侵略者達
「え…?あ…え…?」
「どうしたの?冷めちゃうよ?」
路地のゴミ箱に腰掛ける少女。
「えっと…マイラ?」
「実はさ、しばらくこの街にいる事になってね。ゲストハウスとったは良いけど二人部屋だったから、エインツィアもどうかなって…駄目かな?」
「ええ…?…私が…?」
「どうせ、私友達エインツィアくらいだし…」
マイラの長く細い尻尾がゆっくり垂れる。
獣族は数が少ない上に、マイラ自身容姿端麗だ。
私だって、最初会った時は接し方が分からなかったものだ。
「ねえどうかな。一人じゃ寂しいな…」
この様子じゃ、孤児院を出た後も良い人付き合いは叶っていない様だ。
「私なんかで良いなら、喜んで。」
「本当!?ありがとう!」
◇
『おいおい、このままあのデカパイ姉ちゃんとランデブーか?無垢で可憐な少女達のの蜜月が始まるのか?』
「ねえ…君の頭にはそれしか無いの?」
『なんだよ、良いだろ別に。折角の特等席なんだしなぁ。』
「このまま首吊ろうか?」
マイラのとったっていうゲストハウスのバスルーム。
そこで一人と一体の他愛も無い会話が交わさされてる。
「ねえ、これ何に使うの?」
『それは石鹸とシャンプーだ。』
「そ…そんくらい知ってるよこっちの事だよ。」
『それはシャワーヘッドだバカ。体の洗い方は分かるか?』
「む……」
まともなお風呂初めてなんだもん。仕方ないでしょ…なんて言えない。
人間でも無いディゼイに、あれこれ教えられながらなんとか風呂から上がる。
『頭からだ。しっかりやらんと風邪引いちまうぞ。』
「ねえ、なんでディゼイはそんなに詳しいの?」
『此処とは別のとある次元じゃ、俺も人間の姿をとってたからな。いやぁまた行きてえな。秋葉原。』
ディゼイが今までどんな経験を積んできたのか、人間の私には想像もつかなかった。
セーラー服は黒いワンピースに代わっており、寝巻きにぴったりだった。
『その服に汚れ一つ付かないのも、俺の魔法のお陰だがな。』
「へえ。」
『おいちょっとは気にしろよ。俺は寝るぞ。』
ディゼイは私の体内に引っ込む。
私も、ゲストハウスの寝室に向かった。
ベッドには既にマイラが身を休めている。
「…あ、エインツィア。来なよ。あったかいよ。」
「………」
なんだかドキドキするけど、私はマイラに招かれてベッドに横たわる。
「ほぉ…」
人生初めてのベッドだ…こんなにふかふかしてるんだ…
「気持ちい?」
「…うん…」
「やっぱり、夜は二人がいいね。」
「…うん…」
三日不眠だったこともあり、私はすぐに眠りにつく。
その様子を、ベッドの隣にあったテーブルの上で、ディゼイがニヤつきながら眺めていた気がした。
◇
「おはよ。エインツィア。」
「ふわぁ…おはよう。」
なんだか懐かしい気持ちになる。
違いとしては、この部屋に私達だけなのと、廃墟同然のボロ屋じゃ無いことくらいだ。
ここで始めて、疲労が嘘の様に消え去っていた事に気づく。
マイラは先に起きて、朝食の支度をしていた。
「マイラ、私牛乳買ってくる。」
「行ってらっしゃい!」
二枚の鉄貨を握りしめて、ゲストハウスを出かける。
街の古びた商店、ギルドのお隣さんだ。
「いらっしゃい。ん?ああ、裏に住み着いてる子かい?」
「はい…前はそうでしたが、一時的に家が見つかりました。」
「そりゃよかったね。で、なんか買うのかい?」
私は、棚に置いてあった二本の牛乳を手に取り、鉄貨と一緒にテーブルに置いた。
「毎度。他に何か買うかい?」
「いえ、全財産が残り鉄貨一枚なので。」
私は、冷却魔法のかかった牛乳を持ちながらそそくさと店を出て行く。
マイラのゲストハウスに帰ると、机にはパンとサラダが乗ってて、マイラがソファで読書をしていた。
