誕生日和!−そしてダンジョンマスターは生まれるー
この作品は完結していません。いずれとは思いますが、執筆再開はだいぶ後になると思います。
新作のほうはこれから長く続けていくつもりですので、そちらのほうをよろしくお願いいたします。
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……くらい。ここは、ど、こだ?
『スキル【暗視】を獲得』
直後、視界がクリアになる。血だまり。煙が立ち込めたその場所は、しかしそこがどこかを判断するには足りなかった。
意識は朦朧としたまま。
俺は?な、にを?
『スキル【状況判断】を獲得』
一気に思考が冴え渡り、今の状況を把握した。
結果は、確実に俺が死ぬという事実が完璧に理解できたにとどまったが。
そうだ、俺は強くなるんだ。強く、なくちゃ。
『スキル【驕鍋ュ】を獲得』
絶対に屈しない。
『スキル【不屈】を獲得』
すべてを奪う強さを!溺れるほどに強い力を!俺に寄越せ!
『スキル【大罪】を解放』
〇〇○
「ここは!?」
真っ白な空間に自分以外の四人の気配を感じ、周囲を見渡す。
道は無く白い空間は、終わりと言うような終わりが無く、しかし地平線も無く、何がどうなっているのかも分からない。
ただ唖然として立ち尽くす俺とその他の4人。
1人は、金髪に染めて耳の穴になにか輪っかのようなものを付けている。
ファッションも独特で、4人の中では異色だった。
次の奴は女、魔法使いみたいなローブと帽子、そして身の丈に合わない大きな杖を持っていた。
全体的に青が強く、水を使う魔法使いなのかと思う。
次の1人は、研究者……か?
汚れの目立つ白衣を纏い、眼鏡をかけてシュッと立っていた。
背筋はピンと伸びており、堂々たる態度であった。
最後の1人は、これまた男だ。
男ばっかりだ。
ごつい体つきと高い身長、ほぼ半裸のような格好をしており、鍛え上げられたその肉体は彫刻さえも及ばないだろう。
そして俺は……みすぼらしい格好と平均的な身長の若者。って感じだ。
いや、俺だけおかしいだろ。
差別だろ。
と、他の人間を観察していると、何もない永遠に続くと思われる空間の上の方から、凄く高圧的な声がする。
『よくぞめざめた。貴様らは未来のダンジョンマスター候補である。私は混沌を司りし神、ヘビィン。この世界の創造神であり、貴様らを生んだ張本人である。俗にいう親というやつだな』
は?何が起こっているんだ?どういうことだ?状況を整理しようと思考を働かせる。
記憶はあるか?いや、ない。抜けているというよりは、最初からなかったという方が正しいか。
思考回路も知識も言語能力も。全て揃っているが、それを教えるのは知識だ。経験ではない。
「は!?てめぇぶっ殺すぞ!俺はこの後アカリん家行くって約束してんだ。神だかテレビだか知らねぇが、人様に迷惑かけてんじゃねえぞ!とっとと出しやがれ……え?」
俺を含めて五人のうちの一人が声を上げる。
しかしその頭はあるべき位置から遠く離れ、寂しい空間にあるただ一つのオブジェと成り果てた。
体の芯から震え上がるのを感じた。
思考だけが冷静なのが質が悪い。一瞬だった。男が殺された時に漏れた、力の断片。
それだけで俺の体と精神は参ってしまった。
混沌の神だと?まさしく化物じゃないか。ほんとにこいつが親?こんな強大な力の塊の存在が?信じられない。
心が全力で否定するのを感じる。しかし……現に殺された奴がいる。
『そう怯えるな。反抗的なのは潰さんといかんだろ?当然のことではないか?』
まるで遊戯板の一流が、ルールを知らない初心者を相手取るような。
世界的な格闘家が赤子を捻り潰すような。そんなように軽く言ってのける混沌の神。
