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大姉ちゃんと小姉ちゃん

閑話休題ショート読み切り。

裸エプロンの話です。


<登場人物>

雑賀孫一:相手の名前を呼ぶと、それがどんな関係性であれその相手が思う「不幸」を呼び寄せる。

自分が相手を不幸にする「ジンクス」持ちであることを知ってからはヒーローに憧れる自殺志願者で、雑賀家長男という肩書の上で生きているゾンビ状態の少年だったが、祖父(唐十郎)に有無を言わさず世界中に飛ばされて、有無を言わさず修行させられた結果、若干更生してきた。


大姉ちゃん:孫一の従姉妹。本編では21歳の大学生。

小姉ちゃん:同じく従姉妹の妹。本編では20歳の大学生。


「孫一、お前に彼女が出来ても、絶対に裸エプロンはやらせるなよ。殺すぞ。」

「へ?」


中学3年、2月14日。

あちこち飛び回ってまともに学校へ通ってない俺には正直縁のないイベントデー。

珍しく学校へ行ったら、下駄箱やら机やらに詰まってた贈り物らしき箱の数々を、俺は持って帰ってきた。

正直、送り主が不明。と言うか、誰が誰だかサッパリ分からなかった。

そもそも顔と名前が一致していない奴が多すぎるのだ。

ただ、お礼はしなきゃいけないと思うが、何より、一か月後俺が日本ここに居る保証はない。

とりあえず、お礼のカードは書くことにした。


バレンタインって、俺にとっては、贈り合う日であって、もらうだけの日じゃない。

と言うか、贈るものもチョコではなく、花やカードってのが最近の俺。

なもんで、名前とクラスが書いてある人の分はサクッと仕上げる。

例えそれに長文のお手紙が書いてあったとしても、お返しは短いカード、それが俺流だ。

決して面倒だかという訳じゃなくて、正直なところは、自分の気持ちを文章にして伝えるというのが苦手なだけだ。

会える相手なら、お礼を直接言う事も出来るしな。


一通り返事を書いた俺は、チョコレートらしきものの山を眺める。

市販のものは、当然というかいつも通りというか、大姉ちゃんと小姉ちゃんに搾取されて行った。

俺としてもその方が有難い訳で。

今年は割と学校に顔を出していた期間があったせいか、豊作年で、とてもじゃないがこのお菓子の山は一人で喰える量ではなかった。


大姉ちゃん、佐磯長 美遥(サシナガ ミハル)、俺の6つちょっと上。

小姉ちゃん、佐磯長 美琴(サシナガ ミコト)、俺の5つ上の従姉妹。

父・雑賀サイカ 節治サダハルの姉の娘姉妹。

二人の名前を付けたのは、雑賀の大爺である雑賀唐十郎サイカトウジュウロウらしい。

俺にとって年が近い親戚はこの二人くらいで、まぁ、何ツ―か、この二人には小さい頃からいろいろ鍛えられてきた。

そんな感じで、大姉ダイちゃん小姉ショウちゃんは実の姉みたいなもんだった。

ただ二人とも、名前を呼ばれるのは(俺のジンクス無関係で)小さい頃から物凄く嫌がっていて、俺もそのまま、ダイネェちゃん・ショウネェちゃんと呼んでる。


その二人から搾取されない、手作りの菓子類。

これは、本当に、本当に作って頂いた方には大変申し訳ないのだが、雑賀家では、供養する決まりだ。

相手がちゃんと分かっていて、友達とかなら俺がキッチリ食べる(処分する)んだが、基本は供養する。つまり、焼却する。庭の焼却炉でこんがり焼く。

いや、だって、怖いだろ?

毒入ってたらどうすんだよ。


大姉ちゃん曰く、


「お前に夢中な女子がまともな菓子を作る訳ないだろ。痴れ者か。」


小姉ちゃん曰く、


「孫一、自覚ないけど、モテるからね。そんな相手を堕とすなら、女の子はどんな手でも使うよって話。」


だそうだ。

つまり、その中にはお菓子以外の、その、普段は口にしないであろう何かが入っている確率は存分に高いので、食べるなと言う話。

衛生面もご家庭でそれぞれ違うし、大体の女子がその日初めて作るだろうお菓子は物凄く丁寧に且つ慎重に作られては居るんだろうけども、安全を取れと言うこと。

相手に金を払って買うもの以外は信じるな、と言う雑賀家家訓もあり、得体の知れない手作りモノは焼却処分と決まっていた。


そんな訳で、俺は今、お菓子を供養している。

1つ1つ丁寧に焼却炉に投げ込み、手を合わせる。


「わざわざ時間をかけて手作り頂いてありがとうございました。お気持ちだけ頂いておきます。ごちそうさまでした。」


と、そんな儀式を繰り返す。

俺が供養に必死になってる後ろで、ベランダにわざわざテーブルセットを引っ張りだしてきてコーヒーとチョコを嗜む佐磯長サシナガ姉妹。

俺宛てのラブレターを読みながら、その俺宛てのチョコを喰っている。

割と悪趣味なコーヒータイムだと、俺ながら思う。


「大ちゃんは、結局アイツにあげた訳?」

「いや、止めた。ってか別れた。」

「半同棲だったっけ。」

「それここで言う?」


大姉ちゃんは、2月14日を迎える前に付き合ってた男と別れたらしい。


「だってさ、アイツ、裸エプロンで晩御飯作って欲しいって言うのよ?」

「あら、それは絞め殺すレベルの話ね。」


佐磯長家は、武闘派だ。

雑賀家程ではないが、武闘派だ。

父、佐磯長サシナガ 節治サダハルは、その当時、母・雑賀サイカ 緒里弥オリヤに負けて惚れたと聞かされたが、それも何だかどっかで聞いた話で、俺は正直、その細部を覚えていない。

