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本気の一端

 話は少し遡る。

(ユーノ様、我慢なりません!何卒このガウルに御命令を!)

「大丈夫だって。っ!」

 影の中で喚くガウルに気を取られ、不用意な一撃をもらうユーノ。

 二、三歩よろめくが、すぐに体勢を立て直す。

(しかしこのままでは――。)

「ガウルが出る程じゃないよ。ほら見て。」

 ユーノが視線で示す先、エリカが駆け出し、ルシアとリリシアが慌てて後を追う光景を目撃する。

「どうやら見つけたみたいだね。」

(本当に見つけたのでしょうか?)

「疑い深いな~~。エリカとルシアなら大丈夫さ。それに俺がこれぐらいの事で負けると思っているのかな、ガウルは。」

(め、滅相もございません。)

 自分の失言に気が付き、慌てて身を引くガウル。

「大丈夫さ。もうすぐ終わるさ。」

「そう通りだ。オマエの負け、という結果でな。」

 ガウルへの発言を自分と勘違いしたダートが歯茎を見せる。

 自分の勝利を確信しているのだろう、饒舌にユーノを罵り始める。

「おっと、降参は認めないぜ。キサマはこの大衆の場でボコボコに叩きのめす、と決めているのだからな。」

 ククク、と喉を鳴らすその態度と笑みには誇り高き騎士の姿は一切ない。

「随分ご満悦だね。姑息な手が通用してさぞ気持ちがいいのだろうね。」

 ダートの眉毛がピクリと動く。

「姑息な手?一体何のことだ。言いがかりは―――。」

「身体弱体化、フードを被った男。」

「!!!」

 ユーノが見つめる先―――ダートの遥か後方でちょうどエリカから逃亡を図るフードの男の姿を捉えていた。

「手際の良さといい、これが初犯ではないのだろう?」

「フ、フフ、フハハハハ、まさかキサマに見破られるとはな・・・。」

「へぇ~~、認めるのか。意外だな。」

「これを見破ったのがキサマが初めてだからな。褒美だよ。」

 一瞬動揺を見せるもすぐに表情を取り戻すダート。

「キサマの言う通りだ。オレの付き人に命じてお前に弱体化魔法をかけさせた。喜べ、普段なら一度だけなのを今回は重ね掛け。普段の10分の1程しか力が出せないように指示しておいたぜ。」

「ふ~~ん。」

 事実を聞いて一切顔色を変えないユーノ。

 その態度にムッとするも自分の優位を思い出し、すぐに表情を取り戻す。

「強がりよって。剣を扱えないキサマに攻撃の手立てがない。さらにオレの攻撃を受けて身体はもうボロボロ。つまりキサマの勝利は100%あり得ないのだ。」

「そう。」

 首や肩の関節を鳴らして相槌を打つユーノ。その素振りはダメージを受けた様子は一切感じられない。

 それもそのはず。ユーノはほぼ無傷。

 何故なら彼の身体は大魔武王ジーノから受け継いだ皮膚でそれは鉄のように固く軟な攻撃など軽くはじいてしまうのだ。

 その事実を知らないダートはユーノに遊ばれている事も知らずに高笑いを続ける。

「おっと、審判にその事を話しても無駄だぞ。その魔法は隠密性が高いらしく、検査でも発見できないのだからな。」

「だろうね。だからこそ今まで見つからずにやってこれたのだろう。」

「そういう事だ。さて続きだ。今度はどこを狙ってやろうか。足か、それとも腕か。頭でもいいぞ。」

「なあ、一ついいか?」

 不用意に近づくダートに質問を投げかける。

「お前はエリカの事、本当はどう思っているのだ?」

 ユーノの質問にダートは足を止め、そして真剣な面持ちで答えた。

「愛しているぞ・・・。心の底から、な。」

「・・・・・・。」

「――――なんて言うと思ったか、たわけめ!」

 小馬鹿にする口調。心の中にあるドス黒い感情を吐き出すかのようにユーノの質問に答える。

「落ちこぼれで出来損ないで愛想もない女なんぞ誰が好き好むか!ウィズガーデンの家名がなければ結婚なんてするわけないだろうが!!ま、身体だけは楽しめそうだからな、飽きるまでは手元に置いてやるよ。」

「・・・・・・。」

 問いに対して何も答えないユーノ。

 その無言に一番近くにいるガウルは危険を察知する。

「そうだ。何ならお前にやろうか。使い古しのボロ雑巾でよければな。ガハハハハハ!!」

 す~~、と大きく深呼吸して気を落ち着かそうとするユーノにダートは最後の爆弾を放り込んだ。

「だから安心して負けていいぞ。ああそうだ。キサマの隣にずっといるオンナ、ルシアだったか。あのオンナの事とも任せな。キサマがここを去った後、オレが面倒見てやる。ベッドの上でたっぷりとな。」

