混沌日和!ー最高に不可解な状況ー
–滅ぼせ我らが敵を
記憶が呼び起こされるような不思議な感覚が身体中を駆け巡る。
-贖罪とはつまり衰退である
以前俺にかけられた声とは明らかに違う。が、似ている。
-個とは罪か?断じて否である
なにか、覚えのあるような……。
頭が割れそうだ。
記憶?俺は記憶を失っていたのか?
雨が降っている。
辺りもめちゃくちゃで瓦礫だらけだ。
『居たか!?』
『ああ、見つけた。魔王はここだ』
大男がこちらを指差す。
断片的に思い出すのは死にかけた記憶。
龍に食われて魂が散らばり……
その身集まる時
「主!」
「!?」
一瞬飛んだ意識が回復する。どうやら彼女に召喚された水精霊による攻撃を食らったらしい。
焦りつつも辺りを見回す。どうやら状況は次第に悪くなっているようだ。大量にいる水の精霊に攻めあぐねている。
「マルチ!!」
「ダメだ!魔術の類は使えない!奴に辺りの精霊全部持っていかれてる!」
……確かに魔術とは精霊を変質させて行う術な以上水の精霊に全てを持っていかれてる現状なすすべはないかも知れない。
だが……
「!?危険だ。我の側から離れるな!」
「『マルチ』!!」
水の精霊に直接触れた場合はその限りではない!!
「く!バカに多い魔力ですね!」
「うるせーそれだけが取り柄だ!」
強引な手段で状況を打開して見せた俺に、精霊は感情をあらわにする。
精霊に直接触れれば魔力の質や量の多いこちらに精霊は操られる。
ならばあちこちでこちらを牽制する精霊たちは俺にとっちゃあのクソ精霊に魔法を打ち込むための燃料な訳だ。
密度が高いぶん操作もしやすく、威力も平常時とは段違いだ。
「おらクソ喰らえ裏切りもんが!こちとら伝説の大罪様だ!頭が高いぞひれ伏しやがれ!!!」
「何を言っているのだ!?」
「ますたーがこわれた!」
ひどい言われようだなおい!
が、まぁ自分でも何を言ってるかわからないのでいいだろう。
しかしこれで明らかに形勢は逆転した。
これでなんとかなりそうだ。
そう考えた矢先、最悪な来訪者が現れた。
「おいおい、ダンジョン内での同士討ちとか聞いたことないぞ?」
「そうだな、何が起こってるのか」
攻略に来て居た3人組は、いつの間にかこの階層までたどり着いて居たのだ。
ニヤリと笑う精霊の顔が腹立たしくて仕方がない。
ゲスな精霊のことだ、考えていることの予想はつく。
人間に忌避される大罪スキルの持ち主であること、自身は逆にそれを倒そうとしていることを説明して味方につけようとそう言うことだろう。
「そこの人間の方々、聞いてください。今私が戦っているのは悪名高き大罪スキル持ちにして、ダンジョンマスターのスタピラーです」
人間の顔が明らかに強張る。
人類の敵を見つけて、しかもそいつと誰かが交戦中だってんだからそりゃ混乱もするだろうさ。
これでもう勝ちの目は完全に摘まれたと言っていい。
「オイオイ難易度高すぎると思ったらそう言う……」
「どちらにせよダンジョンマスター、人間の敵だ」
魔力は半分以上枯渇している。
精霊を吸収しようにも数が足りない。
絶対的に戦力が足りない。
よって勝てる見込みもない。
生き残る見込みもない。
なるほど、調子に乗りすぎて居たらしい。来世では気をつけるとするか……!?
「!?」
「何……を?」
状況を理解できない。
本当に意味がわからない。
「久しぶりだな、大罪。元気にしてたか?」
仲のいい二人を切ったのは、もう一人の人間だった。




