転生者が自分だけだなんて思わないで下さいね!
はい、転生しました。
ついに私も転生と言うものに巻き込まれてしまいました。
しかも伝統のトラック転生です。
んで、前世を思い出したのだけど、今を生きるここは伝統の乙女ゲームの世界だった。
しかも私の名前はミリアム・ドットベル、いわゆる悪役令嬢枠。
いや〜、出来ればモブ位置が良かったよ。
なんでこんな爵位が高い令嬢に生まれ変わったのか………。
安定の公爵令嬢、安定の王太子の筆頭婚約者候補、のコンボだよ。
だけど実際転生してみて思ったんだけど、この世界は現実だ、ゲームだなんて思えない。
初めはゲームのイメージがあったけど、接してみればみんな普通の人間だ。
あのゲームは、主人公が三択から好感度の上がる選択肢を選んで攻略キャラを落としていくのだけど、ここは現実だ、果たしてヒロインはどういう感じで攻略キャラと接していくのだろう?
まさかヒロインにだけ三択が現れるとは思わないけど、ここは魔法もあるしな〜。
私的には王太子の筆頭婚約者候補から外れたいのだけど、そう簡単にいくものではない。
まあ、まだ婚約者候補だから救われるけどね。
確かテンプレの、ヒロインが王太子と仲良くなったことに腹を立てて、ヒロインをいじめまくり、最後には断罪され修道院、隣国追放、最悪死罪となかなかにハードなエンディングだった。
そもそも悪役令嬢は王太子の婚約者候補に過ぎなかったのだ。
たぶん爵位はつり合っても性格が悪かったのだろう。
今、私七歳だけどしっかり侍女に怯えられている。
うん、ごめんね、ついさっき思い出したんだ。
一応今までの記憶もあるから何をしてきたかは分かっている………うん、ヒドイ。
「ごめんなさい! 」
もう、すぐに土下座したね。
令嬢としてあるまじき姿だけど、私の良心が全力で土下座しろって告げている。
「お、お嬢様! そんな床に頭をつけて………あ、ああ、そんな体勢で! お、起き上がって下さいませ! 」
侍女が凄い勢いで私を立たせようとしている。
まあ、そうだよね、今まで気に入らないことがあれば暴れていた子が突然土下座だもんね。
本当に申し訳ない。
ちなみに家族は一緒に住んでいない。
私は性格はアレだが病弱なのだ、だから領地にいる祖父母に預けられていた。
祖父母は私が病弱なうえ家族とも離されているのを可哀想だと思い、侍女たちに当たり散らすのをそのまんまにしていたようだ。
そこはしっかり教育して欲しかったと思うけど、たぶん前世を思い出す前の私では聞かなかったよね、重ね重ね申し訳ない。
とにかくこれからは真面目に生きよう!
何よりせっかく生きるのなら健康で長生きしたい。
まずはこの病弱設定をなんとかしないと。
たぶん公爵令嬢として全て何でも人にやってもらってきたから体力が無さすぎる。
よし! まずは体力増強だ!
私はその日から少しずつ運動していった。
先ずは庭の散歩、これは最初庭に行くだけで息が切れた。
あとは今まで好き嫌いしていた食事も何でも食べるようにした、これには祖父母が目ん玉落ちるんじゃないかと思うほど目を見開いて驚いていた。
それからちょっとずつ侍女や他の使用人の信頼回復に努めた。
ここは現実、人間関係は本当に大切、いくら公爵令嬢でもやっちゃいけないことはある。
今までが今までだから人間関係の改善は大変だった、それでも諦めずに頑張った。
そしてその結果………。
「ミリー、ずるいぞ一人で逃げるなんて」
私に文句を言っているのは王太子のルーベルト様だ。
イロイロあった、本当にイロイロ………んで、何故か候補という言葉が婚約者から取れた。
結果、私は今ルーベルト様の婚約者だ。
「そうだぞ、俺まで置いていくなんてヒドイ! 」
と言っているのが実兄である公爵家長男のヒューズ。
「本当にヒドイ………僕を置いていくなんて………」
と言っているのが魔術師長の次男のシリル。
「俺、心が折れそうだ」
と言っているのが騎士団長の長男のランク。
ここまでみんながヒドイと言うのには理由がある。
それはヒロインであるルルの言動だ。
ヒロインについては、最初見つけて監視しておこうと思ったのだけど、ゲームの中でヒロインは、プレイヤーが自由に容姿をいじれたのだ。
その結果今世での容姿がわからず、ゲーム内でもその出自を詳しくは説明されていなかったため見つけられなかったのだ。
不親切なゲームである。
とりあえずゲームの本番の学園に入学してから調べるしかないと思っていたのだが、すぐに誰がヒロインか判明した。
男爵家の養女なのに王太子を含め高位貴族に自分から声をかけるという暴挙、いかに養女とはいえ通常では考えられない。
