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「取り敢えず目隠しを外していいよ」
南部は言いながら、少年の目に巻かれた黒い布地を解いた。
南部達がやってきたのは、『神鎮隊富士山支部』にある自室。
目隠しをされて、どこに連れてこられるのか少年は不安だったのだろう。ゆっくりと開いた視界に移ったのが、生活感ある場で安心したようだ。「良かった~」と大きく息を吐く。
「まあ、座ってよ。えっと……。そう言えば名前、まだ聞いて無かったね」
少年は引かれた椅子を前に小さく会釈をすると腰を降ろした。
「大谷……真澄って言います。いやー、それにしても俺、『神鎮隊』に初めて入りましたよ。思ったより普通なんだ!」
目隠しから解放された安心感と、まだ、何が起こるか分からない緊張から少年――真澄は饒舌に語る。
そんな子供の姿を微笑ましく見守りながら、
「真澄くんか。コーヒーでいい?」
と、インスタントの顆粒が入ったビンを振るう。そんな南部に、真澄は「あのさぁ」と息を吐く。
「子供にコーヒーって、普通進めないよね? コーラとかないわけ?」
生意気な少年の口調にも南部は、「あ、そうだね」と冷蔵庫からジュースを取り出しコップに注ぎ始めた。
「はい」
「サンキュー」
テーブルに置かれたジュースを「ゴクッ」と喉を鳴らして飲む。
「ぷっは。おかわり!!」
図々しくもコップを上げて追加の欲求をする真澄。図々しい姿にイネは「この子……。自分の立ち位置分かってるの?」と、表情を曇らした。
そんなイネに落ち着くように視線で語りかけると、並々と注いだコップを真澄に渡して質問を投げた。
「それで、なんで友達に『神成』になることを進めたんだ? いくら子供でも、危険だって分かるだろ?」
南部の問いに渡されたジュースに口を付けることなく答える。
「そうだけど、でも、あいつが動けないって現実を受け入れたくなかったんだ。それに、俺だって冗談のつもりで言ったのに――」
真澄はその時のことを思い出す。
病室。
上体をベッドから起こして窓の外を見つめる親友には生気がなかった。そんな親友を励まそうと真澄は言った。
「『神成』になれば動けるようになるんじゃないかと」
それから数日。
お見舞いに行った真澄の前で親友は『神成』にへと変貌をした。
「でも、あいつは変化してから、誰も人を襲ってない! 自分が動けることを純粋に喜んでたんだ!!」
「……そういうことね」
イネはギリと唇を噛む。動くことが欲望であれば、既にもう全身に色が広がっているかもしれない。生物の力を手に入れただけならいいが、下手すれば完成体へと――。
「ちょっと三角さんに連絡してくるわ。最悪、本部との連携も必要になるだろうし、他のメンバーの手も必要になるかもしれないわ」
「頼むよ」
南部はイネの言葉に頷き、部屋から出ていく背を見送った。「バタン」と閉じられた戸の音を確認した真澄は、俯きがちに南部に言った。
「なぁ。正平を殺したりしないよな? あいつ、誰も襲ったりしてないんだからさ」
「……」
真澄の懇願に南部は答えることができなかった。
沈黙を破ることで親友――正平は生きられるとばかりに、真澄は口を動かし続けた。
「あいつが動けなくなったのも、俺が悪いんだ。クラブ内で公式戦をしていた時のことでさ。俺はあいつのボールを打ち返したんだ。その弾は正平の顔に当たって病院行き。意識は戻ったけど手足の麻痺が酷て日常生活も厳しいって。今の医学じゃ原因が分からないってさ」
受け入れられない現実を壊したいんだから、神に祈ったっていいじゃんか
真澄の言葉はもはや誰に告げたのかも分からぬほど小さい声だった。
消え入りそうな声で真澄はもう一度聞いた。
「なあ、だから正平を倒したりしないよな? あいつはちゃんと人として生きられるよな?」
「それは――」
南部は答えのないまま口を開く。一体、この後に言葉をどう続ければいいのか。だが、南部が声を出すよりも早く連絡用端末が鳴った。
