。」
「英雄の血筋となればかなりの箔。ウィズガーデン家の繁栄間違いなしですわ。」
「あはははは・・・・・。」
「おほほほほ・・・・・。」
上品な笑い声。しかし、それは徐々に奇怪じみた声に変わり始める。
「カカカカカカ。」
「ケケケケケケ。」
「エリカノ苦シム顔、サイコー。」
「エリカノ悲シミ、ゴチソウ。」
「カカカカカカ。」
「ケケケケケケ。」
猟奇的な笑い声を響かせる二人。窓から差し込む月の光がその笑みの狂気をさらに惹きたてる。
「ケケケ、イイノカ?」
「カカカ、何ガ?」
「エリカヲアノ男ニ渡シテ。アレハワレワレノ大事ナ餌ノハズ。」
「構ワン。エリカノ負ノ感情ハワレワレノ御馳走。ダカラモット極上ヲ味ワイタクナイカ?」
「極上?」
「ソウダ。至福ノ絶頂カラ叩キ落トサレタ時ノ絶望ハ極上ダ。」
「ナルホド。ケケケ。」
「カカカカカカ。」
二人の狂った高笑いが館中に響き渡る。
「ソレデ、ドウスル?」
「惚レテルアノ男ヲ殺ス。」
「イイナ。目ノ前デ殺ソウ。」
「ソウシヨウ。エリカノ絶望シタ顔が目ニ浮カブ。」
「最愛ノ人ヲ失ッタ絶望ハドンナ味カナ。」
「楽シミダナ。ケケケケ。」
「カカカカ。」
「ユーノ様に危害を加えようとするとは・・・。許すまじ行幸ですな。」
「何奴!」
見知らぬ声が耳に届き、血相が変わる二人。
辺りを見渡すが姿は見当たらない。
「曲者ダ。デアエ!デアエ!」
甲高い金切り声で使用人を呼ぶが反応なし。
「無駄ですよ。貴方達が操っている使用人達は全員無効化させていただきました。」
屋敷内の至る所に倒れている使用人。
「ナ、何ダト!」
「誰ダ!姿ヲ見セロ。卑怯者メ。」
「取り憑きの貴方達に言われたくありませんね。」
次の瞬間、二人の影から黒い触手らしき物が何本も飛び出し、体中に巻きつきて拘束。
「コ、コレハ影縛り!」
抗う二人の前方――部屋の影からガウルがぬるりと姿を見せる。
「捕らえましたよ、タラジム。」
タラジムはアンデットやレイズの一種。実体はなく人に取り憑いて周囲の人間を不幸にさせて負の感情を喰らうタチの悪い魔物である。
「ユーノ様を殺そうとするとは言語両断。このガウルが裁きを下しますぞ。」
「コノ狼モドギガ生意気ナ。」
「マ、待テ。今ガウルと名乗ッタカ?マサカ『尻拭いのガウル』カ?」
「はぁ~、未だにその呼び名で呼ばれるとは。遺憾ですな。」
大きなため息を零しつつ、部屋の四隅へと歩き始めるガウル。
それはガウルが三大魔王に仕えていた時代、後先考えないデルタ達の尻拭いに奔放している事から付けられた二つ名である。
「さて、これからアナタ方を除霊させてもらいます。」
「ケケケ、除霊ダト。狼モドギニソンナ事、出来ル訳ナイ。」
「闇ノ使イ、シャドーウルフニハ光属性ノ除霊魔法ハ使エナイハズダ。」
「確かにその通りですな。」
四隅に透明の小さな水晶を置きながら自分語りを始める。
「このガウルが以前に仕えていた三大魔王の方々は人使いがかなり荒くてですね。出来ない事でも平然とやらせるのですよ。それも出来るまで何度も、何度も・・・。」
言葉の節々に込められる怨念。
ガウルの苦労がとてもよく伝わる。
「まあ、そのおかげでいろんな事ができるようになったのですがな。」
最後に部屋の中央に水晶を置いて準備完了。
前足を天に掲げ呪文を唱え始める。
「レイ パルス イルス オルガ」
ガウルの声に水晶が反応。眩い光を放ち始める。
その光は部屋だけではなく、外にも同様の光が。
ガウルは予め敷地内の各場所に水晶を設置していたのだ。
光は敷地全体を取り囲む。
「ヤ、ヤメロ!」
慌てふためくタラジム。
除霊魔法が発動したことで身の危険を感じたのだ。
白く眩い光が取り憑くタラジムの身体を蝕み、消滅させていく。
「イ、嫌ダ。マダ死ニタクナイ!!」
「これで終わりです。消滅しなさい。」
前足を力強く叩いたのが引き金となり、除霊魔法は発動。
タラジムは断末魔の叫びを残し、この世から完全に消えた。