案の定学園では浮いた。
ただ、容姿は整っているので男子には一定の人気がある。
まあ、でもお望みの高位貴族の攻略対象者はみんなヒロインにドン引きしているんだけどね。
別に私は何もしていない、けどここはゲームではなくて現実なのだ。
「本当にあの令嬢の言動は意味がわからん。たまに見事な答えを返してくるがそれ以外の言葉はずれている。まるで何か台本があるようだ」
それ、正解ですランク。
「元は平民とはいえ、他の奨学生の平民は礼儀を弁えている。何故男爵家の養子の方が常識がないのだ? 」
それは、あのヒロインが完全にゲームだと思っているからですよ、お兄さま。
とにかくここは現実なのだ。
自分から声をかけてくることも、ボディータッチも、あり得ないことなのだ。
そりゃ、未知の生物に攻略キャラ達は恐れ慄いている。
「何であの子だけあんな残念なことになっているのかな? 」
たぶんそれは、ヒロインに転生? やったーーー! 勝ち組! って感じだと思いますよ、シリル。
「下手に関わるとこじれそうだ。本当はこの学園に相応しくないから出て行って欲しいけど、決定的な事はやってないからね。様子見だ。みんなあまり関わるなよ」
ルーベルト様に言われなくてもわかっている。
みんなも同じなようで頷いていた。
「ミリアム・ドットベル公爵令嬢! 爵位が低いからとルルをいじめていたことを謝罪していただきたい! 」
本日は卒業式、そして今は卒業パーティーの真っ最中。
んで、私に噛み付いてきているのは伯爵家の坊ちゃん。
ヒロインと取り巻きの伯爵家、子爵家、男爵家の坊ちゃんが集まっている。
ちなみに本来の攻略対象者は一人もいないのだけど………それで良いのかい? ヒロインさん。
確かに皆さん前世に比べたら顔面偏差値高めですが、攻略対象者に比べたら一段も二段も下だ。
しかもどうやらこの人たちは常識を知らない人たちらしい。
「聞いているのか?! ルルはずっと耐えてきたんだぞ! 」
えっと、この人たちは馬鹿なのかな?
私が何も言わないのに焦れた坊ちゃんの一人が私の腕を掴もうとした。
バシッ!!
「痛っ!!」
私の前に壁が出来た。
どうやらルーベルト様のようだ。
「お前達は揃って爵位の上の令嬢に噛み付いているのか? それは凄いな。それが家の方針かい? 」
ルーベルト様から黒いオーラが見えるような気がする。
「で、殿下! ドットベル嬢がルルをいじめていたのが発端です! 爵位が上なことを良いことにルルに酷いことばかりしていたのです! 」
そこでヒロインも取り巻きの後ろから出てきて話し出した。
「ルーベルト様、私、ドットベル様にいつも酷いことを言われたり、ノートを破られたり、この間は階段から突き落とされそうになったんです! ヒューズ様もシリル様もランク様も何故その方と仲良くされるのですか? 」
ヒロインの言葉に私の側に来ていた攻略対象者である彼らは笑い出した。
「それ本気で言ってるの? 」とシリル。
「本当に男爵家は教育せずに学園に入れたんだな………養子制度の変更も必要か」とお兄さま。
「意味がわからん」とランク。
「な、何故笑ってそのようなことを言うのですか? 私はドットベル様にいつも虐げられていたのに」
ヒロインが瞳をウルウルさせながらみんなに訴えかけた。
「で、一緒にいるお前達もこの子の考えと一緒なのかい? 」
「「「そうです!!! 」」」
ここまで取り巻きを虜にするとはさすがヒロインってところかな。
でもそれが、攻略対象者に効かなかったことをおかしいと思っていればこの事態は避けられたかもしれないのに、残念だ。
「そうか、ではお前達は未来の王妃に冤罪をかけた罪で捕まえさせてもらうな」
「え、冤罪だなんて………私は本当に」
「ああ、知ってる。嫌がらせ程度は受けていただろうな」
「な!し、知っていらっしゃるなら何故冤罪だなんて?! 」
「いや、だってミリーがやったわけじゃないし、もちろん指示もしていないからだよ。ああ、証拠はバッチリあるよ。なんたって未来の王妃だよ? いつでも影のものが付いている。それからこの学園のいたるところに記憶の魔法がかけられているから、階段から落とそうとした犯人もすぐわかるだろうね。それから君が嫌がらせを受けていたのは、自分から許可もなく高位貴族に話しかけることを続けたからだ。貴族になったのなら貴族のルールを守るべきだろう? それが出来ないのであれば平民に戻れば良い」
「が、学園は平等だって………」
