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傲慢

「悔しい!!一本も奪えなかった。」

 授業が終わり、教室まで向かうまでの途中、悔しさを見せるエリカ。しかし結果に納得しているのか、表情は晴れやか。

「ユーノ、あなたは本当に強いわね。誰に教わったの?」

「父さんだよ。」

 ゲイツやジーノ、ソプラノス、そしてデルタの顔を思い浮かべながら答える。

「因みに村にいるマイクは時々、父さんに教えを乞いていたよ。」

 兄の名前を敢えて出してみると少し小難しい顔を見せる。

「ねえ、聞いていいかしら兄さまのこと?」

 意を決した表情で今まで知りたかったことを尋ねる。

「何で兄さまは左遷されたの?どんなミスをしたの?」

「・・・・・・、まず君の兄、マイクは左遷されたわけではないよ。」

 自分の生い立ちのことがあるので、真実を全て話すことは出来ないが、マイクの無実については事実を主張する。

「まずマイクは左遷で俺の村に来たのではなく任務で来たんだ。俺の村は魔族領の近くでね、斥候を兼ねて滞在しているのさ。」

「兄さまが属していた部隊が全滅した話は?」

「本当だ。でもそれはマイクのせいではない。隊長ヤザンが暴動を起こした結果だ。それはアルベルトさんも認めている。」

「アルベルト将軍?」

「今マイクはアルベルトさんの部隊に所属しているのさ。評価はもの凄く高いよ。」

「そう・・・(父様から聞いた話とは全然違う。)」

 4年前に父親から聞かされた内容よりも今ユーノの説明の方が信じられる気持ちになれるのは何故だろうか?

 それは眼と言葉の重み。ユーノの瞳には揺るぎない信念を感じるのだ。

「今アルベルトさんがどこで話が拗れたのかを調べてくれている。マイクの勘当も取り消せるようにするよ。だから家のことで苦しまなくていい。」

 ユーノの親身さに心温まるエリカ。

「それよりエリカ、やはり君は剣の才能に満ち溢れている。羨ましいよ。俺には剣の才能がないから。」

「そうなの?!」

「ああ、父親達に散々言われてきたよ。だから棍を使っているのさ。」

 純粋な尊敬の眼差し。

 ユーノの無きホクロとコバルトブルーの瞳に見つめられて自然と頬が赤くなる。

「エリカ、自信を持っていい。君は才能に満ち溢れているよ。」

「ありがとう、ユーノ。」の言葉と共に見せた笑顔。

 初めて見せた彼女の笑顔をユーノは美しい、と思った。

「あのさ、エリカ!もしよかったらさ、この後・・・。」

 もう少しエリカと一緒にいたい、という気持ちがユーノを突き動かす。

「放課後、また一勝負しないか?」

「えっと・・・、いいわよ。」

 少し戸惑いを見せるも了承するエリカ。

 彼女もまたユーノと一緒にいたい、とおもっていたのだ。

 エリカの満面の笑みに「よし!」と心の中でガッツポーズ。

「次は負けないわよ。」

「こっちこそ。」

 見つめ合う後、笑い合う2人。お互いこの後の放課後が待ち遠しく、早足で教室へと戻る最中、

「エリカ!!!」

 廊下中に響き渡る大声が二人の思いをぶち壊す。

 声の主はダート。

 大股でこちらへ迫るその姿から苛立ちと怒りがかなり伝わる。

「ダート様、どうしたのですか?」

 恐る恐る用件を尋ねるエリカ。

 自分が何か不始末をしたかを懸命に探るが思い当たらない。だが、それはそのはず。

 ダートはただ腹の虫が悪く、エリカに八つ当たりしているだけなのだ。

「どうしたの、もあるか!!」

 怒号と共に壁を殴り威圧。

 その効果は絶大でエリカは反射的に首をすくめ、身体は震え上がる。

「何故すぐにオレの所へ来ない‼︎ノロマめ。」

「あの、まだホームルームが残って・・・、それに今日は予定はないと―――。」

「やかましい!!」

 壁をもう一度殴り無理矢理黙らせる。

「お前はオレに黙って従っていればいいだよ!」

「傲慢な態度だな。エリカに自由を与えないつもりか?」

「キサマは黙ってろ。コイツはオレの所有物だ。」

 ダートの言動に苛立ちを募らせるユーノ。

「残念だが、彼女には先着が入っていてね。俺の相手をしてもらうのさ。」

 対抗心から出た発言。だがこれが失言だったとすぐに気付く。

 ユーノの発言を聞き、ダートはエリカに罵声を浴びせたのだ。

「おいエリカ、オレは言ったよな。無駄な事はするな、と。『名折れ』と呼ばれるお前に剣を扱う資格がないのだ。」

「そ、それは・・・・・・。」

「いいか、お前はオレのお情けでこの学園に通えているのだ。オレの家の力がなければ不合格間違いなしだったのだぞ。」

 自分の言葉を深く植え付けるためにエリカの耳元で罵し続ける。

「お前の両親はいつも嘆いていたぜ。自分達の子供は出来損ないの落ちこぼれ、だってな。特にエリカ、お前は子供としても、女としても使いようがない、ってな。」

 青ざめるエリカ。

 それを見て気を良くしたダートは高笑い。

「ウィズガーデン家の跡取りが落ちこぼればっかで助かったぜ。おかげで優秀なオレが婿養子として迎えられたのだからな。いいか、お前は黙ってオレの言う事を聞いとけ。一生な。お前の両親に言われているのだろう。オレに逆らうな、と。」