恐怖心で頭が真っ白になり、いますぐ逃げ出したかった。
だが…逃げることなどできるはずがない。殺される。
生き延びてもこの空間に食い物など生命活動を維持できそうなものは何一つなかった。
選択を誤ったら死ぬだろう。さっきの彼のように。
『貴様らは第78回目のダンジョンマスターだ。それぞれに名前をつけてやろう』
混沌の神の一言一言に過剰に反応してしまうダンジョンマスター達。
いま俺達の命はこの神に握られている。死にたくない、生きたい。
その本能が心を、体を支配する。
『一番右の貴様はゲルド、次にエレン、次がクリス、そして最後……に?貴様……ふふ。面白い!』
混沌の神は俺の順番になった途端、大きく笑った。
子供がイタズラを考えた時のような無邪気な笑いだった。
『貴様には上位ダンジョンマスターにしか与えられないギトをやろう。貴様は強い。スタピラーだ。貴様の名前はスタピラー』
気に入られた?どうして?溢れる疑問を言葉にしようとするも、体がそれを許さなかった。
『では、新たなるダンジョンマスターよ!この世界に誕生せよ!』
混沌の神がそう言って俺の意識は暗闇へと落ちていった。
○○○
どれぐらい経ったのだろう。うーん。兎にも角にも俺は生きてる。僥倖僥倖。良かったよかった。
『聞こえるか?78回目のダンジョンマスター達よ』
突如聞こえた声に、一人で安堵していた俺の体はビクリと震え、再び緊張感を与える。
この声は……混沌の神の声だ。
声とかではなく、感覚で分かる
『まず、ダンジョン設定用のウィンドウを開け』
ウィンドウ……?なんじゃそりゃ。どうやって出すんだ?意味がわからない、聞いたこともない言葉だ。
俺が意味もなく唸っていると、混沌の神の声が聞こえる。
『あぁ……。そうだったな。まぁ、念じるんだよ。ウィンドウ!ウィンドウ!というようにだな』
心を読まれた!?急な事態に驚くと同時に、急に冷や汗が出てきた。
今までの怯えやら考えやら全部読まれてた?
『……安心しろ。反抗的な態度さえ取らなければ何もせん。あと心を読めるのは最大5億人までだ。お前らの思考など読んでいる暇はないのでな』
ごおく……?えっと?
深く考えるのはやめにして、取り敢えずやってみる。ウィンドウ!ウィンドウ!ウィンドウ!ウィンドウ!ウィンドウ!ウィンドウ!ウィン……
〈ウィンドウ〉
DP:1000
出たけど?え?これだけ?これだけですか?マジですか?
『ウィンドウという文字と残りDPが出ればそれでいい。そこで貴様らがこれから取得するスキル、ダンジョン情報、基本的な情報が見られる。ただしこれはダンジョンマスターのみの機密なので口外しようとしたら敵対とみなすからな』
……。
『そして最後だがこの本を全部読め。まあこう言っても読まないで死ぬ愚か者はいるが……。貴様らは違うよな?それは説明書みたいなものだ。しっかり読むように!』
自分の体が自由になる感覚。ふわっとした感じ。
つ、疲れたぁーー!なんだろう。体が浮きそうなぐらい軽い。
そんだけ凄い重圧だったんだな。はぁ。まぁ説明書読まないとな。
けどその前に休みたい。寝たい。
というかここどこ?なんかさっきの空間とは一周回って真っ黒だけど明るい感じ。
説明書に書かれてるかな。
○○○
あぁなるほどね!この空間についてなんとなくわかった。
ここはまぁ簡単に言うとダンジョン作りの設定部屋で出入り自由らしい。
何が何だか分からない事だらけだ。
分かるのは、俺は何か超高位の存在に作り出され、DPという謎の力を駆使してダンジョンを運営する使命を与えられた。
恐らく……それだけだ。
混沌の神が賭けとかなんとか言っていたが、知らん。
俺がやるべきことは唯1つ。
この地獄みたいに唐突で意味不明な状況を脱して、優雅な生活を送ることだけなのだ!
