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お見合い

「似合っているわよエリカ。」

「ありがとうございます。」

 エリカの返事は風が吹けば消えてしまうほどのか弱い声。

「後はその顔ね。何とかならないかしら?」

「化粧を濃くすれば隠せるかと。」 

「じゃそれでお願い。全く困った娘ね。」

 母親の愚痴をBGMにメイドが手早くエリカに化粧を施す。

 幽閉されて数日。

 何度か外へ連絡を試みるも日夜問わずの監視を潜り抜ける事ができず迎えた当日。

 エリカは心身共に衰弱していた。

 悔しさと悲しみで泣き続けた結果、眼は充血。目尻も赤く腫れており、それを今化粧で誤魔化している最中である。

「これでどうでしょうか奥様。」

「ええ素晴らしいわ。ほらエリカ、ご覧なさい。」

 母親に促させ鏡の方を見るとそこには高価な装飾品とドレスで縛られ、顔を白く塗り固められた自分の姿が。

 本当の自分を否定され、周囲の都合で作られた仮面を被るその姿に乾いた笑いが小さく漏れる。

 母親もメイドもエリカの表情や心情など気にも留めず、操り人形のように意のままに操ることしか考えていない。

「さて、もうすぐあの御方が来られるわ。応接室に向かいましょう。」

 両端には男性の使用人が数人。

 逃亡を阻止するための配置だが、エリカには逃げ出す気力は残っていなかった。

「おお来たか。」

 応接室にはすでに父親が来ており、着飾ったエリカの姿に満足そうに頷く。

「エリカ、お前はただ黙って座っていろ。あの御方とは俺達が話す。」

「二人の時間を後ほど用意します。その時に自分のお部屋へご案内しなさい。後は言わなくてもわかるわよね。」

「いいか、お前はこの家の繁栄の為、あの御方に身体を売るのだ!絶対に気に入られるのだぞ。」

「媚びを売り、私達にお金を落とさせなさい。」

 両親の言葉の裏から「クルシメ、フコウニナレ。シアワセニナレナイ。」と幻聴がボロボロの心に塩を塗る。

 屋敷中に鳴り響く来客を知らせるチャイム。

 セバスチャンが玄関へと向かう。

「これでウィズガーデン家は安泰だな。」

「そうですわね。」

 笑いが止まらない二人。

 死んだ眼で地面をただ見つめるエリカの耳に聞こえる微かな騒音。

「何だ?騒々しい。」

「何かしら?」

 両親の笑い声が止まる。

 騒音の正体はセバスチャンの叱責。

「困ります。お帰り下さい。」

 普段物静かな彼にしては珍しく声を荒げており、その音は徐々に大きくなる。

 応接室に近付いてくる足音。そして、勢いよく開かれる扉。

「何だキサマは!」

 怒鳴り声を発する父親。

 何気なしに扉の方を見上げたエリカの瞳に光が宿る。

「どうもこんにちは。今日はとてもいい天気ですね。」

「ユ、ユーノ・・・?」

「やあエリカ、久しぶり・・・ってどうしたの、その恰好。」

「え?あっ、ヤダ、見ないで。」

 ユーノに言われ、今自分自身の姿に気付き、背を向ける。だが、ユーノは傍に寄り、そして無理矢理視線を合わせる。

「宝石がたくさんの派手なドレスに濃い化粧・・・、酷いな。エリカの良さを全て消しているじゃないか。」

 ユーノはエリカの眼が赤く腫れていることに気付いた。

「ごめんエリカ。俺が不甲斐ないばかりに君を悲しませてしまった。本当にごめん。」

「ユーノ・・・。」

 彼の言葉がエリカの心の傷をそっと撫でる。

 その優しさに眼尻に涙が溢れる。

「ほら、これで涙と化粧を拭って。そしていつもの君を俺に見せておくれ。」

 胸ポケットから真新しいハンカチを手渡す。

「キ、キサマ、何を勝手な事を!何者だ?」

「はじめまして。俺の名前はユーノ=トライシアと言います。本日お伺い致しましたのはエリカとの交際を認めてもらう為に尋ねさせてもらいました。」