「もういいわ、お前。」

 静かに発したユーノの一言。

 だが、その一言は高笑いするダートの声は搔き消すほどの迫力があった。

ガクガクガクガク・・・・。

 影の中で身を小さくして震えるガウル。

 かつてない程の恐怖が押し寄せ、無意識に息を殺す。

 少しでも物音をたてれば怒りの矛先が自分に向く、と考えたからだ。

「フフ、俺をここまで怒らしてくれるなんて・・・・・・、いいよ、終わらしてあげる。全て壊してあげるよ。」

「終わらす?壊す、だと。今のキサマにそんなことできる訳ないだろうが。」

「冥途の土産に二つばかり教えてあげるよ。」

 人差し指と中指を立ててダートへ見せる。

「一つ、俺は剣が扱えないのではなく、苦手なだけ。」

「同じことだろうが!」

 おおおおお、と雄たけびを上げて剣を振りかざし近づくダート。

「二つ目、実は俺はここに来てから今まで、本気の1%しか力を出していないよ。」

(ユーノ様、それはいけません!)

 ガウルはユーノの構えを見て心の中で叫ぶ。

 剣を左腰まで下げ、右足を前に出した―――居合の構えを見せた時、エリカが警備員を振り解きながら叫んだ。

「ユーノ!!」

「居合我流、絶閃。」

 地面を蹴って一歩でダートの懐へ飛び込み抜刀。

 ダートの模擬剣を折り、斬り上げで顎を砕き、そして体を一回転させて肥満腹に一撃。

 そして通り過ぎるまでの時間、僅か1秒。

「がはっ!」

 折れた模擬剣が地面に落ちたのとダートが吐血しながら地面に倒れるのはほぼ同時であった。

「おい、今何が起きた?」

「アイツ、何をしたんだ?」

「う、嘘だろう・・・。あのダートが一撃で倒された?!」

(一撃じゃない。)

 何が起こったか分からず、混乱する観客達の中、エリカだけは唯一全てを見えていた。

(辛うじて見えた。ユーノはあのダートにあの一瞬で三回斬った・・・。それにあの動きは。)

 心当たりが一つ。

 実際には見た事がないが、話で何度か耳にした―――かの有名な、英雄と呼ばれたゲイツだけしか出来ない、と言われている唯一無二の技。

(居合我流、絶閃・・・・・・。そうだわ。でもどうしてユーノが?)

