書類日和!ー異常な仕事効率ー
あーーー、憧れのーーー(裏声)
ポイントマスターに(キー下げ)
なりたいなー(原キー)
ならなくちゃ(オクターブ上)
絶対なってーーやるーーーーー!(血涙)
「では婚約の言葉を……」
「え、まっ待ってください。何故私が?」
当たり前の疑問を投げ掛ける。誰が相手だろうと、急な結婚など受け入れがたいというのはまともな思考回路ではないだろうか。
「ふむ、確かにいきなりと言うのは急すぎるな。よし、では一ヶ月後だ」
質問に対する返答になってない!
「いや、ね。理由という理由でもないのだが、私は貴族同士の争いが大の苦手なのだよ。既婚でないと貴族共からすり寄られて……いや、止めよう。誰が聞いてるかわからぬからな」
理由はわかった。要するに彼は既婚という事実が欲しいのであって別にそれが達されれば誰でも言いワケだ。
「その通りだ、察しがいいね」
なるほど、とても理にかなった理由だ。ただしそういう理由で娶られるとなると女としてすごく抵抗がある。顔も財力も位置もあるが、素直に受け入れられないのは至極当たり前のことなのではなかろうか?
「まあ、結婚してから距離を詰めればよい。別に子作りを迫ったりもせんし生活も金も自由も保証しよう」
あ、断る口実全部押さえられた。外堀がすごい勢いで埋められてる。ていうか今気付いたけど……
「断ったら殺されちゃう感じですよね」
「本当に君は察しがよくて助かるよ」
特大のため息をつくと、私は彼の前に跪く。なんだかんだ彼は顔もいいし、目立った悪評もたってない。断って殺されるぐらいなら受けようと、婚約の言葉を贈った。
「私、スワルトブは、エンフォード・マルニィに生涯の愛を捧げ、あなたを守る盾となり、剣となり、弓となりましょう」
「永劫と時を同じくしてまた憂う者は如何。我もまた貴様の盾となり剣となりひとつ死ぬるときまで愛を誓おう」
婚約の言葉を終えると、彼はため息をついて椅子に深く腰かけた。
「全くもって面倒くさい風習だな、この『婚約の言葉』というものは。いちいち神に婚約を報告していたらキリがない。すべてを神が見ているというなら神にいくつ目があっても足りんな」
「宗教家の方が憤慨しそうな話ですね。意見には同意ですけど」
そう言うと、彼は呆れたように言った。
「ふん、あいつ等のやってることは本人すら気づかない詐欺ってやつさ。神が本当にいるのなら先ずあいつ等から罰すべきだね」
「過激ですね」
「過激なものかよ」
この人は宗教家や神に何をされたのだろうか。
ッッッッって忘れてた!魔術師団長に報告をしなければ!!
「領主様!」
「その呼び方はやめろ。マルニィでよい。あと急に立つなビックリするだろ」
「で、ではマルニィ様。魔法師団長にダンジョンについての報告をしなければ」
領主様に言うと、彼は言った。
「必要ない。あんな攻撃魔法ばっかり強い見せかけだけのやつ等に言っても悪用され、金に変えられるだけだ」
「そ、そうですかね」
「そうだ。実際奴等はよく研究費用を横領するし、軽犯罪を幾つも犯し、酒と女が大好きだ」
団長の魔法師団嫌いもそこから来ているのだろうか。だが解せない。何故そこまでの集団を放置しているのか
「軍事力だけはあるから見逃しているだけだ。っと、書けたぞ」
そう言って彼は私の前にたくさんの紙を置いた。
「これは?」
「貴族が平民との結婚に必要な書類に、結婚書類。あとダンジョン占領のための軍事費、お前の生活費やなにかを捻出するための税予算の使い道変更の書類だ。これが一番面倒くさかった」
「な、なるほど」
この人はさっきの会話のなかでこんなものを作っていたのだろうか?常軌を逸する仕事の速さに驚嘆する。
「さて、と」
領主が椅子を立ち上がる。
「あとはお前がこれにサインをすれば結婚できる。私が帰るまでにはサインを頼むぞ」
「り……マルニィ様。ど、何処にいかれるので?」
「ダンジョンの制圧と言ったろ」
そう言って領主様は執務室を颯爽と出ていった。あまりの急展開についていけなくなった私は、腰を抜かして思わず地面にへたりこんでしまう。
「わ、わけわかんない……」
誰もいない部屋でほ呟きは、誰の耳にも届くことなく消え去っていった。




