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ダンジョン日和!ー最強のダンジョンに至るまでー  作者: 波風 多子
第3章 人里日和!ー騒動の始まりー
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決別日和!ー短い付き合いと永い別れー

 「うおおおおおおおおりゃあああああああ!!!!」


 「ぐっ!?あッ!?」 


 拳を叩き込む。しかし同時に黒毛のかまいたちが俺に掠り、右手から血が噴き出す。追撃を喰らいそうになったが、クラスがそれを防ぐ。


 痛い。痛いが、魔法なんか使わせるか。人間がどうでもよくっても、知らない奴らがどうなろうと知らないが、少なくともこの町には守るべき、違うな。


 『守りたい人』がいるから。


 ここで諦めちゃだめだ。


 「なぜだ!?なぜ世界は僕の思い通りに動かない!?」


 虚飾が叫ぶ。すごく耳障りな声で叫ぶ。


 「僕は今までにたくさん汚いものを壊し(いいことをし)てきた。こんなのあんまりじゃないか!なんで僕がこんな目に!」


 あぁ。そうか。彼は被害者だ。やっていいこと悪いこと、社会との調和、人付き合い。親から教えられることを教えられず、自己中心的な教育者(育ての親)に 狂った感性(世界)を教わり、こうなった。


 きっと誰も正解を知らなかった。彼の教育者はおそらく自己中心的で変な奴だった。頭がいかれていた。が、きっと彼も被害者だった。彼の教育者は迫害に会い、世界の闇を多く知ってしまった。じゃあ迫害をしていたやつが悪い?


 きっと違う。そうなったのは人の本質や差別的な教育からだ。だから誰も正解を知らなかった。純粋に世界を変えようとした虚飾。彼を歪ませた教育者。そしてその人に闇を必要以上に教え刷り込んだ人間。


 「誰も…正解を知らなかったんだ」


 だから決着をつけなきゃいけない。全員が被害者だ。誰もが傷つき傷つけられた。知ってるうち、知らないうち。だけどみんな傷ついた。


 自分のために人を殺した。殺すたびにDPがたまり喜んだ。


 けど殺しだ。俺は人を、魔物を、たくさん殺した。だから俺は罪を背負わなきゃいけない。目をそらし続けられない。覚悟は決めた。だから…


 「お前は殺した。それだけだ」


 そう。それだけ。


 それだけだけど、それまでに重い。殺しとは本来狂気であるべきだ。


 俺は術を組もうとする虚飾の顔拳を叩き込む何発も、何発も。やがて痣だらけの奴の顔が醜く歪んだ。


 「ハハハハッ!!!!馬鹿か。もう術式は完成した!ぜんぶふきとべええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 「バカはお前だ」

  

 「カ…?ヒュッ」


 内側から生焼けし、無残な姿をさらす虚飾がぐらりと倒れる。自爆しようとしたんだろ?でも残念。出力不足だ。

 

 虚飾の体を内側から焼いた炎は、すぐに消えた。そしてその残骸が俺へと取り込まれていく。


 「我が君!?」

 

 黒毛が虚飾に駆け寄ろうとクラスに背を向けると、クラスはその背中に打撃をぶち込む。


 「な…卑怯な」


 「卑怯もくそもあるかよ。これは喧嘩だろ?だったら勝ちゃあいいじゃねえか」


 クラスが可笑しそうに言う。


 「そもそも先に事情も話さずこっちのもん殺してきたじゃねぇか。卑怯っつうならあんたも同じさ」


 「く………そ……………………が」

 

 憎々しげにそう呻いた黒毛は血を吐き出して倒れ伏す。その場に残ったのはクラスと俺だけで、他は物言わぬ死体となっていた。


 「あー、っと。そろそろ眠りたいが……まぁそうはいかねぇよなぁ?」


 クラスがこちらを振り向く。


 「冒険者共も全員ギルドの外だ。腹和って話そうや」


 「……そうだな」


 そう言ってクラスはこっちを睨む。恐らくこの事件と俺の関係を疑ってるのだろう。確かに俺は関係ないとは言えない。そもそも俺は大罪スキル持ちなのだ。それを知ったらクラスは俺を殺すだろうか。


 「俺は大罪というスキルを持ってる」


 「……そうか。ってことは今回の襲撃はお前が黒幕ってことでいいのか?」


 「いいや、それは違う。今回のことについては俺はなにも知らなかった。ただ気紛れにこの街に来て、たまたまあいつに襲われた」


 到底信じられないだろう。信じたくないだろう。分かってる。でも、こう言うしか俺には何も出来ない。


 「何も詮索しないことにした」 


 「え?いいのか?それで」


 「良いわけねえだろ。ったく」


 正直問答無用で殴り掛かられるぐらいは覚悟してたんだが。


 「いいか。今回町の人間や冒険者の被害を最小限にとどめられたのはお前のおかげだ。それは間違いない。あと、お前は子供だ。流石に子供一人に全部押し付け……ってんじゃ俺が廃るしな。それともその姿、ニセモンだったりすんのか?」


 「いや、本当の姿だ」


 「なら俺がお前に求めるのはただひとつ。この街から去れ」


 暴力的でも差別的でもない優しく諭すように言葉にされたそれ。わずかな怒りと呆れ、そして拒絶を含んだその言葉は、確かな傷と癒しを同時に俺に与えた。


 軽い気持ちで人里に出て、軽い気持ちでいろんな人と関わり、それによってたくさんの人が死んだ。冒険者が死んでもどうでもよかった。知らない奴が死んでもどうでもよかった。


 ……ただ今は違った。


 そこにある言葉が、人が、死体が、ただただ悲しかった。恐らく二度と会えないであろうペルシャが、自分を拒絶するクラスが。そして思い出した。


 オレハジンルイノテキダ。


 そして俺は、その場を後にした。傷ついた右手が、今更痛みを訴えだした。

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