と、決意したところでダンジョンの設定部屋の外に出る。
「〘設定終了〙」
直後、俺の体は部屋のような所に放り出された。
って、なんて所に出るんだ!
このままだと尻から落ちて痛いじゃないか!
慌てて手をついて受け身を取る。
毎回出る度にこれなら色々と厳しいぞ!
さて、周りを見渡すと本が沢山並んでいた。
簡素な机に簡素な椅子。この本は……常識や世界、ダンジョンに魔物など、様々な種類があるな。
奥の方には薄緑にぼんやり輝く美しい水晶が安置されており、台に小さな座布団みたいなのに周りは硝子の箱に入っているという厳重さだ。
恐らくあれが……ダンジョンコアだ。破壊をされればダンジョンマスターは輪廻の輪に戻ることなく、完全に消滅するらしい。
おっそろしい話である。
と、しばらく見ていると外に出る扉を見つける。
木製の小屋みたいな感じか?と扉から外を見ると、そこには広く、青々とした森が広がっている。
適度な光が天から差し込み、吹き抜ける風は涼しくて気持ちがいい。
ここは森の小屋らしい。
なかなかいいな、と思いつつ周りを見渡す。
大きめの森だから外は見えないが、小動物や鳥の姿が散見され、ここが中々の名スポットだと景色が教えてくれた。
昼寝したら気持ち良さそうだ。
だが俺のそんな景色を楽しむ時間も、すぐ終わりを迎えた。
「あんた!大丈夫か!?」
そこには倒れている女性がいた。
獣の……猫の耳を持っている、恐らくあれは獣人と言うやつだろう。
金色の髪に緑の目をしており、長い髪は土で汚れて少し不恰好だった。
肩と腹に2つ、大きめの傷が出来ており、ピンとたった耳がピクピクと動いている。
小さめのしっぽが控え目に主張しているのが可愛らしい。
かなりの美人だ。
それも俺好みの。
生誕初遭遇の獣人に一目惚れをしそうになるという自らのチョロさに呆れるが、そんなことを言っている場合では無さそうだ。
「お母さんが手を振ってる……グフ!あぁ、私。お母さんのもとへ行けるっ」
多分幻覚まで見えてらっしゃる。
大丈夫そうじゃないな……。
仕方ない、勿体ないがDPを使って助けよう。
「召喚〘上級ポーション〙。これを飲んで!」
「むぐ!」
くるしそうだがそんな事言ってる場合じゃない。
死にかけだ。全体的に血も流しすぎてる、ポーションで回復できるとは思えない重症患者だ。
放っておく訳にはいかない。
何より獣耳の獣しっぽだ、そして美人だ。
これがゴッツイ野郎とかだったらそっと川に流していた可能性は高いが、何せ美人である。
恩を売って損はないしな。
人里との交流もできたらいいし、一応。
口元からだらしなくポーションがこぼれ落ちる。
だが恐るべしポーションパワー、確実に傷が治っていってる。
血はあまり回復しないのか血色は悪目だが、大きな傷は目立たない程度まで治癒している。
……こぼれたポーション飲んじゃだめかな。
そんな邪念を察知したかのように彼女は俺の腕から飛び起きた。
「は!お母さんは!?メイトは?私は助かったの!?」
俺に気づいたのかこっちを向く獣耳さん。
ああ、マジで可愛いので耳をもふもふしたい。
癒しはここにあったのか。
「あなたが助けて下さったのですか?それならばお礼を申し上げたいのですが。私にできることならなんでも仰ってください。私にできる範囲で恩返しをさせてください!」
え?今なんでもって言わなかった?…………とは言わない。
あぁ、そうとも言わないとも!
そう、俺は善意で助けた。あくまで善意だ。そう、善意……いやちょっとだけ耳触らし……善意だ。
そこで初めて俺は口を開く。
「お礼はみ…いりませんよ。と、当然のことをしたまでです」
「し、しかし」
獣耳さんここは引き下がろうよ。ほんとに襲うよ?いいの?いいんだね?
よし来た
新作を宜しくお願いします!
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