「エリカ、約束通り勝ったよ。」

 自分の名前を呼ばれ、我に返ると目の前にはユーノの顔が。

 驚きのあまり、今までの思考が四方八方へ飛び散ってしまった。

 反射的に顔を逸らすエリカ。

 だがそれをユーノは許さない。顎に手を添えて自分の方へ向き直す。

「これで君は自由―――いや、俺の彼女だ。」

「~~~~。」

 ユーノの顔立ちとセリフにエリカは大赤面。

 恥ずかしさから言葉を失う。

 その後ろでは気を失ったダートを担架で運ぶスタッフ達。

 そして番狂わせを大音量で叫ぶ実況。

 それらを無視してユーノは恥ずかしさと心配、そして安堵を混ぜ合わせた表情をしているエリカの美しい顔の輪郭を指でなぞる。

「さてそれじゃあ、案内してくれないかな。」

「案内?」

 ようやく言葉を取り戻したエリカがどこへ、と尋ねる。

「それはもちろん、俺に妨害を仕掛けた張本人の所へさ。」


「ユーノ君、おかえりなさい。」

 ルシアの出迎えの抱擁はかなり情熱的。

 回復魔法を施そうするルシアに「大丈夫だよ。」と優しく制止。

 拘束されているクロックの元へ。

「未だに容疑を否定しているわ。」

「リリシア、拘束を解いてくれ。」

 ユーノの発言に驚く女子陣。

「いいから解いて。」

 念押しに「仕方がないわね。」と渋々魔法を解除。

「くそ、酷い目に遭ったぜ。」

 ようやく解放され悪態をつくクロック。

「おい、腕に痕がついたじゃないか!どうしてくれる!」

「いや〜、悪かったよ。俺の友人が君に酷いことをしたみたいで。」

 言い返そうとするリリシアを手で制して金貨が入った小袋をクロックに手渡す。

「これで勘弁してくれないかな?」

「ま、いいだろう。」

 躊躇うことなく受け取るクロック。

 女子陣は猛抗議。

 しかしユーノは視線で「任せて。」と静かにさせる。

「じゃあな。」

「ちょっと待ってくれないかな。」

 そそくさ立ち去ろうとするクロックを呼び止める。

「君に少し話があるのだけど、ちょっといいかな。」

 ユーノの発言を無視、足を進めるクロック。

 しかし、「俺の話を聞いておいた方がいいよ。君の今後にとても関わる事だよ。」の発言におもわず足が止まる。

「どういう事だ?」

 怪訝な表情をするクロック。だがここで一つの違和感を覚える。

「その前に俺を見て何か思うことはない?」

「何を言っている。俺はお前の事など―――。」

 ここで違和感に気付く。

 そう目の前にいるのが魔法をかけていた相手、ユーノだということに今気付いたのだ。

「な、何でお前がここにいる?お前はダート様にボコボコにされたのでは・・・。」

「君は最後まで試合を観ていないから知らないのは無理もない。結果は俺の勝ち。ダートは医療室へ運ばれたよ。」

「そんな馬鹿な・・・。(嘘だろ、あんなにも弱体化魔法を重ね掛けしたんだぞ。)」

「さて、話というのはまさにこの事さ。俺は勝った。君が妨害していたにも関わらずにね。」

「俺は何にも―――。」

「まあまあ、話は最後まで聞きたまえ。それに君が妨害したかどうかはこの際関係ない事だからね。」

「???」

 ユーノの言葉を理解できないクロックは言葉を噤む。

「いいかい、ここで重要なのは俺が勝った事さ。今までダートはこの方法で勝ち続けてきた。彼はこの方法に心酔していたはずだ。絶対に負ける筈がないと。だが負けた。完膚なきまでにね。意識を取り戻したダートはどう思うだろうね。」

「思うって何をだ?」

「ダートは考えるはずだ。何故負けた?自分はいつも通りだったなのに負けた?彼は自信過剰で自分の非は絶対に認めないタイプ。そんな彼は考えに考え、そしてこう思う筈だ。クロック(使用人)は本当に妨害をしたのか?と。」

「何を言っている!俺は言う通りにーーー。」

「調べても分からないのだろう?していない、という主張は指示通りした証拠もない、という事。それは今俺から受け取ったお金を第三者が見ればどう思うだろうね。」

「ひっ!」

 顔が引きつり、慌てて小袋を捨てる。

「お前、俺を憚ったな!」

「いや〜、何のことかな?俺はただ怪我した君の治療費を渡しただけだよ。」

 青ざめるクロック。

 そんな彼に冷ややかな視線を向けながら話を続ける。

「さあ君が裏切ったとなれば大問題。今まで悪事が全て明るみになってしまう。そうなればダートは困るだろうね。これまでの功績も未来も全て終わり。マズイ、と思った彼はこう考えるはずだ。」

 クロックの耳元で「く・ち・ふ・う・じ。」と囁く。

「っ!」

 身の毛がよだつクロック。

 ユーノの発言は最も現実的にありえるのだ。

「さあ、ここで君が取る行動は二つに一つ。一つは真摯に事実を述べる。自分は言われた通り行ったと。今までの渾身的に支えてきたんだ、信じてくれるかも知れない。ただその場合はダートが無能だという事を証明してしまうけどね。」

 絶対に認める訳がない。

 幼い頃からダートを間近で見てきたクロックは心の中で被りを振る。

 自己中心的で他人を蹴落とすことしかしない主人が自分に慈悲を与えることなんてありえない。

 絶望感に押し潰されるクロックにユーノはもう一つの道を提示する。

「もう一つは君の口から全てを公にする事。もちろん君も罰を受けることになるだろうが消されるよりはマシじゃないかな。」

「それは・・・。」

 踏ん切りがつかず悩むクロック。

 そんな彼にユーノは優しく背中を押す。

「大丈夫。君は悪くない。」

 邪な笑みを浮かべながら迷うクロックをあるべき道へ誘導する。

「だって仕方がないよね。主人の命令は絶対。無理矢理従わされていたのだろう。」

「無理、矢理・・・?」

「そうだよ、ね。」

 肩をポンと叩き念押し。

 悪魔の囁きにまんまと乗せられる。

「そ、そうだ。俺は無理矢理やらされたんだ。嫌だと言ったのに従わないと路頭に捨てるぞと脅されて仕方なく。」

「だよね。君は悪くないよ。」

「そうだ、俺は悪くない。悪くないんだ。」

 ユーノの囁きにしがみついたクロック。

 その様に、してやったりとほくそ笑む。

「大丈夫、俺に任せて。知り合いに騎士団で将軍をしている人がいてね。君が真相を全て話すなら便宜を図るよう伝えてあげるよ。」

「ほ、本当か?」

「もちろん。」

「は、話す。全て話す。だからーーー。」

「任せて。」

 完落ちしたクロックにニッコリ。

(ガウル、アルベルトさんに連絡を。)

(御意。)

 影からいなくなったガウルを見送り、

「さぁこれで解決さ。」

 振り返ると女子陣の反応は三者三様。

「トライシア君、あなたって最悪ね。」

 見損なったと言わんばかりのジト目を向けるリリシアに、怖さから武者震いを見せるエリカ。

 そして、「格好いい!」と目にハートマークを輝かせるルシア。

「格好いい、て本気で言っているのルシア!」

「うん、素敵。」

 ルシアの答えに唖然とするリリシア。

「ちょっと、エリカさんからも言ってやって。私のお馬鹿な親友に。」

「確かにちょっと怖い印象ではある。だが・・・。」

「だが?」

「ルシアの言う通り、少し・・・格好良かった。」

 頬を赤く染めてぼそっと呟くエリカに口をあんぐり開けるリリシア。

 数秒後の沈黙の後、

「恋は盲目、て本当なのね。」

 肩をすくめるしかなかった。

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