小さな結社の結成
新聞は、地龍による大地震の話題で持ちきりだった。
死者、行方不明者8000人以上の大災害。
ゲストハウスのリビングで、その記事を読んでいた。
『成る程。被害が想定より少なくなって無理やり変えたんだろう。』
「ねえ、私ってさ、やっぱり無力なのかな?」
『そんな事は無い。国一つ滅びる勢いだったんだぞ?』
「そうかな…?なんか自信なくなっちゃった。」
今まで全滅させてきたから?
力を持ってるのに、相応の働きが出来ないから?
ただ単に、私のエゴ?
「大丈夫…?」
「マイラ…」
マイラは比較的軽傷で済んだけれど、術式で眠って真実を知らない方が良かったんじゃないかって思う。
そこに、ディゼイがおかしな提案をした。
『しかし、天来が大規模になってきているのも事実。ここは、6000年前にやった手と同じ方法を使うしか無い。』
「手?」
『結社を組むんだ。幸い、ここには真実を知る者は二人いる。』
「結社?クランで良いんじゃない?」
『いや、ヴァルハラとそれを退ける者の周知は避けたいんだ。信仰対象を失った人間がどうなるか、俺は良く知ってるからな…』
ディゼイの話を聞く。
結社とは、真崩の能力によって成立するチームの形らしい。
メンバーは総統…つまり、私と契約を交わして刻印と能力の一部の写しの得る。
誰がメンバーかは、総統とメンバーしか知らない。
『どうするんだ?お前が弱いとは言わないが、仲間がいて損はないだろ?』
私より先に、マイラが口を開く。
「私は、全然構わないよ?エインツィアの力になりたいし、なんかかっこいいし。」
私は少し考る。
「…ねえディゼイ、害は無いの?」
『特に無い。追加能力分の魔力はお前から区弁されるが、お前は不死身だし魔力は無限だ。一応老衰以外の死は伝導するが、お前は老衰以外では死なないからな。』
「じゃあ、やり方教えて。」
ディゼイは私に耳打ちする。
聞いててだんだん地胸焼けがしてくる。
「ねえディゼイ…真面目に教え…」
『こればっかりは違う!俺は介入してない信じてくれ!』
「………」
私は、目をキラキラさせて待っているマイラさんの方に向く。
「…ディゼイ、何となく後ろ向いてて。」
『はあ?俺に目なんて無えぞ?』
「でも何となく。」
ディゼイのギザギザの歯が後ろに向く。
そしたら、私はマイラにぐっと顔を近づける。
「!」
「ねえ、本当に良いんだね?」
まずは接続。
「ん…」
過程の一環だって言うのに、キスはやっぱりドキドキする。
マイラの唇はすごく柔らかいし。
「………」
次は伝授。
マイラが、後ろ向きのままのディゼイに耳打ちされる。
「んん…(これで良いかな…)」
マイラは私の口にゆっくり舌を入れて、私はそこに犬歯で傷をつける。
軽く血の味がして、同時に普通じゃない魔力の流れも感じた。
最後に乖離。
「ぷはっ…」
行動以上に体力を使う物だ。
『おいマイラ、なんか魔法使いながら舌見せてみろ。』
「ほうかな?」
マイラの舌には、紫色に光る軌跡でフクロウのモチーフが描かれていた。
『梟の印?ちょい意外だが…あり得なくも無いか。懸念するとすれば…』
私は不意にマイラと目が合うが、なんだか恥ずかしくなってきて、私は目を逸らしてしまった。
マイラも顔を赤く染めている。
『お前らの関係がしばらくの間面倒臭くなることくらいだな。』
なんとなく気まずくなる私達を眺めながら、ディゼイだけは満足そうにしていた。
「じゃ…じゃあ、クエストにでも行こっか。エインツィア。」
「うん。」
なんだかたどたどしくなる。
初対面の人がマイラにする様な態度では無く…ディゼイの言った通り、蜜月の様な感覚だ。
◇
「こんにちはエインツィア様…。あら?マイラ様!ようこそこの街に…」
「あの…例のクエストを…」
「はい!こちらでございます!」
見たこともない程いくつもの判子と署名が刻まれた、真新しい紙が差し出される。
ゴーレム系の未確認モンスターの討伐。
マイラはそれに、自分の名前と…エインツィア…私の名前?
