水龍の子
新たな仲間の登場です。どうぞお楽しみください。
「何でドラゴンがここに?」
私がやっと声に出した一言を聞いたドラゴンは、急に騒ぎ出した。
「キュイ!キュッキュッキュイ〜〜〜!!」
「な……なに?急にどうしたの?」
「フムフム、なるほどのう。どうやらおぬしがこの水龍の子を『ドラゴン』と呼んだのが気に食わんかったらしいの。」
おお、師匠は龍の言葉もわかるのか。そういえば、師匠は水龍って言ってたっけ。
「ヒナの世界ではどうか知らんが、ドラゴンと龍は違う種族なのじゃよ。龍族は精霊の高位種で崇高な種族なのじゃ。そしてドラゴンは袂は龍族と同じなのじゃが、長い年月の中でその知性や言葉を失い、一介のモンスターと成り果ててしまった者を指すの。」
ああ、なるほど、だからあんな奴等と一緒にするな、と言いたいのか。そうか、それは申し訳ない事をしたな〜。
「気分を悪くしてしまってごめんね。」
と私は水龍の子の頭を撫でながら謝罪した。
「キュイ〜〜〜〜……。」
水龍の子は気持ちよさそうに甘えてきた。
……………カワイイ…………。
「きゅ……」
水龍の子は口を大きく開けた。
おや?何だか様子がおかしい……?
光の粒が水龍の子の開かれた口に集まってゆく。
『カッ!!』
と眩い光で辺りが真っ白に染まる。
あっ、ちょっ……待っ……
『チュイーーーーーーーン!』
水龍の子の口に集まった光から一筋の閃光がヒナの髪を掠めて走り、少し間を置いてから、
『ドゴオオオォォォォン!!』
という凄まじい爆音が周囲に響き渡った。
なっ……なっ……何なのコレーーーーッ!!
驚きすぎて腰を抜かした私を尻目に、水龍の子はまるで一仕事終えたように額の汗(?)を拭い、
「ふうっ。」
と息を吐く。
師匠はというと
「おや、さっきあちらの方向におったリッチ達の気配が完全に無くなっておるの。というか、あそこにあったダンジョンの入り口ごと消し飛んだの。カッカッカ!」
と暢気に、そしてやけに楽しげに分析していた。
いやいやいやいや、師匠!!違うよね?そこ、笑う所じゃないよね?いきなりビーム打つとか危ないでしょ!?注意する所だよね!?私の髪の毛焼けたんだけど!?
という心の叫びは置いといて、私は水龍の子にあくまで冷静に諭した。
「君ね、いきなりビーム打つと他の人が巻き添え食らうかもしれないから、打つなら一言教えてね。」
と、左の髪の毛がちょこっと焦げた私は水龍の子に優しく言った。
「キュ……キュ〜ン………。」
怒られた水龍の子は落ち込んでしまった。しまった。少しキツく起こりすぎたか。
二人のやり取りを見ていた師匠が思わず助け舟を出した。
「まぁまぁ、そう怒ってやるな。その子はおぬしを守るつもりでやったことじゃ。」
「私を守る?」
「うむ。あのダンジョンはレベルの高いリッチやネクロマンサーがの呪いを駆使してくる危険な場所でな。あの場所で冒険者が数え切れぬほど命を落としておるのは確かじゃ。今のおぬしでは到底太刀打ちできん。ここには結界があるから心配は要らぬが、一度出れば必ず奴らの標的になるじゃろう。」
私は水龍の子を見つめる。
水龍の子も私を見つめる。
『ジーーーーーーっ』
そして私はガバッと水龍の子を抱きしめた。
「ゴメンね。怒ってゴメン。私を助けてくれてありがとう!」
「キュイイイ!」
水龍の子は「いいんだよ」とでも言うように、二つ頷いた。
私は水龍の子をギュッと抱きしめながら師匠に尋ねる。
「師匠、この子まだ子供ですよね?迷子なのかな?親御さんの所に返してあげないと……。」
水龍の子はイヤイヤとするように首を横に振った。そして私にしがみつく。
「帰りたくないのかの?いや、違うな。ヒナと一緒にいたいのじゃな。」
水龍の子は肯定するように今度は頭を縦に振った。
キュウ〜〜〜ン!
