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ユーノの覚悟

「本当に何を考えているのよ、あなたは!」

 次の日、ダートとユーノの決闘が学園中に広まる中、エリカはユーノに対して説教中。

「何でこんな無謀な事を了承したのよ。」

「無謀って、決闘の事?」

「それしかないでしょう!」

 決闘の賭け対象となってしまったエリカはユーノを叱るが、当の本人はどこを吹く風。反省の色は一切ない。

「あのねダート様は最高学年の首席。大きな大会でも優勝する程の実力者よ。無謀過ぎるわ。」

「でも、これぐらいしないとエリカを手に入らない。」

「っ!」

 真剣な眼差しを向けられてドキッとするエリカ。

 またユーノの瞳と泣き黒子に吸い込まれる。

「大丈夫。絶対に勝つさ。」

「そうだよ、ユーノ君なら大丈夫。」と隣で聞き手にまわっていたルシアが会話に加わる。

「頑張ってねユーノ君。」

「あのねルシア、何であなたはそう平然といられるのよ!」

「それはどういう事?」

 エリカの説教がルシアの方へ。

「ユーノは私に告白してきたのよ。ルシアというカノジョがいながら。」

「私がユーノ君のカノジョ?!!!」

「えっ?」

 大声で驚くルシアに目を丸くするエリカ。

「ちょっと待って・・・・・・、もしかしてユーノと付き合っていないの?」

「付き合っていないよ。私とユーノ君はお友達だよ。」

「嘘~~~!!!」

 まさに青天の霹靂。

 エリカのみならず密かに聞く耳を立てていたクラスメイト達も心の中でそう叫ぶ。

 だが、エリカ含め彼らが勘違いするのも無理もない。

 何故ならユーノとルシアは殆どずっと一緒にいるからである。

 騎士科と魔術科の違いで一緒ではない授業はあるが、共通の授業では常に隣同士。休憩時間やお昼もずっと一緒、更には登下校も二人っきり。

 その距離間も付き合っているカップルそのもので、それを日頃から目撃している周囲はすでにこの二人をそういう関係だと認知していたのだ。

「ほ、本当に?」

「本当だよエリカちゃん。ユーノ君とはこの学園で出会う前に一度助けてもらって。それで仲良くなったの。」

 幸せそうにユーノとの出会いを語るルシア。

 しかしその裏側に一抹の寂しさを見てしまったエリカを申し訳なさを抱く。

「あの・・・、その、ごめんなさい。」

「謝らなくていいよ。ユーノ君とエリカちゃん、お似合いのカップルだし。」

(おい、これは俺達にもワンチャンあるか?)

(ルシアちゃん、失恋したな・・・。)

(優しく慰めてあげれば・・・。)

