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晩餐

 その昔、この世界には大魔王デルタ・大魔賢者ソプラノス・大魔武王ジーノという大魔族がいた。

 各々強大な力を持つ三名は若き頃に出会い意気投合、共に各地各国を巡っては混乱と迷惑の雨嵐を降り注いできた。

 そんな彼達は『三大魔王』と呼ばれるようになり、長年の間恐れられていた。

 傍若無人。

 自分勝手で身勝手。

 自らの欲を満たす為なら何でもする。

 史上最強で最悪。

 三大魔王の気まぐれな振舞いは時には感謝され、時には迷惑千万。

 それを止めれる者は殆どおらず、多くの国は頭を悩ませて続けられてきた。

 今から16年前、『三大魔王』とイスカディール帝国との全面戦争が勃発。

 イスカディール帝国は多くの国々からの支持や支援を搔き集めて挙兵。その戦いは半年間も及んだ。

 最後は三大魔王は英雄ゲイツに討たれた事で終戦を迎えたのである。


「この度は領民を助けていただいて本当にありがとうございます英雄ゲイツ様。そして申し訳ございません、このような質素な歓迎しか出来ずに。」

「そこまで気を使わなくて結構ですよ。」

 ルシア達を無事に領地へ届けたユーノとゲイツ。

 彼女から事情を聞いた領主がお礼として2人を自宅へと招き、豪勢な食事を用意。

 最初は申し出を断りその場を去ろうとしたが、領主の強引さとルシアの熱烈なアプローチを無碍にすることは出来ず、ご相伴を預かることにしたのだ。

「それに俺はもう英雄ではございませんから。ああ、ありがとうお嬢ちゃん。」

 空いたグラスにお酒を注ぐのは領主の一人娘、リリシア。ルシアの親友である。

「そうなのですか?」

「ええ、ずいぶん前に英雄の地位を返納しています。それに今回の事に真っ先に気付き、いち早く駆け付けたのは息子です。お礼ならユーノに。」と隣で大人しく食事を楽しんでいたユーノの背中を叩く。

「そうでしたか。ありがとうございます。えっと・・・。」

「ユーノです。ユーノ=トライシアと言います。」

 喉に詰まり咽ながら名乗るユーノ。

 ルシアが素早く水を用意してくれたおかげで事なきを得た。

「トライシア?失礼ですが、確かゲイツ様の姓は確かオークファルドだったと記憶しているのですが・・・。」

「ああ、こいつは捨て子なんですよ。その昔、森に捨てられているのを見つけましてね。で、義息子として育てているのですよ。」

「そうなの!?私と同じだ。」

 真っ先に反応したのは頬を少し赤らめているルシア。心なしか少しうれしそうだ。

「ルシア、はしたないわよ。」

「ごめんなさい。」

 リリシアに窘めれ、お茶目に舌を出すルシア。

 実は彼女も捨て子。生まれてすぐこの街の教会に捨てられていたのを神父が見つけ、以後教会で育てられてきた。

 故に同じ境遇のユーノに対して親近感を抱いたのだ。

「ところでお二方は旅の途中のようですが、どちらへ?」

「ああ、俺はサベール国に用がありまして。でユーノは―――。」

「俺はイスカディール帝国へ。ライトザルト学園の入学試験を受けるつもりです。」

 

 イスカディール帝国はこの世界で一番の領土を誇る軍事国家。

 その歴史は長く、建国されてから一度も敵国などに首都が陥落した事がない。

 そしてライトザルト学園は建国時からある名門校。

 世界に名を馳せた騎士や魔導士などを数多くの排出しており、何を隠そうゲイツもライトザルト学園の卒業生である。


「ユーノ君、ライトザルト学園を受けるの?!私達と一緒だ!」

「ちょっとルシア。」

 向かい側に座っていたルシアが身を乗り出してユーノの手に縋ったので、彼の視線は彼女の見事に育った豊満で形のいい胸の谷間へと吸い寄せられてしまい、それに気付いたリリシアがユーノに軽蔑の睨みを利かせながらルシアを引き剥がす。

