表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さるまわし  作者: やゆ
14/40

14

 袋を解き、包まれていた物体を取り出した。イネは両手に感じる重みを託すように南部なんべに向けて床を這わせた。

 地を這うブーメランのように回転した物体は、真っ直ぐに南部の元へ向かった。南部が回転を止めて拾い上げる。

 それは――短剣だった。

 グッと力強く握る。

 刀身が短く機動性に優れた武器。鋭く砥がれた表面が、天上のライトを反射させる。光を自分の目元に当てて遊び始める南部の姿に、イネは一縷の不安を抱いた。


「……本当に、使えるんでしょうね?」


 南部を注視するイネ。

 南部なんべ武器バットを使っていたと聞いてはいるが、実際に見たことはない。偶然、使ったように見えただけなのかも――。


「『サル』が武器を使うのは、神に近付く行為なんだもの……」


 神に渡り合うために知能を捨てたのに、武器を使う行為は『申回士さるまわし』ではそう認識されていた。

 意識ではなく身体に染み込んだ技術。

 その域まで達するには、どれほどの鍛錬を積まねばならないのか。

 だが――。


「嘘……でしょ?」


 南部なんべを、『神成かむい』が鎌を交差させて引き裂こうとした手を、交差する点で止めるように短剣を構えていた。

 鎌と短剣が*《アスタリスク》を描くように交わる。


「キキ。キィ!!」


 受け止めた鎌を弾き飛ばした。両腕を万歳するように開いた『神成かむい』の腹部。そこを守るものは何もなかった。

 南部は鎌を弾いた腕をそのまま水平に切り返す。

 ただ、武器を扱うだけじゃない。

 剣道の技術を用いた南部なんべの刃は、『神成かむい』の腹部を捕らえた。流れるような動作に、思わず見惚れてしまう――。


「……ここまでくれば、マグレじゃないってことね! トドメよ!!」


 イネが叫びと共に自らの精神力を高めていく。

 強化された腕力で振るう南部の短剣が、『神成かむいの身体を真っ二つに切り裂いた。

 上半身と下半身に分かれた『神成かむい』は、昆虫の生命力を持つのか、しばらく蠢いていたが、やがて身体は静止し消滅していく。

 その光景に手を合わせるイネ。


「……安らかに眠って頂戴」


 それが合図となったのか。南部なんべを包む光もまた弱くなった。


「ふぅ……」


 南部は『さる』の状態が解除されると同時に、足首の筋を切られたことで、逃げることが出来なかった亀田 サリーの元へ歩く。


「ありがとうございますぅ~!!」


 大粒の涙を流しながら、頭を下げる彼女に南部は聞いた。


「『神成かむい』は、あなたを狙ってたけど――何があったんですか?」


 人が神になった理由を南部は問う。自分を見失ってでも達成しなかった願いがなんなのかを――南部は知りたかった。


「ちょっと、聞いてもしょうがないでしょ?」


 被害者に対して失礼よ。と、イネが制止をするが南部はそれでも引き下がらなかった。


「でも、その人がどんなことを思ってたのか、俺は覚えておきたいんだ」


「……本当、あなたは変わってるわね」


 イネは一歩後ろに下がって連絡用の端末を取り出した。無事に鎮められたことを報告しているのだろう。

 南部はイネに感謝しつつ、亀田 サリーに視線を合わせた。何が原因で『神成かむい』が生まれたのか。

 理由を問う瞳に、ゆっくりと彼女が口を開く。


「あの人の彼氏と一度だけ関係を持ったの。でも、しょうがないじゃない。格好いいって思ったんだから! ね、そうでしょ……?」


 同意を求める恋多き女性に、南部は何も言わずに立ち上がった。

 恋人を寝取られた恨み。

 それで、人を辞めたのか。


 理由をしった南部は、電話を終えたイネの横に立った。


「ほらね。理由なんて聞いたって胸糞悪いだけじゃない。それなのに『神成かむい』になった方が悪だなんて納得できないでしょ?」


 イネの言葉に南部は首を横に振るう。どんな理由があっても、自分の中で決めたことに揺るぎはなかった。


「それでも、『神成かむい』は鎮めるよ。人の命が危ないのなら」


「あっそ」


 イネは興味なさそうに呟いた。

 そんな二人の姿を講演会場の入口で見守る二つの影があった。


「馬鹿な。『申』状態で道具を扱えるなど……。最初見た時は偶然だと思ったが――。それに、奴の覚悟は中々なモノだ。だからこそ、俺がちゃんと教えなければ――」


 倒すべき『神成かむい』が消えたことを確認したほむらは、踵を返して去っていった。その背を小さな少女がトコトコと追う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