反撃日和!ー白羽の矢,不思議な人選ー
避難は速やかに行われた。
殿をつとめた中堅以上の冒険者達の活躍により、死亡者数は1万人に達することはなく、農業地区三十万人の避難にしては被害は最小限に抑えられたと言っていいだろう。
ただ、農業地区にいた七十人もの冒険者は、その数を半数以下まで減らし、農業地区は事実上壊滅、都市地区及び中央地区は、農業地区を一時的に放棄、壁の門を固く閉ざし、ゴブリンの襲撃に備えつつ反撃の準備を整えていた。
ゴブリンの襲撃から三日が経過し、遂に組合及び軍の上層部が動き出していた。そして今、都市地区の組合支部長と、最高位とされる国家公認の二つ名持ちの冒険者の一人が向かい合っていた。
支部長の名はオムズ。貴族公爵の生まれにして継承権第三位の、知的かつ豪腕で知られている。彼の知能と冒険者としての実力を高く評価され、大都市ケバビーの都市支部の支部長になった青年。
もう一人はクラス。スラム街の生まれで、天賦の才を持つと言われる棒使い。二つ名は大穴。その棍棒を振ったあとにできる大穴から、国が彼にこの二つ名を与えた。あまり格好のいい二つ名ではないが、彼はたいそう気に入っているようだった。
彼らが今会って話をしているのは、組合としての会議ではない。もし組合としての会議ならばクラスと同じく二つ名持ちのペルシャ、金猫のペルシャも呼ばれてしかるべきだろう。そう、全く生まれの違う彼らだが、否違うからか彼等は随分と親しかった。
「クラス、貴方はこれをどう見る?」
オムズがクラスに問う。その顔には明らかに疲労が見え、苦労症な彼の気質を伺わせた。この未経験に対処しきれないので友人を頼ったといったところだろうか。
「きまってら。あいつらをぶっ殺すまでよ。」
そう豪快に笑い飛ばすクラス。彼は自信家であるが、それに見合う実力はあった。実力に関してはこのケバビーにおいて、並ぶ者はないほどに。
「貴方ならそう言うと思ったよ。けれど今聴いているのはこんな状況の原因だ。貴方は僕より随分と年上なんだからこういった経験ぐらいあるだろう?」
そんなオムズのすがるような問いにクラスは自嘲するように返した。
「そんなの知らねえよ、俺が今までやってきたことといえばぶっ壊すかぶっ殺すかだ。頭脳労働に関しては完全完璧に門外漢だ。」
「原因がわかれば解決へ繋がるだろう。わからなければ後手後手だ。」
「いいじゃねえか。後手後手で。」
クラスはニヤリと笑う。オムズはこれ以上の話し合いは意味がないと断じ、席を立つ。
「納得したよクラス。君がいれば大丈夫だな。」
「応よ。いくらでも頼れ、子供は大人に頼るのが仕事だ。」
「子供扱いをしないでくれ。」
クラスの言葉に、決意を固めたオムズは、扉を開け、放送室へと向かう。その顔には僅かながら笑みが浮かんでいた。
もはや付き合いの長い二人にはこれ以上会話は必要なかった。
「反撃の準備をしよう、街を早いとこ奪還するぞ!」
「応!」
そうして二人は席を立ち、ゴブリン共への反撃の準備を始めた。
○○○
「以上で作戦は終わりだ。質問はあるか。」
今回の作戦を要約すると、低級冒険者が囮となって、上級冒険者が総力で叩く。という至ってシンプルな作戦である。俺は魔法の力が大きいらしいが制御できてないからな。まあ順当にいって囮の一人だろう。
しかし、反撃するのか…。そんな戦力あるとは思えないが…。どうするつもりなんだろうか。そもそも指揮するっていったって上級冒険者なんてこの街に今…15人くらいしか、いや結構いるな。
「おら!てめーら今から死にに行くみたいな顔してんな!安心しろ!今作戦では低級冒険者とともに俺が前線に立つ!」
なんか強そうな人きた!かんて…は!いかんいかん。強そうな人だから逆に鑑定はしないどこう。バレたらまずいからね。
「じゃあま上級冒険者組を発表する。ゼンダー、ゴルヴァ、サーテラ、ペルシャ…」
読み上げられていく冒険者たちの名前が、聞いていた冒険者の目に光を戻していく。結構強い冒険者たちのようだ。ペルシャの名前もあったしな。
「おいそこの!」
「はい!何でしょう!」
突然呼ばれて驚いたがその間もなく衝撃の宣言がなされる。
「お前、俺と同じ囮組の最前線な。」
「は?」




