人の温もり
平和な日常の中、ヒナが少しづつ成長していきます。少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
あれから私は師匠の書斎にある本を、特に先代勇者に関わり合いのある本を探した。
だって、育ての親(ってか祖母?)が本に書かれてるかもしれないんだよ?そりゃ〜読むしかないよね。(正確には勇者一行の話だけど)師匠の事や自分の事、何かわかるかもしれないし。
あの時の師匠の寂し気な顔を見たら、本人に聞くのは何だか憚られたんだ。あまり他人の私が触れちゃいけないような……。
ま、聞いたところで絶対教えてくれないだろうけどね。
ってことで自力で調べてみることにしました。こんな時に図書館とか行けたら良いんだけどな〜。家から一歩も出られないから、まぁしゃあない。私だってまだ死にたくはない。
そういや懐かしいな〜……。この一人で部屋に籠って何かに没頭してる感じ。前世で部屋に籠って小説や漫画読んでたのを思い出す。もともとこういう一人でするチマチマとした作業って結構好きなんだよね。
あはっ、そういや今世もまだ師匠としか会話してないや〜。こりゃまた『陰キャ』人生まっしぐらかな〜。まっ、それはそれでいっか。取り敢えず今は勇者のこと調べなくちゃ。
まぁ、師匠の事を詮索してるようでちょこっと気が引けるけど……。師匠に見つからないように、師匠が出かけてる間にこっそりと……。
……で、この『ゆうしゃのほん』っていう安易な題名の絵本の登場なワケだ。実は言うとこちらの文字は日本語とは全く異なるらしく、読み書きもままならない。
師匠に教えられた文字だけ(自分で自力で勉強したものも含む)、何とかかんとか読むことができる。だから幼児用の絵本しかまだ読めないのだ。(幼児用の絵本でさえ心許ない)
魔法の勉強の本もまた然り。初歩の初歩、幼児用の本でしか学べない為、実際あんまり勉強は捗ってはいない。
フムフム…………。
へぇ〜…………。
なるほどね…………。
……………………………。
………さっぱりわからん。
あれだ、幼児が絵本読むとき、自分が知ってる文字だけ読むあれだよ。だからさっぱり話が繋がらん。クッ……。
もう少し文字や単語を覚えてから再チャレンジだな。
キイィ〜〜〜〜〜〜ッ。悔し〜〜〜〜〜!
と、私は悔しさを表現するためにハンカチを囓る。(これ、かなり昔の漫画の表現にあったんだよね。一体どんな意味なんだろ?)
「………せ」
ん?今外から何か聞こえた?私は耳を澄ましてみる。
「この辺りにあるはずだ!探せ!」
「はっ!」
私は見つからないようにこっそりとカーテンの隙間から外を覗いた。そこにいたのは鎧を着た数人の兵士達だった。
人?あの格好は兵士?なになに?もしかしてこの家を探してるの?出たほうがいいのかな?
私は外に出ようと玄関のドアノブに手をかけかけた瞬間、師匠の言葉を思い出す。
『この家には強力な結界が張ってあるから、魔物や悪意を持ってこの家に近付く者にはこの家は見えないんじゃよ。』
私はゾッとした。
あの人達はどう見ても魔物じゃない。じゃあこの家を見つけられないあの人達は『悪意』を持ってここを探している、ということになる。
怖くなった私は直ぐに手を引っ込めて、二階にある自分の部屋のベッドの中に潜り込み、師匠の帰りを待った。
『カランコロン……』
私はベッドから飛び起きた。師匠が帰ってきたんだ!
私は部屋を飛び出して螺旋階段を駆け足で下り、急いで玄関へ向かう。
「ただい……。」
師匠が言い終わるのも待たず、私は師匠に抱きついた。
「なんじゃ、私がいない間に何かあったのかい?」
「外に……兵士……ここを見つけられない……人達。」
私はあまりの恐怖に柄にもなく泣いてしまった。師匠は私の言葉にハッとしたように外を見る。もう彼らはいなくなっていたようだ。
「もう大丈夫じゃ。怖い奴らはいない。安心おし。」
「うっ……うわああぁぁぁん!」
そう言って師匠は私の頭を優しく撫でた。それは母の様に祖母の様にとても温かいもののように思えて、安心した私は大泣きしてしまった。
ああ、私、やっぱり寂しかったんだな。急にこの世界に連れて来られて、無理矢理向こうの家族と離されて、とても不安だったんだ。と、ここに来て初めて気が付いた。
と同時に、はたして私は向こうの家族とこんな風に心から信頼しあえる関係を築けていただろうか?と考える。
家族だけじゃない。仕事仲間と、友達と、私は絆を紡ぐ努力をしてきただろうか……?表面上だけの付き合いではなかっただろうか?
人との関わりを面倒臭がって、一人の世界に引き籠もって、極力他人と関わらないようにしてきたのではないだろうか?
言いたいことを我慢して、全て自分の中で結論付けて、諦めてはいなかっただろうか?
もっと早くに気付けていたら、あちらでの生活も、もっと何かが変わっていただろうか?
けど、もう帰ることはできない。あの時に時間を戻すことはできない。
なら、今自分にできることをしなくっちゃ。
私は師匠に全てを話す決心をした。
ようやく本当の弱さに気付いたヒナ。少し成長しました。まだまだお話は続きます。これからもよろしくお願いします。