「ユーノ=トライシアだと!そうか、キサマが娘に余計な事を吹き込んだのだな!」

「アナタとの交際など認めるはずがありませんことよ!」

 父親の怒りと母親の金切り声がユーノへ向けられる。

「今すぐ帰れ!エリカはもうすでに相手が決まっておるのだ!その御方が来る前にさっさと消えろ!」

「その人なら来ませんよ。」

「な、何だと?」

「昨日、俺がその人のお宅に伺い婚約解消を頼みました。快く承諾されましたよ。」

 快く、強調するユーノ。

「キサマ!!!一度ならず二度も我が家の繁栄を邪魔しよって・・・。」

 握り拳をなわなわ震わす父親。

 彼の怒りは頂点を軽く超える。

「キサマの目的は何だ!」

「俺の目的はただ一つです。エリカとの交際を認めてもらいたい、ただそれだけです。」

 深々と頭を下げて誠意を見せるユーノ。

「エリカと出会ったのはこの国に来た時です。泥棒を捕まえようと真っ先に行動を示した彼女の姿に好意を抱きました。そしてクラスが一緒になり、交流を持つ中でその想いは大きくなりました。俺はエリカにずっと傍にいてほしい。そう思っています。お願いです。交際を認めては戴けないでしょうか?」

「ならん!」

「認める訳ないでしょう!」

 即答。

「いいか!エリカはウィズガーデン家の繁栄のための駒だ!キサマみたいなどこの馬か分からん田舎者に渡す訳ないだろうが!」

「そうですわ。聞けばエリカに剣の才能があるなどと噓を吹き込んだそうですね。なんて腹立たしい。」

「そうだ!『名折れ』という不名誉な二つ名を持つ落ちこぼれの出来損ないにそんな才能などある訳なかろうが!」

「この娘はね、私達の為に有名貴族に嫁ぎ、ウィズガーデン家を潤させる義務があるのよ。その為だけに価値があるのですから!」

「わかったなら今すぐ出て行け!」

「エリカ、こんな男を誑かす暇があれば、もっと裕福な大貴族を誑かしなさい!その身体はその為のモノでしょう!」

 両親の罵詈雑言に耐えれず反射的に耳を塞ぐエリカ。

 一方のユーノは表面上は愛想を振舞っているが、心の内は怒りに燃えていた。

(ユーノ様、落ち着いて下さい。ここで事を大きくしては作戦が。)

(大丈夫だよガウル。俺は落ち着いているよ。)

 影の中で宥めるガウルに対しても平常心を繕う。

(それよりも作戦通りに進めて。)

(御意。)

「どうしても認めてくれないのですか?」

「当り前だろうが!しつこい、誰か!コイツを家から叩き出せ!衛兵に不法侵入者として逮捕させろ!」

「あの、旦那様・・・。」

「何だ?!この忙しい時に!?」

 席を外していたセバスチャンが申し訳なさそうに用件を伝える。

「実は旦那様にお客様が。」

「追い返せ!今それどころではない!」

「ですがその・・・。」

「失礼するよ、ウィズガーデン当主。」

 セバスチャンの言葉を遮り、現れたのはアルベルト。

 『防衛の鬼』として国内外で有名な彼の登場にウィズガーデン夫妻は唖然。がすぐさま体裁を整える。

「これはこれはアルベルト将軍ではありませんか。一体どうされたのでしょうか?」

「すまんな、急な訪問で。都合が悪かったかな。」

 周囲を見渡し(あからさまにユーノの方は見ない)話しかけるアルベルトに対して「いえいえ、そんなことはございません。」と答えるエリカの父親。

「今日窺ったのは他でもない、御息女――エリカ=ウィズガーデンに用があったのだ。」

「エリカに、ですか?一体なぜ?」

「そう警戒せずともよい。実はな、ダート=ナタクバードの使用人がエリカに対して過去、違法な魔法を施した、という供述をしてな。その当時の事を伺うため、参上した次第なのだ。すまんが少しの時間、エリカと話させてもらえないだろうか?」