「ところで領主さん、一つ聞きたい事があるのだが。」

「何でしょうか、ゲイツ様。」

「ルシアお嬢ちゃん達を襲ったゴブリンの事なのだが、あのような事は頻繁に起こるのか?」

 突如ゲイツが切り出した質問はユーノも疑問に感じていた事柄。

 親子は真剣な面持ちで領主の答えを待つ。

「いえ、実はこのような事が起こるようになったのはつい最近のことなのです。」

 領主の話ではあのゴブリン達が姿を見せるようになったのは2ヵ月程前の話だそうだ。

「我が領地は果樹園を営んでおりまして、この郊外にも多くの樹林を抱えています。しかしあのゴブリン達が姿を見せて以降、果樹園に大きな被害を受けておりまして・・・。」

「果実を根こそぎ奪われたのよ。それで果樹園に魔除けの結界を施したの。そしたら・・・。」

「今度はお嬢ちゃん達が襲われた、という訳か。」

「はい。ですがご心配なく。既に帝国に報告しておりまして、数日後には騎士団の方々が討伐に来て下さるそうで。」

「成程な。なら安心だな。」

 満足そうに頷くゲイツ。

 その横でユーノは眉一つ動かさず目の前の食事を楽しむフリをし続けていた。


「ほら、ゲイツ父さん。しっかりして。」

 用意してもらった寝室に泥酔したゲイツを担いで運ぶユーノ。

 長年剣の修業に明け暮れたゲイツの肉体は筋肉の塊。

 泥酔で自力で歩くこともままならない成人男性を16歳になったばかりのユーノは飄々と担いで部屋まで運んできたのだ。

「全く・・・。飲み過ぎないで、とあれだけ注意したのに。」

 ベットの上で大の字で寝落ちしているゲイツに呆れ言一つ。

 ゲイツがこのようになったのは領主から特産品のワインでおもてなしをされた為。

 彼は無類の酒好きで一度飲み始めると、酔い潰れるまで止まらない事がしばしばあるのだ。

 美味しそうに飲むゲイツに気をよくしたのか領主は次々と追加を用意。

 気が付けば酔い潰れた大人2人が完成してしまったのである。

「ほら、水ぐらい飲んで。明日二日酔いで頭が痛くなっても知らないからね。」

 返事は一切ないので諦める。

 最低限の寝支度を施して後は放置。

 用意された部屋へと戻り、そのままベッドに寝転がる。

「それにしても今日は楽しかったなぁ~~。」

 天井見上げながら先程までの出来事を思い出す。

 大人2人が酒盛りに興が乗っている横でユーノはルシア達と食後のお茶会を催していた。

 互いの生い立ちや趣味など取り留めのない世間話をしただけだが、とても有意義なひと時で今でも幸福感に満ち溢れている。

 ルシアの方も同じでユーノの他愛のない話を真剣に、そして楽しそうに聞き入っていた。

(もっと話したかったな~。)

 彼女ともっと一緒にいたい欲望を抱いた時、自分の影へ何かが入り込む感触が。

 ユーノはルシアとのひと時の感想を一旦隅に追いやり、自分の影に声をかける。

「戻ってきたね、ガウル。」

「ユーノ様、ただいま戻りました。」

 ユーノの影から初老の声と共に黄金色の瞳をした漆黒の狼が姿を見せる。

「それで首尾の方は?」

「ユーノ様の命により尾行した結果、ゴブリン達の根城を見つけました。」

「ガウル、よくやった。」

 ガウルと呼ばれたモノの正体はシャドーウルフ―――魔物である。

「ただ気になることが。数は30体程で殆どがメスや老人、子供。若いモノはごく少数。それもかなり痩せておりまして。餓死寸前のモノもおられます。」

「あのゴブリンって確か、グレードゴブリンだよね。一般的なゴブリンに比べて強固な肉体を持つと言われている。」

「はい。グレードゴブリンは山林を住処にしているのですが、何故あのような浅い森に居るのでしょうか?」

「これは何か事情がありそうだね。」

 勢いよく立ち上がると傍に置いてあった棍と剣を装備、出かける準備を始める。

「それじゃあガウル。案内してもらおうかな。君が見つけたゴブリン達の根城へ、ね。」

「御意。」

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