 学園で一番可愛いと噂されるルシアを狙うクラスメイト達の視線に一瞥するユーノの行動は早かった。

「ルシア。」

「何ユーノ君―――きゃ。」

 突然ユーノが情熱的に抱きしめたのだ。

「ど、どうしたのユーノ君。」

 心臓の鼓動が早くなっているのを悟られないようにするルシアにユーノは彼女の耳元に囁く。

「ごめんね、気を使わせて。俺はエリカの事を愛している。大切な人と思っている。」

「うん。」 

 チクリ、と胸が痛む。

 私も、私もユーノ君の事が―――。

「でもね、それと同じぐらいルシアのことも大切に想っているよ。」

「っ!ユ、ユーノ君!」

「初めて出会った時から・・・、一目惚れだった。必死に護ろうとするあの姿に。いつも楽しい笑顔を振りまくその姿に。一瞬で心を奪われたよ。」

「~~~~。」

 顔を真っ赤にして声にならない悲鳴を小さく上げるルシアに追い打ちをかける。

「遅いかもしれないけど、ルシアも俺の最愛の人になってほしい。駄目かな?」

「はぅ・・・。」

 赤面のルシア。

 ユーノの胸に顔を埋めて、そして小さく頷く。

「ありがとう、ルシア。」

 ユーノはルシアの柔らかい髪の感触を味わうように優しく撫でる。

「あのねユーノ、さっき私が言った言葉、覚えてる?」

 背後でジト目で睨みつけるエリカ。

「何で、カノジョの前で他の女性を口説いているのよ!」

「何か問題でも?」

「問題あり過ぎるわよ!」

「でも俺、エリカから告白の返事を聞いていないけど?」

「っ!そ、それは・・・・・・、確かにそうだけど。」

 たじろぐエリカ。

 告白後、決闘の事で頭一杯になり、返事をし損ねたのである。

 昨日の告白の事を思い出し、赤面。

「でも今のエリカの発言から告白はOKだと捉えていいのかな?」

「ダート様に勝ってから言ってよね。」

 照れ隠しからつい、きつい発言をしてしまう。

 だがユーノはエリカの気持ちを見越しているのだろう。気を悪くすることなく、真剣な眼差しを向ける。

「必ず勝つさ、君の為にね。」

 このセリフに心をときめかされてしまった。

「そ、それにしてもあなたは何を考えているのよ。いきなり私とルシアに告白して。」

「私は全然大丈夫だよ。ユーノ君と一緒にいられるのなら。」

「別にいいじゃん。もしかしてこの国は一夫多妻制を認めていないの?」

「認められているわ。でも実際に行っているのは王族と大貴族だけ。大抵は一夫一妻よ。」

 エリカの説明にふむふむ、と頷く。

「それにどうするのよ、この空気。」

 エリカの言葉通り、教室内は嫉妬の雷雲で充満。

(おいアイツ、エリカだけでなくルシアちゃんまで手に入れようとしているぞ。)

(許すまじ許すまじ。)

(呪われろ!呪われろ!)

 殺意増し増しの視線がユーノへと向けられるが、一切動じない。

「俺は座右の銘に貫いただけさ。欲しいものは何が何でも、どんな手を使ってでも必ず手に入れる、ってね。」

「どんな手を使ってでも、って。」

 少し軽蔑した視線をユーノへ向けるエリカ。

「それぐらい俺はエリカとルシアを愛しているのさ。」

「愛を語れば許される、って思っているのかしら?」

 それでも尚、納得できないエリカ。

「そうは思ってないよ。それにさっきの座右の銘には続きがあってね。手に入れたものは覚悟と責任をみせろ。」

「どういう事、ユーノ君。」

「手に入れる過程で批判や非難があるだろう、でもそれすらも受け止める。そして一度手に入れたものを途中で捨てたりはしない。最後まで持ち続ける。」

 右腕でエリカを、左腕でルシアを抱き寄せて自分の意思を表明する。

「エリカ、ルシア。俺はお前達を最後まで離さない。必ず幸せにしてみせる。その為に最大以上の努力をするよ。そして誰にも渡さない。これがエリカとルシアを手にした俺の覚悟と責任だ。」

 堂々と高々な宣言にエリカとルシアは再び赤面。

(マジかよ・・・。ここまで言い張るのかよ。)

(ヤベェ、勝てる気がしないわ・・・。)

(ここまでくると清々しいな・・・。)

 クラスメイト一同も白旗を振ることしかできなかった。


「失礼する。」

 教室が落ち着きを取り戻した頃、入り口から男子生徒の声が聞こえた。

「ここにユーノ=トライシア、という男子生徒がいるはずだが・・・・・・。」

「あれ?」

「あの人は・・・。」

 クラスメイトが対応しているのを遠目で眺めていたエリカとルシアがその男子生徒の顔を見た途端、気難しい表情へと変化した。

「トライシア君ならあそこにいるわよ。」

「リリシアちゃん?」

 リリシアの案内でユーノ達が座る席へと近づく男子生徒。

「初めまして、僕の名前はカリウス=バードナー。勇者だ。」

「知っているよ、入学式の時に見ていたからね。」

 勇者の紋章を見せつけるカリウス。

「おや、エリカ君とルシア君もいたのか。久しぶりだね。」

 再会の握手を求めるが、二人とも会釈のみで終わらす。

「知り合い?」

「ちょっとね。」と口を濁すエリカと、

「後で説明するね。」と珍しく冷めた口調のルシア。

「で、その勇者様が俺に何か用ですか?」

「実は君がダート先輩と決闘する話を耳にしてね。一つ忠告をしにきたのさ。」

「忠告?」

「ああ、今すぐダート先輩に謝罪して決闘を取り消してもらうよう、懇願するべきだ。」

「理由を聞いても。」

 ユーノの顔から笑みが消えた。

「Fクラスの君が上級生のSクラスに勝てる訳がない。負ければ退学なのだろう。結果は見えている。無謀な事はせず、誠意に謝罪すれば退学は免れる。もし良ければ僕が仲介に―――。」

「それには及ばない。」

 カリウスの言葉を遮る。聞く価値がない、と判断したのだ。

「残念だけど俺は謝らないよ。何も悪い事をしていないからね。」

「彼の婚約者を横取りしたことが悪い事ではない、と?」

 チラリ、とエリカを睨む。

「エリカを救いたい、という一心からの行動さ。別に認めろ、とは言わない。」

「確かにエリカ君に対するダート先輩の言動は目に余るものだ。だが、だからと言って彼からエリカ君を奪ってもいい理由にはならない。ただ君は自分の行動を正当化しているにすぎない。」