そんな武闘派同志は共通の話題が多く、あっという間にゴールインしたんだとか何だとか、らしい。


おとこの夢だか何だか知らないけどさ、どんだけ危険か、まず自分でやってみろっつーの。」

「そうねぇ。あんなリスクとムダはないわねぇ。」


相変わらず、大姉ちゃんと小姉ちゃんの話は分からんことが多い。


「まず裸で一日生活してみろって話よ。」

「家の中だけだって相当よね。」

「そそ。どんだけ怪我するか知らないんだろねぇ。」


古来人類は。

機能と安全を重視して進化して、お洒落と言う段階にまでその「鎧」ともなる服を発展させてきたのに、それを放棄するというのは原則に反する、という事らしい。

分からん。そういう話は、ツッキーが好きそうなんだけどな。

兎に角、一日裸で過ごす事が、例え家の中でだって危険な事、安全が脅かされるレベルでヤバイことは簡単に想像がついた。


「しかも台所でだよ?料理しながらよ?死ねってことでしょ、それ。」

「そうねぇ。まぁ、大ちゃんの裸エプロンは想像するに魅力的だけど、危険よねぇ。」

「まず道具を揃える所から、怪我のリスク満載じゃない。お前がやってみろって言うの。」

「引き出しのちょっとした角とか、服着てると分からないけど、かなり接触してるものね。それこそ肌に引っ掻き傷とか、物凄い着くし。」

「って、小ちゃん、経験者?」

「はい。」


小姉ちゃんはしたり顔で笑ってた。


「当然、相手は半殺しにしたんでしょうね?」


大姉ちゃんは間をおかず問い詰めていた。


「ふふっ。」


小姉ちゃんは笑って答えない。

恐らく多分、相手は必然的に同じ目に合わされて、挙句、恥辱の果てに捨てられただろう。

お相手の絶望感は、俺にとっては察するに余りある。

なんせ相手がこの小姉ちゃんである。


小姉ちゃんは、罠師(トラッパー)だ。

彼女は、自分でも良く言っているが、武闘派家系の中でも自分が弱いことを自覚してる。正直そこはスゴイ。強くなるだけが取り柄と言うか、それしか考えてない俺には思いも付かないが、小姉ちゃんは自分の弱さを理解してるからこそ、別の手段で自分の優位を自然と築くプロになった、そうだ。


「でもさ、簡単に予想つく訳じゃない?」

「まぁ、そうねぇ。」

「そんな自分の大事な彼女をわざわざ怪我のリスク追わせてまで叶えたい『漢の浪漫』とかさ。アタシと付き合って、何を学んでるんだってことよ。」


大ちゃんと小ちゃんが何を話してるのか、供養中の俺にはイマイチ要領を得なかったが、どうもホントに話したいことは『好きなものは大切にしろ』ってことらしい。


「あの、大姉ちゃん、それってさ?」


俺は良く分からないながら口を挟む。


「支度終わってから着替えれば、良くね?」


一瞬硬直する従姉妹。


「孫一には、まだ『漢の浪漫』は早かったかなぁ。」


絵に描いたようにニッコリと微笑む小姉ちゃん。


「そう言う話なら、とっくに片が付いてるのよ。そうじゃないから、殺意の対象になる訳。」


飽きれたように大姉ちゃんが言い放つと、顔を伏せた。


「あら何、それでもやっぱり好きだった訳?」


小姉ちゃんが大姉に追い打ちをかけた。


「あああああ、もう、そうです!そうですよ!分かってても悔しいもんなの!!」


大姉ちゃんが切れた。


「もうマジ何なの、裸エプロンとか!浪漫じゃないっつーの!リスクだっつーの!マジで学べよ!相手の価値観を学んで、そこで譲歩しろ!!」


テーブルを平手で叩きながら、大姉ちゃんは盛大に愚痴った。

叩かれてるテーブルからは、何故か高音でパーンパーンという音がしていた。

俺的には、その平手で多いに空気圧を受けていながら、小刻みにあの速度でテーブルを叩く大姉ちゃんのポテンシャルの方が怖かったんだが。


「はいはい、よしよし。」


小姉ちゃんが大姉ちゃんの頭を撫でていた。

ひとしきり喚いた後、大姉ちゃんは顔を上げて、俺を指差してこう言った。


「孫一、お前に彼女が出来ても、絶対に裸エプロンはやらせるなよ。殺すぞ。」

「へ?」


大姉ちゃんの平手モーションに夢中になった俺は、うっかりそう返事した。

だが、大姉ちゃんのあの『殺すぞ』という眼力と、小姉ちゃんの『早く返事しろ』の圧に俺は圧されて、良く分からないままに、もう一度返事をした。


「お、おう。」


その後、大姉ちゃんと小姉ちゃんは、あーでもないこーでもないと盛り上がった後、しこたまコーヒーとチョコをお召し上がりになり、帰った。後片づけを俺に任せて。

その辺は何時もの事なんで、俺はテキパキと片付けた。

あの二人が年上な分、俺はいろいろ知らず知らずに学んでいることが多い。

そこは素直に感謝しつつ、大姉ちゃんの心の傷が癒えるのを祈った俺だった。


まぁ、そんな感じで、雑賀家の2月14日は終わりを告げた。




次話、孫一の二日目へ。



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