か……可愛すぎる…………。
「師匠、私もこの子と一緒にいたいです……。」
私も水龍の子の可愛さにすっかり骨抜きにされていた。アレ?もしかしてこれ魅了の魔法?
「カッカッカ!まあ仮にも水龍の子供を追い返す訳にもいかぬじゃろうな。良いじゃろう。これから賑やかになるのう。」
私と水龍の子は嬉しくて踊って喜んだ。
……この際、中身の年齢は気にしない。
「ありがとうございます。じゃあ名前を考えなきゃ。」
「おお、それは良いな。そうすればこの子はおぬしと契約を交わせるし、そうすればこの子が攫われる心配もなくなるの。」
「契約……?攫われる?どういうことですか?」
「龍族は珍しい種族だからの。捕まえて売れば莫大な金になる。しかも子供だから余計に狙われやすいのじゃ。」
ああ、なるほど。考えてみれば納得だ。
「あとは契約だが……。そうか、まだ教えていなかったの。これは別に魔法使いだからという事でもないんじゃが、人間が人間以外の種族と契約すると、両者共に様々なメリットがあるのじゃよ。勿論デメリットもあるがの。」
人間とそれ以外の種族かぁ……。
「要は互いの魂を共有する為の契約なのじゃが、そのことによって得られるメリットは双方共にステータスが飛躍的に上がることじゃな。それと魂を共有したことにより、互いに考えていることもまた共有する。どんなに離れていてもな。」
「えっ、って事は例えば片方が他の国へ行ったり、捕らえられたりしてもお話ができるって事ですか!?凄い!!」
私は水龍の子と喜んだ。
「しかし、じゃ。それは他人には聞かれたくない恥ずかしい事も知られてしまうということじゃ。」
それを聞き、私と水龍の子は固まってしまった。人の子の私にも知られたくない事があるように、水龍の子であるこの子にもそういったことはあるらしい。
「そういう時には念話スキルを切っておくと良い。緊急時には勝手につくようになっておるからの。」
「それはどうやってできるんですか?というか私、今自分がどんなスキルを持っているのかも知らないんですが……。」
「持っているスキルの確認はギルドカードがあれば楽じゃの。オンオフもカードでできる。無ければ神殿に行って確認することもできるな。後は、相手のスキルを見る事のできるスキルもあってな。そういったスキル持ちに見てもらうのも一つの手じゃ。だが希少なスキルだからあまり所持者はおらぬがの。」
う〜ん……、ってことは、ギルドに登録するまでは契約しない方が良いのかな……。
「もう一つ、デメリットがある。それは片方が死んだ時、残ったもう片方も死ぬ、ということじゃな。魂を共有しているから、死ぬ時は一緒じゃ。」
「えっ、じゃあもし私が死んだらこの子も……?」
「そういうことじゃな。」
私はゾッとした。今の私は修行中の身とはいえあまりにも弱すぎる。私が死ぬのは自己責任として、この子にまで被害が及ぶのは流石に申し訳ない。龍の子だからきっと寿命も長いんだろうしな〜……。
その後、私は師匠と相談して水龍の子との本契約は私がギルドに登録してからということに決まった。名付けだけなら大丈夫との事だったので、私は真剣に考えて名前を決めた。
「貴方の名前は『スイ』。水龍の水から取ったの。」
「キュイキュイ〜〜!」
水龍の子、改め『スイ』は嬉しそうに私の顔面にへばりついた。
「………………………!!」
これから楽しくなりそうだな。
でも顔にへばりつくのは禁止しよう。
と、酸欠で遠のく意識の中、私は強く心に誓った。
なかなか愉快な仲間ができました。スィはまだ子供で人間の事は殆ど知らないので、加減がわからないようです。これからもどうぞよろしくお願いします。