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呪いの本

「なぁユーノ、俺は大人しくしていろ、て言っていたよな。」

「うん、言っていたね。」

「それが何でこんな大事になっているのだ?」

 ダートとの決闘から数日後、アルベルトがユーノの自宅へ訪問。

 本当は経過報告をしに来ただけなのにユーノを床に正座させての説教。

 彼の口から零れる言葉には気苦労の重みが重々伝わる。

「お前さんのおかげで各部署は大混乱だぞ。」

「ふ〜ん。」

「まるで他人事ですな、ユーノ様。」

 アルベルト側にお座りするガウル。

「俺にとっては他人事だからね。でも仕方がないよね。」

 ソファーから見下ろしているはずなのに何故かユーノの方が上の立場にいる錯覚に陥る。

「だってアルベルトさん、2週間経っても進展が一切なかったのだから。」

「いやそれは、まあ・・・、その通りなのだが。」

 調べた結果、マイクの絶縁やエリカの縁談もやはりウィズガーデン家当主が主導で行っており、どこで話がどう拗れたか全く検討つかず、難航していた。

「あのまま待っていてもキリがないし、エリカの事もあったからあれ以上は待てないよ。」

「だからって、あそこまで大事する事はないだろう。ゲイツの技まで使いよって。隠蔽するこっちの身にもなってくれよ。」

「仕方がないよ。だって許せなかったから。アイツはエリカだけじゃなくルシアまでも手籠めにしようとしたのだからね。」

 ユーノの発言にガウルの毛は逆立ち、防衛の鬼として畏れられ、数多くの修羅場を潜り抜けてきたアルベルトでさえ肝が震え縮む。

 それぐらい今のユーノに恐怖を感じたのだ。

「それでダートはどうなったの?」

「退学だ。使用人のクロックの話ではかなり前から同じ手口を使っていたそうだ。もちろん帝国騎士団への推薦も取消。表向きは怪我による休学の後、一身上の都合で退学させるそうだ。もちろんダートはナタクバード家から追放。今は怪我で入院中だが、治り次第辺境地へ飛ばされる事が決定したよ。」

「アレだけ小馬鹿していた事が自分に降りかかるとはね、自業自得さ。」

「随分回りくどい事を・・・。もしや政治ですか?」

「ああ。こんな不祥事、公表できないとな。監督不届で責任を問われる学園側とお家断罪があり得るナタクバード家の思惑が一致したそうだ。このまま闇に葬り去る魂胆だ。」

「アルベルトさんがここへ来たのは口止めの為?」

「そう捉えてもらって構わないさ。」

「しかしアルベルト殿、この事はあの女子3名もご存知。彼女達もユーノ様同様に。」

「ああ、公にしないよう頼むつもりだ。」と脇からあの――クロックが持っていた分厚い本を机の上に置く。

「これが例の本?」

 正座から解放されたユーノが徐に本を手にしてページをめくる。

「一日中くしゃみが止まらなくなる魔法。転びやすくなる魔法。涙が止まらなくなる魔法・・・、凄いなこれ。」

「他にも痺れ魔法や眠り魔法等・・・いやはや。もはや呪いですな。」

 横から覗き込むガウルと共に驚く。

「王宮魔術師に見せたが、魔術の基礎さえ知っていれば誰でも簡単に手軽にできるそうだ。悪戯程度からかなり危険な魔法まで載っているらしい。」

 専門外だから深くは分からん、と両手を広げるアルベルト。

「因みにこれをどこで?」

「数年前に市場で売られているのを買ったそうだ。最初は疑い半分だったそうだが、この本の効果を知ってどんどん依存していったそうだ。」

「ダートの成績はこの本のお陰だったというわけか・・・・。それにしてもこんな物、一体誰が書いたのだろう。」

 ふと過ぎった疑問。

 ページをパラパラ捲り、最後のページに眼を向ける。

『著者、アルトリーダー。』

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「その本の著者だが、王宮魔術師達は誰も聞いたことがないと――――てどうした?」

 著者の名前に眼を大きく見開いて固まるユーノとガウルの様子に気付いたアルベルトが何事だ、と尋ねる。

「アルベルトさん、この名前、ソプラノス父さんのペンネームだよ・・・。」

「何だと!!」

 アルベルトの声は屋敷中に響き渡る。

「し、し、知りませんぞ。ソプラノス様がこんな本が出版していたことなんぞ!」

「多分秘密裏に出版したんだろうね・・・。」

「全く死んでも尚迷惑をかけるか・・・。」

 肩を落とし頭を抱える三者。

「ってかなんでこんなものを作ったんだ?」

「考えられる事となると大方緊急の金が必要だったか、あるいはただ面白半分で作ったかどちらかでしょうな・・・。」

「多分、後者だと思うよ・・・。」

 大きなため息を零したユーノの視線はある一文に吸い込まれる。

「ちょ、ちょっとアルベルトさん。これ見て!」

「んん?」

 ユーノが指さした一文はこう書かれていた。

――第7刷――

「何!!!!」

「マズイですぞ。この本は大量に世に出回っているかもしれません。」

「こうしちゃおれん!スマン、俺はここで。」

 本を抱え大慌てで王宮へ戻るアルベルト。

「あの本、どうなるのだろうね。」

「ま、はっきり申し上げると出回っている本は全て回収。焼却かどこかに厳重に保管の二択でしょうな・・・。」

「だろうね・・・。」

「大魔賢者ソプラノス様が関わっている時点で危険物扱いですからな・・・。」

「ソプラノス父さんが携わった物、価値は凄いのだけど全て危険と言う曰く付きだからね・・・・。」

「暫くは各国、あの本の回収などで大騒ぎでしょうな・・・。」

 退出したアルベルトの背中へ手を合わせて合掌。

「「お気の毒に。」」

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