ジリリリリと。
目覚ましのような音。
南部は直ぐに手を伸ばして応じる。
「もしもし、どうした?」
「丁度、逃げた『神成』の居場所が分かったみたいよ。応援の要請は三角さんが引き受けてくれたから、私たちは現場に向かうわよ」
「……分かった」
電話を切ると真澄が身を乗り出して聞いてきた。
「なあ、正平の居場所が分かったのか?」
嘘の要件だと言えば誤魔化せたかもしれない。だが、南部は親友を思う真澄に嘘を付けなかった。イネから聞いた内容をそのまま伝える。
「ああ、正平くんが現れたみたいだ。取り敢えず、君は危険だからここで待っててくれ」
「嫌だ! あいつは俺を求めてるはずなんだ!」
「でも、現場は危険だからさ。俺達に任せてくれよ」
「任せたら、正平は殺されるんだろ!?」
だが、知った以上は真澄だってそう簡単に「分かった」とは言わない。椅子から降りた真澄は地面に倒れ込み年齢よりも更に幼い行動で駄々を捏ねる。部屋に響き渡る獣のような鳴き声に、バタバタと手足を地面に叩きつける音。
「お、落ち着いて」
南部は暴れる少年に声をかけるが一向に収まる気配はない。それどころか、南部の声を掻き消さんばかりに一段と暴れ始めた。
「困ったな……」
椅子から立ち上がった南部は、どうすればいいのかと頭を掻く。意識の疎通が出来ぬ『神成』であれば、戦って倒すだけだが、真澄はただの子供。『申』になったところで、解決しない。
数分、動きを止めて南部は考える。最終的に出てきた案は「別の人に任せよう」というモノだった。
「よし、じゃあ、一緒に事務棟に行こう。そこなら人は沢山いるしさ」
事務棟には十数人の『神鎮隊』が集まっている。その中に子供の相手が得意な人が一人くらいは居るはずだ。そう考えた南部は、真澄を連れて事務棟へ向かう。
本来は敷地内は目隠しはさせなければならぬ決まりなのだが、子供の泣き声に動揺した南部は、それすらも忘れて事務棟へ入る。
目隠しもせずに子供を連れてきた南部に、一斉に避難の視線が送られる。
「あ、その……急いでて。ごめんなさい。それより、ちょっと、この子をお願いしてもいいですか?」
「構わないよ! 私はこう見えても子供が大好きだからね!」
頭を下げる南部に対応したのは意外なことに三角だった。踊るような勢いで近付くと、真澄に視線を合わせるべく腰を落とした。
「ありがとうございます」
南部は礼をしながら、『猿飛部屋』へ移動する。部屋の前には既にイネが準備を終えて立っていた。南部が武器として使用する短剣を抱え、「急げ」と首だけで指示を出す。
『猿飛部屋』へ入った南部に、イネが床に手を触れながら聞いた。
「それで、理由は分かったの?」
「ああ、それがな……」
南部は屈んだイネの小さな背に、真澄から聞いた内容を告げる。あの『神成』は真澄の親友であり、願いは「動けるようになる」ことだと。
「そう。それが願いね」
光を帯びた模様。『猿飛』には、全て光らせることが必要なのだが、その途中でイネは力を送ることを辞めた。
まるで時が止まったかのような空間。
イネは振り向くことすらせずに、南部に聞いた。
「あなた……それを聞いて倒せないなんて言わないわよね?」
少年の親友で、怪我で動かなくなった身体を戻すために神に願った少年――正平。
真っ直ぐと南部を見つめる。
病院で真澄が『神成』親友だと告げた時から、イネは心配していた。倒すべき存在の過去を知ってもなお、南部は『神』を倒せるのかと。
経験の浅い南部がどんな答えを出すのか。
今のうちに聞いておいた方がいいとイネは考えたようだ。
イネの小さな背に南部は迷うことなく答えた。
「例え元になった相手が少年だろうと、他人を危険に巻き込むなら倒す。それだけが最大の救いだ」
南部の答えにイネは振り向き笑う。
「分かってるじゃないの」
イネは止めていた時を動かし――『猿飛』を発動させるのだった。
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