「そういう事なら全然構いません。」

「そうか、では・・・。」

 とここで初めてユーノを見つけた素振りを見せるアルベルト。その仕草はあまりにも不自然。

「おお、ユーノじゃないか!」

「こんにちは、アルベルトさん。お久しぶりですね。」

 棒読みのアルベルトに対して、自然に返事をするユーノ。だがその言葉の裏には「もっと自然に接して!」と圧が込められていた。

「元気にしているか?学園の方はどうだ?」

「ええ、楽しく過ごさせてもらっていますよ。アルベルトさんのおかげで。」

「それならよかった。困ったことがあればどんどん頼ってくれ。」

「ええ、そうしますね。」

(あっ、これは今、余計な事を言ったか?)

 しめしめ、と含みのある笑みを一瞬見せたユーノに失言に気付くアルベルト。

 今後、また無理難題なお願い事をされるのではないか、と肝を冷やす。

(アルベルトさん!)

 ユーノの視線での指摘に我に返るアルベルト。

「(おっと。えっと何だっけ?)時にユーノ、アイツは元気にしているか?」

「父さんの事ですか?ええ元気ですよ。何でも今度、訪れた街の闘技大会に出場する、と意気込んでいましたよ。」

「全くアイツは相変わらずだな・・・。ま、元気ならいいか。一緒に飲みたいから近いうちに尋ねろ、と伝えておいてくれ。」

「はい、わかりました。」

「あの~~~。」

 ユーノとアルベルトの会話が一段落した合間を見て、横から入るエリカの父親。

 彼の行動にユーノは「かかった!」と小さくガッツポーズ。幸い、それを眼にした者はいなかった。

「失礼ですが、アルベルト様。彼をご存じなのですか?」

「ん?ユーノの事か?ああそうだ。ユーノは俺の親友の息子でな。学園に通う際、親友から面倒を頼まれているのさ。」

「し、親友の息子!」

 アルベルトが親友と呼ぶ者はただ一人。

「も、もしやその親友、というのは・・・。」

「ああ、彼――ユーノはゲイツ=オークファルドの息子だ。」

「英雄ゲイツの息子!」

 心底驚いたのであろう。

 腰を抜かさまいと耐えるあまり、変な中腰体勢になる父親。

「エリカ、何故そんな大切な事を私達に教えなかったのよ。」と母親が責めるが、エリカ自身も寝耳に水。両親同様、驚いている。

(私だって知らなかったわ。そうか、だからユーノはゲイツ様の、閃光が使えたのね。)