「っ!」

 肩を力強く握り、強制的に頷かせる。

「わかったならばついて来い。」

「ごめんなさいユーノ。さっきの件、忘れて。」

 力なく微笑む、その顔には絶望と悲しみがはっきりと見えた。

「それじゃあ。」とエリカの哀愁漂う背中にユーノは憤りを感じる。

 何で?何故こんなにも苦しまなければならない。

 あんなにも美しく綺麗だった笑顔が一瞬で壊されたことに憤りを感じる。

 何であんなにも否定されるの?

 エリカの才能を、夢を、何故認めようとしない。

 何故邪魔をする。

 自分から離れていくエリカに、憎たらしい笑みを浮かべるダートに苛立ちを露にする。

 エリカの夢を、自由を奪って何でそんなにも優越感を満たせれる?

 何故エリカを苦しませる!

 何故美しく可憐なエリカを汚す!

 俺なら絶対にそんな事はしない。

 俺ならエリカを輝かせられる。

 エリカを悲しませたりしない!

 全身に駆け回る血液が激しく昂り、ユーノの心臓を大きく弾ませる。

 奪え!と。

「えっ!」

 突然ユーノに手首を掴まれ、足を止めるエリカ。

「欲しいものは何が何でも、どんな手を使ってでも必ず手に入れる。」

「それってどういう意味――。」

「何をしている!さっさと来い!」

「行かなくてもいい。」

 ダートの叫び声をユーノの優しい囁きがかき消す。

「エリカ、もうあんな奴の言う事なんて聞くな。君には剣の才能がある。いずれ君の名は世界に広まる。最強の剣士―――いや、剣聖として。」

「そんなことあるわけないだろうが。」と貶すダートには一切目を向けず、エリカだけを真っすぐ見つめる。

「エリカ。俺は確信している。君がこれから数々の功績を上がることを。剣を極めていく姿を。数々の武勲を、究極の剣の頂へ駆けあがるその過程を見てみたい。君の傍で、ずっと。」

「っ!そ、それって・・・・・・。」

「エリカ、俺の最愛の人になってくれないか。俺は君の才能を、夢を、輝かしい未来への道標となろう。エリカの幸せを与えたい。だから俺の傍にいてくれ。ずっと。」

 耳元で愛を囁かれたエリカ。

 力強い抱擁だが痛みや苦しみは一切なく、安らぎと暖かさを感じる。

「あ、あのユーノ。嬉しいけど無理だわ。だって私は―――。」

「ダートとの婚約は解消させる。エリカには相応しくない相手だ。」

「何を生意気なことを。」

 平然と高圧的な態度で見せるダート。

 こめかみと口元を痙攣させており、かなり怒っているのが丸わかりだ。

「言っておくが、俺はウィズガーデン家当主から婚約話を受けているのだ。どこの馬の骨かわからない田舎者に何が出来る。」

「出来るさ。次期当主のマイクから推薦されているからね。」

「それこそ愚かな話だ。勘当された人間に何が出来る?」

「本当に勘当されているの、ならね。」

「ああ?」

 ユーノの発言の意図が全く読めなかったのだろう。眉を顰めるダート。

「どういう事だ?」

「脳みそがないお前には関係ない話さ。それよりも今後の身の振り方を考えた方がいいと思うぞ。ナタクバード家では厄介者扱いなのだろう。」

「なっ!」

 ユーノの発言に動揺を見せるダート。

 この数日の間に、ガウルにナタクバード家の内情を探らせていたのである。

「この学園や周囲には上手く隠しているようだけど、家からは大分見放されているそうだね。実家にも足を踏み入れさせてもらえないそうじゃないか。ウィズガーデン家の婿養子話がなければ後ろ盾がなくなるのだろう。」

「キサマ・・・・・・。」

「ま、才能も頭もなく、すねかじりしかできないキミにはごく自然な事なのだろうね。」

 ユーノの逆撫でに完全にキレたダートは罵声を轟かせながら白ネクタイをユーノへ投げつける。

「決闘だ、ユーノ=トライシア!!!決闘でお前を叩き潰す。」

「受けて立とう。俺が勝てばエリカとの婚約を解消してもらう。」

「いいだろう。だが、オレが勝てばキサマはこの学園・・・、いやこの帝国から去ってもらうぞ。」

「わかった。」

 地面に落ちた白ネクタイを掴み、ダートへ投げ返すユーノ。

 ネクタイを相手に投げつける、この行為はライトザルト学園による決闘のしきたり。

 投げつけられた相手は必ずネクタイを受け取り、相手に投げ返すことで成立となる。

 これによりダートとユーノの決闘が正式に決まった。

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