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さるまわし  作者: やゆ
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「やはり! 私の目に狂いはなかった!! 君たちが手を組めば負けないと、私は信じていたのだよ!」


 二時間ほど掛けて『神鎮隊』の拠点に戻った南部なんべ達。事務棟の扉を潜るなり大きな声が出迎えた。三角みかどは興奮しているのか、これまでよりも一段とボリュームが高い。南部は思わず耳を塞いでいた。


 隣にいるイネは、三角の興奮を、予め想定していたらしい。いつのまにか用意していた耳栓を身に着けていた。教えてくれればいいのにと目を細めるが、イネはどこ吹く風だった。


「今回は、まだそんなに強い『神成』じゃなかったから、私は首輪をつけただけ。南部なんべ しょうが一人で倒したようなものよ。じゃあ、私、ちょっとシャワー浴びてくるわ」


神成かむい』を倒すことは当たり前だと、白色に光る証明に腕を伸ばして去っていく。


「『神成かむい』を倒した後にシャワーを浴びるのは、彼女のルーティーンみたいなものだよ。南部なんべくんもシャワー浴びるかい? それとも祝勝会を開こうか?」


 三角みかどがその場に残された南部なんべの肩を叩こうとする。三角の手の平が南部に触れようとした時、事務局の扉が勢いよく開かれた。


三角みかどさん!」


 扉を開いた人物を見た瞬間、事務局の空気が「ピリッ」と引き締まる。

 真っ直ぐに三角みかどを目指すと、グッと胸倉を掴んだ。三角みかどよりも少し背は低いが、日本の平均身長よりは10センチは高い。

 年齢は二十代前半で、整った顔立ちにセンターで分けられた髪型。服装は黒のスーツに真っ赤なネクタイ。

 いきなり、人の胸倉を掴むような人物には見えなかった。


「なんで、訓練をしていない『サル』を現場に送り込んだんだ。連絡が来てからもう数時間。急いで鎮めに行かないと――」


「まあ、まあ、落ち着いてよ。ほむらくん。もう……。私は彼に連絡しないでって言ったのにー」


 三角は、胸倉を掴まれたまま肩を落とす。曲がった首で視線を送るのは、モニター前に座っていた女性だった。

 どうやら、三角みかどが知られたくなかった相手に連絡をしたのは彼女らしい。涼しい顔で大声を聞き流すと、「私もシャワー行ってきます」と場を去っていった。


「はぁ。彼女、優秀なんだけど、心配性なんだよね……」


「違う! 彼女は正しい選択をしたんだ。間違っているのは三角さんなんですよ!」


 焔は掴んでいた胸倉を放すと、乱れたスーツを治しながら『猿飛部屋さるとびへや】へ移動する。

 所作の一つが芝居がかっているなと南部は思う。まるでドラマを見ているようだ。


「至急、百合ゆりに連絡を頼む。休日ではあるが部屋にいるはず。それまでは俺一人で足止めをしよう。『猿飛』の準備も頼んだぞ!」


 テキパキと指示を出していくほむら

 既に『神成』は南部なんべ達が倒しているのだが、誰も教えようとはしなかった。口を開かぬ代わりに、事務棟にいる全員の視線は三角に集められていた。

 仲間たちの視線に「僕が言うのか」と、項垂れていた肩を更に深く落とした。


「現れたのは西部の『童話の里』なのだよ。『猿飛さるとび』は既にセットされてるから、いつでも行けるようにはなっている」


 顔は床を見つめたまま、指先だけが『猿飛』用の部屋に向けられた。

 伝えるべき内容は、それではないのではないか?

 南部の意思を代弁するように一斉に人々は首を降るうが、


三角みかどさん、話はこれで終わった訳じゃない。その『サル』を連れてきてからが本番だ!! それまでに俺が納得出来る答えを用意しておくといい!!」


 ほむらは、早口で捲し立てると部屋の奥に消えていった。『猿飛さるとび』を使用することで放たれる光が、扉の隙間から僅かに漏れる。

 光が消えたことを確認すると、三角がスキップをしながら近付き、勢いよく扉を開いた。『猿飛部屋さるとびへや』には、誰もいなくなっていた。


「よし! 五月蠅い奴は消えたぞ!」


 大仕事だったと額を腕で拭い、汗を払う動作をしてみせる三角みかど。しかし、その表情は疲労よりも嬉しさが勝っていた。

 余程、ほむらが苦手なのか。


「いいんですか? その、結構遠いですよね?」


 実際に『童話の里』から公共機関で帰宅した南部なんべは、その大変さを経験している。倒すべき『神成かむい』のいない場に、人を送り込んでいいのかと、三角みかどの顔を除く。

 南部の心配を吹き飛ばすほど表情を喜びに染める。


「そうだけど……本人が話を聞かなかったし。それになによりも――邪魔だもん」


 腕を組んで言い切った。 

 果たして、国を守る組織がこんな事をしていていいのかと南部なんべは疑問に思うが、現に被害は抑えられているのだから良いのだろう。

 南部は、そういうことにしておいた。『神成かむい』との初戦闘を終えた今は、深く考える余裕もない。


「えっと、それで僕たちは何の話をしていたんだっけ――そうだ。祝勝会だ!! 急いでケーキを買いに行かないと!! 『猿飛』の準備を!!」


 ケーキのために『猿飛』を使おうとする三角みかどの袖を、南部なんべが掴んだ。自分のために準備しようとしてくれるのは、嬉しいが黙っていると祝勝会が開かれてしまう。南部は自分の意思を、三角に伝えた。


「あ、いえ。その……今日は、帰らして貰ってもいいですか? 初めて『神成』を鎮めたので疲れちゃいました……。イネさんに宜しくと伝えてください」


 祝勝会は無理強いするモノじゃないよね、三角は小さく頷く。


「分かった。今日はゆっくり休むといいのだよ!」


 小さく頭を下げた南部なんべは、小さな充実感と共に帰宅するのだった。

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