「所でユーノは何故ここに?」

「エリカとはクラスメイトで。今日はエリカの両親にお話しがあって尋ねたのさ。そうですよね。」

 ユーノの問いかけに唖然と口を開けたまま頷く父親。

「そうかそうか、と話が逸れたな。ウィズガーデン当主よ、エリカをお借りしてもよろしいかな?」

「あ、はいどうぞ。エリカ、行きなさい。私達はユーノ君とお話しがあるから。」

 キサマからユーノ君。

 あからさまに態度を変えた両親に若干の不安を抱きつつ、セバスチャンの案内の元、隣の客室へ。

「それではごゆっくりと。」

 セバスチャンが一礼、部屋から退室。二人っきりとなる。

「あの、いつの事を話せばいいのですか?」

「証言はいらないぞ。事情聴取は嘘だからな。」

「嘘!?・・・、あ、もしかして。」

「気が付いたか。そうだ、俺がこの家を訪れる口実だ。お前さんの両親にユーノの父親のことを教えるためのな。」

「なるほど。でもアルベルトさんがわざわざ来る必要は・・・。」

「ユーノよりも俺の方が信憑性があるだろう。」

「確かに。でも驚きました。ユーノが英雄ゲイツ様の息子だなんて。」

「ま、周囲には隠していたからな。この国で知っているのは俺と後はゲイツのヘマで知られたルシアお嬢ちゃんとリリシアお嬢ちゃんぐらいか。」

「ユーノがその事を隠していたのはもしかして父親のことで色眼鏡で見られたくないからですか?」

「その通りだ。別に仲が悪い訳ではないぞ。すこぶるいい関係だ。血の繋がりがない事を疑うぐらいにな。」

「血の繋がりがない?」

 しまった、という顔を見せるアルベルト。

「ユーノは捨て子でな。森に捨てられていたのを見つけ、ゲイツが面倒を見ていたのさ。」

 両親には黙っておけよ、と忠告に黙って頷く。

「でもユーノらしい。親の栄光に依存しない所とか。それに彼は名誉とかには興味なさそうだし。」

 饒舌に話すエリカ。そんな彼女をアルベルトは微笑ましく見つめる。

「あの、どうかしましたか?」

「いやいや、相思相愛なのだな、てね。」

「え!?」

「ユーノの奴、お前さんを助けるために何ふり構わずだったぞ。何せ自分の父親の名前を使うぐらいだからな。相当お前さんに惚れ込んでいるみたいだな。」

「・・・・・・。」

 顔を真っ赤にして身を縮めるエリカ。

「でエリカお嬢ちゃんよ、改めて聞くぞ。君はユーノの事をどう思っているのだ?」

「・・・好きです。」

 アルベルトの質問に誤魔化す事なく、正直に答えるエリカ。

「お父様から退学を聞かされた時、真っ先に浮かんだのはユーノでした。もう彼と会えない。一緒にいられない。そう考えた時、寂しくて苦しくて。その時に気付きました。私はユーノの事が好きなのだと。」

「そうか・・・。」

 アルベルトの険しい面持ちに自分が何か不手際をしてしまったのでは、と不安になるエリカ。

「おっと、スマン。不安がらせてしまったな。」

「もしかして私はユーノに相応しくないのとか・・・。」

「そうではない。ゲイツはいい意味で放任主義だからな。ユーノが自分で決めた相手なら文句は言わんだろう。」

 アルベルトの返事にホッと胸を撫で下ろす。が、

「ただ約1名、頭ごなしに否定するだろうが・・・。ああ、そこまで心配しなくてもいい。ユーノが何とかするだろう。だがエリカお嬢ちゃんよ、ユーノの側にいたいのなら相当の覚悟を持つ事だな。」

「覚悟、ですか?」

「ああ、俺が今言える事はそれぐらいだ。」

 覚悟とは何なのか?

 答えを求めるが、アルベルトは頑として答えない。

「俺からはこれ以上何も言えん。詳しくはユーノから聞くことだ。」

「わかりました。」

 頷くしかなかった。

「さて、もうそろそろいいだろう。」

 壁にかけられた時計に視線を向けるアルベルト。

 気がつけば小一時間は話していた。

 アルベルトと共に応接室へと戻ると両親はユーノと談笑中。

 部屋を出る前とは違い、和やかな空気が流れている。

「アルベルト将軍、どうでしたか?」

「問題はない。とても参考になったよ。それではこれで。」

 アルベルトはそのまま退室。

 エリカは父親に促され、ユーノの隣に腰掛ける。

 緊張感が伝っていたのだろう、ユーノがエリカの手をそっと握り、安心させる。

「それでは先程のお話し通り、エリカとの交際を認めてくれますね。」

「勿論ですとも。ユーノ君、エリカをよろしくお願いします。」

「エリカ、よくぞ素晴らしい殿方を捕まえましたね。」

 両親の掌返しの態度を見せられ素直に喜べない。だが、ユーノの優しい微笑みに押され、「ありがとうございます。」とだけ答えた。

「それで挙式はいつ行いましょう。」

「その前にこちらから二つほどお願いがあります。」

 話を先に進めようとする父親の言葉を遮るユーノ。

「お願い、ですか?」

 両親の笑顔が引っ込み、不安が漂い始める。

「ええ。そんなに難しいことではありません。一つ目はエリカの復学を認めてほしいのです。」

「それぐらいのことならば。」

 ベルを鳴らしてセバスチャンに即座に復学の手続きをするよう、命令する父親。

「それで二つ目は何でしょう?」

「二つ目もそんなに難しいことではありません。」

 ユーノの申し出は次の内容だった。

「今夜、エリカを俺の家に泊まらせて下さい。」

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