「だから言っただろう。認めろとは言わない、と。批判を浴びる事も覚悟の上さ。その上で俺はエリカを愛している。その想いは誰にも負けない。」

 何度目の愛の告白か分からないが、またしても顔が真っ赤になるエリカは恥ずかしくて下を向く。

「大した覚悟だが、無謀だ。君に勝算は―――。」

「勝つさ。絶対にね。」

 激しく火花を散らす2人。

「残念だよ。話が分かる人間だとおもっていたのに・・・。」

 視線を先に切ったカリウスは頭を何度も横に振り、嘆く。

「エリカ君、君はこれから辛く苦しい日々に悩まされるだろう、彼のせいで。何かあれば僕に頼ってくれ。勇者の名に懸けて何とかしよう。そしてルシア君、君にまた会えてよかったよ。では。」

 自分の伝えたいことだけを残して立ち去るカリウス。

「ねえリリシアちゃん、何であの人を連れてきたの?」

「仕方がないでしょう。一度言い出したら聞かないのだから。」

 大きなため息から普段カリウスに対する気苦労が十二分に伝わる。

「それよりもエリカとルシアはあの勇者とどうやって知り合ったの?」

 ユーノの質問に顔を曇らせる2人。

 それぞれ、簡潔にカリウスとの出会いを話す。

「ああ、今思い出しても腹が立つわ。」

 話し終えたエリカがムッとする。

「放っておけばいいさ。いずれ嫌でも分からされるのだからな。」

「それってどういう事、ユーノ?」

 エリカの問いに答えないユーノ。その代わりルシアの方を見つめる。

「どうしたのユーノ君?」

「いや、ルシアと出会ったのがあの勇者より先で良かったな、ってね。」

「??」

 何もわかっていないルシアの代わりにリリシアが答える。

「気を付けた方がいいわよルシア、バードナー君はあなたの事、狙っているみたいだから。」

「ふぇ?!!!」

「やはりそうか。」

 カリウスがルシアへ意味深な視線を向けていたことに気付いていた。

「ええ、彼、何かにつけて私からルシアの情報を聞き出そうとしていたから。安心して、私は何も話していないから。」

「私、あの人の事あんまり好きじゃないのに・・・。」

「大丈夫よ。今後、会わせないようにするから。トライシア君、ルシアの事を頼むわよ。」

 何かあったら許さないわよ、と念押しして立ち去るリリシア。

「はぅ~、変な人に眼をつけられちゃった・・・。」

「安心してルシア。俺が守ってあげるから。」

「うん!」

 優しく頭を撫でた途端、機嫌が良くなるルシア。

 いつもの見慣れた光景に肩をすくめるエリカ。

「ラブラブね。」

「エリカもしてあげようか?」

「っ、け、結構よ。」

 と拒否するがルシアの後押しもあり、結局受け入れる羽目になるエリカ。

 最初は恥ずかしさが勝るも、気が付けば虜に。

 それを見せつけられている周囲は羨ましさと嫉妬で阿鼻叫喚するのであった。


「おい、情報は集めれたか?」

「はい、ここに。」

 数枚の報告書をダートに恐る恐る手渡す男子生徒。彼はダート専属の使用人である。

「ユーノ=トライシア、南方の辺境地の村出身。16歳。貴族の後ろ盾はなさそうだな。」

「はい、ダート様が伺ったように左遷されたマイクの薦めでこの学園を受けたそうです。」

 ダート専属の使用人――クロックが集めた情報を一通り目を通したダートはほくそ笑む。

「つまり奴を徹底的に潰しても何も問題ない、ということだな。」

 既に勝利への確信を抱いているダート。

 今彼はユーノをどのように痛ぶるかを考えていた。

「オレをここまでコケにした報い、受けさせてやる。ん?」

 報告書のある一文に目が止まる。

「おい、これは本当なのか?」

「そのようです。再三本人の口から証言しているそうです。」

「そうかそうか。」

 ククク、笑いが込み上げる。

「おい。」と使用人を呼び寄せあることを命令する。

「かしこまりました。」

「これでよい。今後が楽しみだ。」

 跪く使用人に高笑いするダート。彼が思い浮かべるのは試合後のこと。

 無様な姿を晒され、地面に這いつくばるユーノを見下して、絶望に飲み込まれたエリカと悲しみに明け暮れるルシアを両腕に抱きかかえる自分の姿を想像。

 優越感に浸るダートから笑いが絶えることはなかった。

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