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雑賀孫一と言う男。<ジンクスレコード:0>番外編  作者: 小犬ハンナ
第一章 渡航初日
2/9

孫一の想い出。

マゴ、身長188cmくらい。

三白眼二重、という描写を入れ忘れていたことに気付く。



初日。

別に優等生を気取る訳じゃないが、ヒーローは時間に正確じゃなきゃいけない。そうだろ?

なので俺は始業時間の32分前に席に着いていた。

5分前行動とか15分前行動とか言うらしいけど、俺の正義は32分前。これは譲れない。


久しぶりに座るまともな学校の机と椅子は、何だか小さく感じられた。

確かに俺の身長も伸びたみたいだし、多少のアンバランスさはしゃーない、という感じだった。

座席表を見ると、知ってる苗字は一人しか居なかった。


「磐城」。

この苗字を見ると、俺は嫌でも思い出す。

小学校、初めて本気で女子に敗北したあの日を。


俺は当時、それなりの腕があると自分で信じていた。

中学生ぐらいなら喧嘩でも負けなかったし、県代表のクマミリともスパーリングくらい何ともなかったし、何なら、地元の高校生に呼び出しを喰らっても1:1じゃ負けなかった。

囲まれてボコられた時は、流石に反撃できずに一方的にやられたこともあったが、その後、うちの母が相手全員ボコボコにしたという噂は聞いた。

社会的にか物理的にかは知らないが。

まぁ、俺は、その辺の同級生よりは「強い」という認識でいた。


だが負けた。

非公式試合ではあったが、負けた。

全力を出して負けた。


小学校の体育館。

クマミリこと熊野美佳莉が試合前に思い切り身体を使いたいとのことだったので、付き合った。

割と何でもアリアリのフリースタイル的なスパーリングだ。


クマミリはルールの上では強い。

だが、アイツは、自分が女の子であるってことをとことん嫌ってた。女子はそのうち男子に勝てなくなる。そんなのは嫌、なんだと。

アイツはとにかく、男女平等であるべき主義というか、その、性別の差みたいなのをとことん嫌っていて。

男らしくとか女らしくとか、そういう言葉さえ嫌っていた。

そういう事だから、女性特有のしなやかさとでも言うんだろうか、それを武器にしなかった。

出来なかったのかもしれないけどな。

だからこそ、何ていうか、喧嘩は弱かった。

別に真面目過ぎるって訳じゃなかったんだろうけど、こう、分かりやすいんだよな、動きとか。

セオリー通りの打ち込み、払い、蹴り、みたいな?

不意打ちが出来ないタイプというより、俺との付き合い長い分、次の手が読めた。


で、そのクマミリが。

俺に勝てない腹いせというか、たまには違う女子とも戦ってみろというかで、友達を紹介してくれた。

クマミリより小さくて背の低い女子。

正直手を出すのも申し訳ないほどの体格差だったが、強さは見た目だけじゃないことも、一応俺は分かってた。

それにクマミリの紹介ともなれば、普通じゃないことは明らかだったしな。


「あ、あの、初めまして!えと、美佳莉ちゃんが良く一緒に修行してるって言うから、その、お願いします!」

「おう、宜しく!」


当時の俺は、前髪は伸ばしていたけどここまでじゃなく、身体を動かす時だけは上げていた。

ピンで留めると相手をケガさせることもあったんで、適当な整髪剤でまとめていた。

ただ、その俺よりも長い前髪にお河童。

失礼を承知で言わせてもらうと、これ正直、夕方後ろに立たれたら、マジでビビったと思う。

ただこの少女こそが、クマミリ曰く、本来の「大将」で、大会当日何かとアクシデントに見舞われたりすることが多くて、実力曖昧になっちゃいるが、最強何だと。


「最強?」


絶対勝つ、とウッカリ思ってしまった。

俺も負けず嫌いには変わりないのだが、相手に失礼のない程度に全力を加減しよう、何て思ってもいた。

ヒーローが女子に本気出すとか、カッコ悪いしな。

だが、俺のそんな気回しは消し飛ぶ。一瞬で。


一応道着に着替えて、向かい合う。


「宜しくお願いします!」


彼女はビックリするくらいの勢いで頭を深々と下げた。

いや、待て。今、空を切る音がしなかったか?

俺もつられて頭を下げる。


「オナシャス!」


一瞬向き合う間。

俺は一度相手の攻撃を受けてから返すパターンが多い。大体初撃で見切れるからな。

だが今回は、クマミリが「大将」と呼ぶ相手だ。

珍しく先に仕掛けようとした。


が。


次に見たのは相手の懐でも拳でもなく、体育館の天井だった。

空を飛ぶってあんな感じ?