「そうか、そこからか。なら、何故平民には強く当たっていたのだ? 自分は貴族だからと、面倒なことを平民の奨学生にやらせていただろう? 自分の都合の良いように貴族という身分を振りかざすお前は平等なのか? それに普通に考えればこの学園は社交界の縮図、今後のことを考えるのであれば身の振り方も自ずとわかるもんだろう? 」
うんうん、全部ルーベルト様が言った。
私、何も言っていない。
正論で滅多打ちされたヒロインはガチの涙目だ。
ルーベルト様には勝てないと思ったのか矛先を私に向けてきた。
「あなた転生者でしょ! だからヒロインである私の邪魔ばかりするのね? おかしいと思っていたのよ、私の渡そうとするお菓子を受け取らないし、イベントもほとんど起こらないんだもん! 」
自分から転生者と認める発言をした。
取り巻きの子たちは、突然激昂したヒロインにびっくりしている。
大きな猫が逃げ出しているよ、ちゃんと被っておかないと。
「だったらどうするの? 何も罪を犯していない公爵令嬢を貶めようとした、常識のない人を捕まえて何が悪いのかしら? そろそろあなたも目を覚ますべきじゃないかしら? ここは現実、前世と同じく生きた人間のいる世界。あなたの思ったように進む世界ではないのよ? 」
「前世って………やっぱり転生者なのね?! ちゃんと悪役令嬢の仕事しなさいよ! 」
「本当に自分のことしか考えていないのね。あなたのせいでこれから不幸になる人たちがたくさんいるのにね。言ったはずよ、ここは現実。あなただって怪我をすれば痛いだろうし、病気になれば苦しいでしょう? それはゲームではあり得ないことではなくて? ここにいる人たちもみんな感情があるの、現実だから、よくあるゲームの強制力とやらもないわ。現に攻略対象者は誰もあなたの側にいないでしょう? 」
「なによ、なによーーー! 私がヒロインなんだもん! 幸せになれるんだから! 」
「じゃあ、この状態はゲームで言うところの攻略失敗ってところね。そもそも転生者が自分だけ、もしくは悪役令嬢役の私だけって思い込みが間違っているのよ」
「はあ? まだいるって言うの? 」
私は無言で攻略対象者たちを押し出した。
「へ? この中にもいるって言うの? 」
ヒロインが気の抜けた声を出した。
「この中にもというか、全員だね。ついでに言っておくとあのゲームに出てきていた名前持ちはみんな転生者みたいよ。っていうか気付きなさいよ、いくら日本のゲームの世界だからって日本食がこんなに浸透しているのおかしいじゃない。私たちの親世代のゲームの名前持ちが転生者で権力持っているもんだから協力して日本食充実させてるのよ。本当はあなたにも説明しようとしたんだけど、私が近付くとすぐに虐められたフリするし、だからって攻略対象者が近付けばベタベタしたり、課金アイテムの好感度アップお菓子食べさせようとするから出来なかったのよね」
「わ、私だけ知らなかったの? 」
「そうね、転生者の中ではあなただけじゃないかしら。だって他の転生者ってこの世界を現実だってみんな認識しているもの。あなただけが話が通じなかったのよね」
「そ、そんな………」
そんな感じで断罪イベントっぽいイベントもケリがついた。
あの後、ヒロインは気が抜けたように大人しくなった。
取り巻きは好感度アップの菓子を少し食べていたらしく、その効果がなくなると自分のしたことを後悔していた。
転生者に巻き込まれたようなもんだけど、貴族としてたいして仲良くない人からもらったモノを口にするのは如何なものかと、貴族としての再教育を受けさせるよう厳命されている。
「はあ、なんとか終わったわね。ところでみんなは本当にヒロインに攻略されなくて良かったの?」
お兄さまとシリル、ランクが揃って言った。
「「「可愛くてもアレはムリ」」」
「僕はもともと悪役令嬢派だったからね。だいたい婚約者がいるのに他の子と仲良くしてたら普通に考えて、婚約者が嫌な気持ちになるに決まっているよね? なんでゲームの世界だとそんなダメ婚約者ばっかりなんだろう? それに、今は本当に幸せだよ。だって重圧の多い王太子に転生して挫けそうな時に、自分の婚約者候補が常識人の転生者だったんだから。そりゃ、候補なんて言葉は取っ払ってすぐに婚約者にするよね。これからも末永くよろしくね、ミリー」
ルーベルト様は笑顔で私の手に口付けを落とした。
私は知っている、実はルーベルト様がガチのミリー派だったことを。
ミリーを救うルートを探して何周もしていたらしいと、同じく転生者の王妃様に教えてもらっていた。
前世の記憶にうっすらと残っている私の幼馴染も同じようなことをしていたけど………まさかね?