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訓練

引き続き、ヒナと師匠の会話からです。どうぞお楽しみください。

 あまりに突然の壮大な話に脳味噌がフリーズしてしまった私は固まってしまった。だって、こんな話を直ぐに理解しろって言われても無理だよ〜……。


 師匠がそんな私を見て笑う。


「カッカッカ!そう思い悩むな。おぬしはおぬしのままで良い。寧ろ他の誰かになどなろうとするでないぞ。それではおぬしの望む物は手に入るまいて。」


「私は私のまま……?」


 私は言葉の真意がわからず考え込む。


「難しい話はここまでじゃ。さて、そろそろ晩ご飯の支度でも始めるかの。ワシが拵えてやるからおぬしはそこで待っておれ。色々と一人で考えたいこともあろう。」


 そう言って師匠はご飯の支度をしに一人キッチンへと向かった。


 残された私は師匠から聞いた話を反芻する。


 神同士の争い、種族間の諍い、そんな中での旅人である自分の立ち位置。難しい事ばかりだ。到底私一人で何とかなる問題じゃない。


 そこで私はふと、この世界に来た時の事を思い出した。


 私と戦う事になるもう一人の旅人の男。


 確か『同じ女の腹から産まれた』んだったな。ってことは、男は私の双子の兄弟、男の母は私の母でもあるのか……。


 魔力を持っていた私は母から疎まれ殺されかけ、兄弟は愛され優遇される。


 ああ、私の前世と全く同じじゃないか。


 私は……()()…………。


 と、暗い雰囲気になった所で、私は頭をブンブンと横に振り、嫌な考えをかき消した。


 違う。()()()とは違う!今は傍に師匠がいてくれる。今の私は一人じゃない。もう絶対に諦めるもんか。


 私は意を決して師匠に声をかけた。


「師匠、手伝います。」


「何じゃ、もう良いのか?」


「はい、今色々考えた所で答えは出ないことがわかりました。それよりも今できることをします。」


 私は鼻息荒く、ふんぞり返って答えた。


 それを見た師匠は、ククッと笑った。


「そうじゃな。それはおぬしらしい答えじゃの。まだまだ先は長い。これからのおぬしの人生の旅路の中でいずれ答えも見つかろう。焦らずとも良い。」


「はい!」


 そうして私は師匠と一緒に夕飯の支度を始めた。確かに私には色々と背負っているものがあるのだろう。


 けど今はそれよりも、師匠と一緒に過ごすこの時間が大切なんだ。この一瞬一瞬を大事にしたい。前世ではできなかった、こんな普通ののどかな時間を今は噛み締めていたい。


 ああ、私今、とっても幸せなんだな〜。


 と、しみじみと感じた。


 翌朝。


 朝早く起きた私は、玄関の扉を開き外の様子をチラリと覗く。誰もいないことを確認してようやく外に出た。


 師匠からは、この家の中心から半径5kmの範囲は結界があるから大丈夫だと言われたが、やはり敵の姿を見るだけで恐怖で硬直しそうなので、家から出る時には必ずこうして確認してから出るようにしている。


 因みに結界は『魔物や悪意を持つ者はここを見つけられない』のだが、どうやら結界内は別次元となっているらしく、例えば結界内の敵に当たったとしてもスルリとすり抜けてしまうらしい。


 私が外に出ると、空からポツポツと雨が降ってきた。空には分厚い雲が広がっている。


 今日は一日中雨だな〜……。


 私は、雨が本降りになる前に昨日師匠から言われた通りに、呼吸からマナを取り込む訓練から始めた。


 私は目を閉じる。


『スーッ……』


 先ずは周囲のキラキラを吸い込んで……。


『ハーッ……』


 体内の汚れを吐き出す……。もう一度。


『スーッ……ハーッ……』


 次は周囲のマナを吸い込んで……。


『スーッ……』


 身体中の隅々にまでにマナを浸透させる。


『ハーッ……』


 ゆっくりと息を吐き、心を落ち着かせる。


『パタパタパタパタ……』


 リズム良く、雨粒が私の体に当たる。どうやら雨足が強くなって来たようだ。雨音が心地よい。雨に濡れているのに全く寒いとも思わなかった。


『ピチャン……』


 数多くある雨粒の音の中の一つの音が私の脳裏に響く。


 すると目を閉じているにも関わらず、周囲の雨の様子が手に取るようにわかった。


 空に浮かぶ雲から生まれた、目に見えない程に小さな水の粒子が、下に落ちるごとに水分を増し、一粒の雨となって私に当たる。


 私は無意識に、その一粒の雨を受け取るように手を前に差し出した。


 するともう一粒、空から落ちてきた雨が私の掌に注がれる。


 ああ、今私は自然と一体になっている。この雨は私への贈り物(ギフト)なのだと直感で感じた。


 すると…………


『キュイ……?』


 何かの動物のような声が聞こえた。


 驚いて目を開けると、目の前に青いドラゴンの子供のような動物が、背中の羽をパタパタさせて飛んでいる。


 私がわけも分からず口をパクパクさせていると、後ろから師匠が


「フム。これは珍しい。水龍の子供じゃな。」


 と、特に気にすることもなく答えた。


 いやいや師匠、違うでしょ?


 そうじゃなくて……


 何でここにドラゴンがいるの〜〜〜〜!?





 

師匠との幸せな生活を噛みしめるヒナ。前世で苦労してきた分だけその一瞬一瞬がかけがえのないものなんですね。さて、最後に新たな仲間の気配です。これからも何卒よろしくお願いします。

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