「すみません、エインツィアの連れの名前は必要ですか?」
「ええっと、自立して活動する予定でしたら。」
「じゃあ要らないね。」
マイラは当然の様にその紙を提出して、クエストに出発した。
「ちょっと待って…私も…?」
「うん。だって…私よりも強いじゃん。エインツィアさ。」
◇
いくつもの転送魔法所を飛び継いで、広い砂漠に到着する。
「ここで良いんだよね?エインツィア。」
「私に聞かないでよ…」
「もう、そのジト目は何?」
「生まれつき…」
未確認モンスターの捕獲又は討伐。
相当な実力の冒険者だけが任せられる重要なクエスト。
マイラのライセンスは、青に淡い波紋が付いたような、非常に鮮やかな魔石がはめ込まれていた。Sランクのそれだ。
「暑いね…マイラ…」
「砂漠だもん。」
しばらく歩くと、向こうに何か大きな建物が見えた。
最初ただの幻覚だと思ったけれど、近づけばそれだけ大きくなったため本物の物体だ。
『おお、随分と懐かしいもんがあるじゃ無えか。』
私には、背の高い長方形の岩が二つ並んでるようにしか見えなかった。
『この様子じゃ、今は発進準備中か?』
「ねえディゼイ、何言って…」
すると、その岩の間に巨大な魔力の塊が現れ、それが次第に巨大な何かの形になって行く。
巨人かと思ったけど、もっとこうゴツゴツしてて、全体的に硬そうで。
『黒光りする装甲、真っ赤な眼光モジュール、肌で感じれる程の炎の魔力。タロスB-4993か。まさかこの時代のこの世界で巨大ロボを見ることになるとはな。そうだな、マイラ、こいつを相手に刻印を指導してみたらどうだ?』
「ええ?一体どうやって…」
『戦ってる内に見つけるだろう。』
天にも登りそうなその巨体は、拳を振り下ろす。
「ひゃあ!」
マイラはそれをかわすと、恐る恐る鉄爪の攻撃を当てる。
案の定鉄爪は砕け、マイラは早々に武器を失う。
「ええっと…」
僕とディゼイは話し合う。
「ねえ、助けた方が…」
『まあもう少し見てろって。』
幾度も地面の割れる音がする。
「ひいん!」
マイラの反応速度では多分当たる事は無いだろうけど…
その時、そのロボとやらは掌から火炎を放射した。
“ゴオオオオオオオオ!”
その一帯の砂がガラスに変わり、なおも炎を上げて燃えた。
その隙に、ロボは私の方に拳を振り上げる。
「あ!」
その時だった。
“ガキガキーン!”
拳と鉄爪がぶつかる音がする。
いや、それは爪というにはあまりにしなやかな見た目をしていた。
「…これは…?」
『梟刻印。真崩第四の眷属。それは知性で、同時に狩人。本来の力を出すのは夜なんだが、まあ旧式タロスごときだったら問題ないだろう。』
大きな黒い魔女帽子に、刃を蓄えた翼。かなり動き易く作られた学者の様な服からは、すらりとした腰が見えた。
どうやらマイラ本来の動物的特徴は一時的に消えているらしい。
「ねえ、私の服のサイズは別に間違えても良いけど、マイラのは流石に…」
『あれでジャストサイズだぞ?』
拳が再び振り下ろされるが、マイラは瞬間移動でロボの頭の目の前に移動した。
鋼の様に硬化した羽が数枚マイラの周りに飛び、光線になってロボを貫く。
“ガン!ガン!ガガン!”
分離した光線に、的確に関節や胸部を貫かれたロボは崩れ落ちる。
『…!マイラ!こっち来い!』
「は…はい!」
マイラの姿は元に戻り、変わりに私が変真を遂げる。
いつかの三角防壁の姿だ。
“ゴオオオオオオオオン!“
ロボの胸部が炎の魔力の大爆発を起こし、障壁が無ければ全員消し炭になっていただろう。ディゼイ除いてだけど。
『そろそろこの姿にも名前を付けるべきか?”真崩守人“なんてどうだ?」
布はどこも余裕があって、全体的にヒラヒラしている印象を与えた。三角形の髪留めが付いていて、パジャマみたいな雰囲気も醸し出していた。
「ふう…」
障壁を解き、残骸になったロボの所に行く。
念の為この姿を維持したままで。
”ガシャン…“
残骸の一部、巨大な鉄のプレートが倒れ、奥からは…
「女の子?」