久々に味わったことがない、フワフワ感。

どうやら俺の両脚は、軽く床を離れたらしい。


その瞬間、俺は完全に冷えた。

何とかそのまま後方回転し再び足を床に着ける。

だがすかさず、相手は俺の襟を掴み、そのまま後ろへ引いた。

前重心の俺はその力に倒れることはなかったが、その力を逆に使われた。

彼女の足は、その重心が掛かる俺の足を狙っていたのだ。

適格な足払い。力の差で耐え、そのまま更に俺は重心を低くして、左手からの裏拳を狙った。


うわー、女子相手に裏拳とか俺最低ーとは、正直ちょっと悔やんだ。


相手は、俺の足払いを牽制で利用し、その裏拳まで読んでいたようで、その裏拳をそのまま引かれた。

持っていかれた。

俺はその力を利用して、反対の軸足から後ろ蹴りを繰り出した。


うわー、女子相手に後ろ蹴り…という余裕は消えていた。

強いわ、この女子。

そんな風に、攻防が続いたが、俺は受けてから攻めに転じる後手に回り、相手は俺の力を上手く利用して次々と攻めて来た。

力がない女子の工夫ある戦い方。

こうなるとあとはスタミナと根性勝負…と思っていた。

が、そのタイミングは、一瞬で訪れた。


打ち込めば受け流される。

スピードでは若干俺が不利な中、パワーでは若干勝っていた。ま、男の子だしね☆

なので俺は相手の次の攻撃の瞬間を狙い、全力で投げつけることに決めた。

全力で投げつけるとか、女子相手にマジ最低なんだが、もう余裕がない。

で、俺はそのタイミングを掴み、彼女の襟と腕を掴み、確実に投げるモーションに入った。


そしたらですよ、奥様。

逆にそのまま勢いを付けられて、俺が空を飛んだんですよ。

何言ってるか分からないと思うが、俺だってサッパリ分からなかった。

そんな事あるのかよ、っていう経験だった。

俺の体重と力を超える、跳躍、バネ、しなやかさとでも言うの?

何それって一瞬驚いたが、とにかく着地をしないと続きがないわけで、俺は何とか姿勢を整えて前を見ると。

鳩尾に一発、喰らった。肘で。


俺はそのまま、再び体育館のその高い天井を眺めた。


「あああああわぁ、ゴメン、ごめんね!あの、その、美佳莉ちゃんに本気出していいよって言われて、その、私も嬉しくて、つい、その、あの、ごめんなさい!」


俺には永い永いスパーリングだったが、実際、時間にしたらものの数分の出来事だったかもしれない。

最後の鳩尾は、うっかりやっちゃいました、と彼女は言っていた。

正直、それがなくても、俺は負けてたろう。

ただ、彼女とのスパーリングは、俺の、自分自身の強さの概念を覆した。

全力で、手加減することもなく俺は負けたのだ。

パワーと重力に勝る、しなやかさとスピード。あるんだね☆


俺は意識を取り戻すと、彼女の前に土下座した。


「俺の師匠になってください!!」


心の中では当然、そのお名前を様付けでお呼びさせて頂いていた。

かなり俺としては珍しくしつこく何度もお願いしたのだが、まー断られた。

もろもろの事情で師匠にはなってくださらなかったが、そのうち、自分より出来る兄貴を紹介するよと言っていた。

ただその時、クマミリはすげー複雑な顔をしていた。

自分の友達が俺に勝ったという謎のドヤ顔と、自分とは違う戦い方をする友達への嫉妬、とでも言うのか、あれ。


と言う事で、「磐城」という苗字は、俺にとって眩しすぎて見えない二文字なのだ。


俺がその二文字の眩しさに目が眩んでいる間に、教室にはワラワラと人が入って来ていた。

おーこれが俺の新しいクラスメイトか―何て、久々の学校って奴につい浮かれちゃって、一人ニヤついていたんだが、後日この俺の顔が怖かったと聞かされた。

教室に入ったら、どう見ても喧嘩っぱやそうでワルのテンプレートみたいな奴が、笑いながら座っていて、目線が見えない分怖かった、と。


で、そこそこの時間になった時、見たことのある奴が俺の席の列、その前に座る。

いや、間違いなく、あれは俺が親友だったと信じている男で、恐らく今回もきっと忘れられたままになってるだろう、ツッキー、その人だった。


俺は座席表を二度見する。「坂月」とある。

サカヅキ?

え、ツッキーまさか結婚したのか!?俺がいろいろ放浪してる間に、結婚とかしちゃった訳!?祝うべきなのか!?