「おかーえり。」
「ただいま…」
ごとりと音を立てて牛乳は机に置かれる。
マイラさんと私は席に着いて、静かな朝食が始まる。
会話は無かったけれど、気にならなかった。
「ねえエインツィア、エインツィアってフリー?」
「うん。そうだけど。」
「私もなんだ。仲間だね。」
唯一交わされた会話がこれだ。
ディゼイは随分と大人しいけど…
『なあ、分かるか?』
「ん?」
『こっちに来てる。十…いや、二十波。』
机の上の牛乳ビンがカタカタと震えて、ディゼイが感じていた物と同じ感覚に襲われる。
『…?おい!すぐにその姉ちゃんの額に触れろ!』
訳も分からず、熱を測る様にマイラのおでこに手を当てる。
直ぐに、目に見えない何か熱い物が手の甲にぶつかる感覚がする。
「あ…あが…」
『五分。畏怖の術式からそいつを守れ。』
闇の魔力をフルパワーで放ち、その熱い物を弾き返す。
瞬間、何か強い閃光の様なものが国全体を包んだ。
私はその手でマイラの目も塞ぐ。
『3…2…1…よし、術式維持限界だ。』
マイラから手を離して、外の様子を伺う。
金色の鎧に身を包んだ有翼の兵隊。石膏像も進行してくる。
「うえ…」
『すまん。フラグ建てたの多分俺だ。』
後ろのマイラも見てみる。
まいらは、最初はぼうっとしていたけれどすぐに意識を取り戻した。
「う…うわぁああああ!」
「落ち着いてマイラ。取り敢えず落ち着いて。」
「ええ?これ…」
私はマイラをそっと抱いてみる。
昔、何か怖い事があった時、よくマイラにしてもらってたみたいに。
「あ…ありがとう…」
「しかし、一体どうして天使の襲撃がこうも頻発する様になったんだろう。」
『最初っからこのペースだぞ。認知出来るか出来ないかの違いだ。普通の人間の記憶には必ず別な物が差し替えられる。飢饉とか、大火事とか、災害とか、戦争とかだ。』
私たちは外に出ると、天空から降臨してくる天使の軍勢を見た。
『これだけの規模か。恐らく差し替えられる記憶は、※凄惨な戦争※だろうな。』
既に虐殺が始まっていると言うのに、人々は身じろぎひとつせず天を仰ぐだけだった。
『おい、マイラっつったな。聖犬くらいなら食い止められるだろ!』
「え?あの白いわんちゃんですか?」
『そいつはほっとくといろんな奴を餓死させるぞ!直ぐに倒せ!』
マイラはよく分かっていない様子で、鉄爪を装備して病院の方に向かった。
『さて…俺たちもやるか。』
「らじゃ。」
変真の時間だ。
ディゼイは二本の細身の剣、私は…これまた…
「ねえ、露出が多いのって君の趣味?」
『さあな。少なくとも俺が楽だし、”真崩疾風“は機動力もあるだろう?』
胸当てにホットパンツ。ショートブーツに革手袋。あと何故かマフラー。
奇妙だけど…変な格好だとは思わなかった。またちょっと体大きくなってるし。
「ねえ…」
『何グズグズしてる!学校の方に行った奴がいるぞ!俺たちの目的は被害を最小限に食い止める事だ!無理はするんじゃねえ!』
脈絡もへったくれもないディゼイの指示に従う。
学校の校庭に向かうと、これまた妙な姿の敵。
「カバ?」
『タイタンサーヴァントだ。数こそ少ないが強力だぞ。』
金銀の装飾品をつけたただの白いカバにしか見えないけれど、それは子供達を丸呑みにしていた。
「!」
後ろにも同じ生物が現れていた。
私はその大きな口に丸呑みにされてしまった。
”シャキシャキシャキーン!“
切り開いた背中から脱出する。
不思議と汚れなどは付かず、切った感触も生物の物では無かった。
カバの骸を放り投げ、それを足場に空中を駆ける。
量の剣を回転させる様に振るって、目標を次々と切り捨てていった。
『華麗な着地。10点だな。』
「黙って。」