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さるまわし  作者: やゆ
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 電話を掛け終えた三角みかどは、呼び出した相手を待っているのか、身動きの取れないほむらの首にプラカードを掛けて遊び始めた。


「あの……。ほむらさんと話をさせて貰っても……?」


「まあ、まあ。いいからいいから。ちょっと待っててよ」


 何が良くて何を待つのか。

 しかし、三角みかどはそれ以上、説明する気もないらしく、ただただ、ほむらで遊んでいた。



「なあ、この二人ってどういう関係なの? なんとなく三角みかどさんの方が偉いのは分かるんだけど」


「そうね。まあ、簡単に言えば三角みかどさんは名前だけの長よ。基本は何もやらないわ。だから、今、『富士山支部』を仕切ってるのはあなたと同じ『さる』であるほむらなのよ」


「……なるほど」


 ふと、南部なんべは誰かの視線を感じて入口を見る。すると、いつの間に開かれていたのだろうか、扉が数十センチだけ動いていた。

 外から中を覗く瞳。

 南部なんべはその目と視線がぶつかった。ぴしゃりと慌てて扉を閉じるが、直ぐに思い直したのか、ゆっくりと扉を開いた。

 扉の前に立っていたのは一人の少女だった。中学生くらいだろうか。顔ほどある大きな黄色いリボンを頭に二つ付けた少女。青いネクタイのセーラー服がよく似合っていた。


「あ、あの……。お邪魔してしまいごめんなさい」


 か細い声が少女から響く。その声は、動けぬほむらを使って遊ぶ音で掻き消されてしまうほど小さかった。

 無駄に大きな声の三角みかどとは正反対だ。


 少女の声に気付いたのか、三角は遊ぶ手を止めて、


「ああ、待ってたよ、百合ゆりちゃん」


 スキップをしながら扉に向かう。

 嬉しそうな三角みかどの表情に加えて、現れた少女――百合。この二つを元に何かを察したのか、イネが眉を顰めた。


百合ゆり 亜美あみ……。彼女がここに呼ばれたってことは、嫌な予感がするわね」


 そして、イネの予感は的中する。

 三角みかどが大きな声を、いつもよりも更に張り上げて提案したのだ。


「よし、それじゃあ今から、二組には戦って貰おうか」


 腕を交差するように南部なんべほむらを指差す。その動きがきっかけになったのか、銅像のように固まっていたほむらが動いた。


 南部なんべは勝手に決めるとほむらがまた怒るのではと不安になるが、


「確かに、それは名案だ。最初から俺はそいつが『神鎮隊』に相応しいか確かめるつもりだったしな」


 意外なことに否定するどころか戦うことを迷わず認めた。

 ほむらが南部を呼び出したのも、戦うためだったと南部は知った。


「努力をしなかった『サル』など、俺は許さない。百合ゆり!!」


 ほむらの呼びかけに、テコテコと百合ゆりは小さな足を細かく動かす。南部なんべ達の横を通り過ぎる際、小さく会釈する彼女はまるでリスみたいだ。


 百合ゆりほむらの背に立ち、手を翳す。すると、ほむらの身体が眩い光で覆われていく。この光は『さる』になった証明でもあった。


「ちょっと、戦う気満々なのかよ! 俺は人を助けたくて『サル』になる決意をしたんだ。こんな場所で無意味に戦うつもりはない」


 ようやく見つけた自分のやりたいこと。それを大事にしたいと戦うことを拒絶する。南部は逃げるようにして、道場の出入口に手を掛けた。


「イネくん! ちょっと強制的に変化させてみてよ」


 三角みかどの叫びに、イネがため息と共に呟いた。


「はぁ、分かったわよ……。『コレ』を教えるってことね」


 イネの呟きに呼応するようにして、南部なんべの身体を光が包む。

 光輝く二人の『サル』とその背後で手を掲げる二人の『回士まわし』。

 その光景に満足気に頷いた三角みかどは、


「これで良し。それじゃあ、始めてくれ!!」


 勢いよく、両手を頭の上で交差させた。


 三角みかどの合図で先に動いたのは南部なんべだった。

 動物園の猿が、観客によって投げ入れられる餌に食いつくようにして、ほむらへ飛び掛かった。

 歯茎を剥き出す姿は猿そのものだ。


「……ほむらさん」


 百合が小さな声で名を呼ぶと、ほむらは、後方に跳んで軽々と攻撃を躱した。

 後方に回避した勢いを殺すようにして、三猿の石像に着地したほむら。流れるような動作で、今度は天上へ跳んだ。

 身体を捻り天上へ着地するほむら


「キキィー!」


 天上を足場に力を込めたほむらが叫び声を上げる。流星が如く降り注いだほむらの拳を、南部は回避することができなかった。

 頬へと打ち込まれた打撃に、南部は出入口である扉まで吹き飛ばされる。

 壁に身体を打ち付けた南部なんべの光は、弱まり薄れていく。


 同じ『さる』でありながら、全く相手にならなかった。


「な、なんで……?」


 人へと戻った南部なんべは、力の差に愕然とする。


「首輪を付けた相棒パートナーであれば、強制的に『さる』へ変化させられる。ただし、雑念がある状態だと、動きが鈍くなるんだよ。つまり、覚悟を決めないと駄目だってわけだ」

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