まずは本人確認しないと、と、俺は席を立ったが…まぁ、引かれた。(三回目)物理的に。(三回目)

正直、「三度目来るな」と冷や汗ものだったが、まぁ、そんなもんだよな☆

流石に慣れていたというか、予想はしてたけど、何て声を掛けて良いか悩んだ。

結果的に、両親が離婚して母方に着いたってことだったが、あの親父さんと何かあったなんて、正直想像できなかった。

家族思いのツッキーパパ。とにかく家族とその関係性っていうのを一番大事にしてて。

うちの親よりも料理とか上手いし、ツッキーの家に遊びに行った時はほとんど一緒で、よく手作りのお菓子をもらったもんだった。

そして美味い。お世辞抜きで美味しかったっけな。

特に焼き菓子系の、何だっけな、ファイナンシャルとか言うアーモンドとバターの奴。

どの辺が経済的なのか分からなかったが、あれだけは外で同じ味を見つけられないほど絶品だったっけ。


そんなこんなで、三度目の共に過ごす学校生活が始まった。


そう言えば、ツッキーは、人混みが苦手だ。

本人どうも、何故苦手だったか、その理由を忘れてるらしいんだよな。

クラスの人数も、比較的少なくて良かったと正直思う。


ツッキーの黒ぶち眼鏡。

あの、どう見ても黒ぶちが太すぎる眼鏡は、見やすくするためのものじゃない。


逆だ。


ツッキーは、超絶に眼が良い。

その視力を抑えるための黒ぶち眼鏡。視界を狭めるための、アレはそういう眼鏡だ。

眼が良すぎて、視界に入ったもの全部覚えてしまう。勝手に記憶してしまう。

情報が多すぎて脳がパンクするとか何とかで、しょっちゅう頭痛やら何やら起こしていた。

そんな訳で、視力が落ち着くよう、矯正眼鏡を付けるようになった。

ただ、この眼鏡のもともとの話は、同じく眼鏡だったツッキーパパに纏わる話でもあり。

その点、もしかすると忘れられた話なのかもしれないけどな。


一度、小学校だったかなぁ。

冗談で全校生徒が集まる朝礼で外してみたことがあったが、ツッキーはあっさりぶっ倒れた。

その後話を聴いたら、その時並んでいた人数、服装とその色柄、身長差、若白髪の本数とか、全部頭に入ってきたらしい。

こればかりは、親友ながらに気持ち悪かったのを覚えている。

普通にアスファルト仕立ての石畳の道路を歩いた時でさえ、その細かな石の配列や数、欠けや影、それらが全て「風景」ではなく「情報」になるとか何とか。

よく分からないが、そんな事だったと思う。


この話を、この間、ツッキーと磐城円様と三人でした時、やっぱりツッキーは忘れて居た。

面白半分からかい半分で、眼鏡を外した状態で坂の上の「磐城家」を見てもらったが、竹林の本数やら瓦の枚数やらが目に入ったらしく「情報酔い」していた。

円様曰く。


「スゴイねタツキ君!これ多分視力3.6以上あるよ!大草原で2km先に居るライオンも普通に仕留められるパワーだね!」


だそうだ。

視力3以上の世界が何だかサッパリ分からないが、まぁ、万が一、何かのキッカケでサバイバルになっても、ツッキーが居れば助かりそうだよな☆

サバイバル経験者の俺と、情報処理のツッキーと。

そして俺が過去唯一負けた女子、武闘派の磐城円様と。


これは全く気付かなかったが、実は同じクラスの円様はあの円様だった。

円様。そう、円様だ。

クマミリの元親友で、俺があの時唯一勝てなかった相手。


正直、修行を積んだ今の俺でも、体格差がここまである俺でも、円様にはまだ勝てない気がする。

それは、彼女と俺の覚悟の差。

俺にはない、生きる覚悟。生き抜く覚悟のその強さ。

人のためなら勝手に死んでも良いと思ってる俺と、自分を大切にしてくれる人たちのために絶対に生き抜くという覚悟の差。


そうは言うが、俺だって、学んでない訳ではないじゃない。

俺だって、学んだ。はず。

あのシベリア紀行の前後で、中学時代のサバイバルで、小学校時代の留学で、この間の病院で。


さて、じゃ、そろそろ、俺のシベリア紀行の話でもするとしますか☆

とは言え、それは短い話なんだけど、俺が俺を諦めないことにした、俺の極東の、ミッションインポッシブルの話を。

実際、現地の部族の方は視力6.0くらいあるらしいです。


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