光を沈める真崩少女
ちょい嘔吐シーンあり、苦手な方は注意。
「ぎゃあああああああああ!」
『奴らの名はヴァルハラ。起源は不明だが、この次元の世界の…』
「うぎゃあああああああああああ!!!」
『で…目的は…人間の撲m…』
「わああああああああああああああああ!!!!」
『うるせえんだよ!何だってんだよ!』
身体中が焼ける様に痛い。
全身を炎に包まれて、そこからさらに千本くらいの針を刺されて、古木で作った杭に串刺しにされている気分だ。
「うわあああぁぁぁ!にゃにごれえええええ!いだいいいいいい!」
『ああ?ただの筋肉痛と魔導痛だろ。昨日一日でどんだけ魔法使ったんだよ、あたりめぇだろ。』
「うがああああああああああああ!じぬうううううううううう!」
『安心しろ。さっきも言ったが、魔導痛は直接の死因にはならん。死ぬとしても痛みによるショック死だな。言ったろお前の体の事は一切考えないって。』
せっかく街を救ったのに、今は路地裏で苦しみ悶えている。
結局街の損害の原因は、霊体のモンスターによる小規模の襲撃で片付けられ、当然私の事を覚えている者は居なかった。まあ、あの黒服は別…
ていうか…また意識が…痛みには強いと自分では思ってたけど…
「おええええ!」
『?おーい。死んだ…ら俺は自由の身か。全く、俺の魔力は無限でも、お前の体は有限だっての。』
ーー ディゼイ ーー
今日三度目の失神を記録したエインツィアの身体に入り込む。
あああ、人間の身体はいつ使っても不便だな。指、これ何本あるんだ?
「『よっこらしょ。おお、こりゃしばらくは伸びてるなこいつ。』」
三度目の正直でやっと操作可能になった。
ドラゴンの心臓は仮にもナマモノだぞ?優しい俺が届けてやるよ。
気を失っても痛覚は残ってるもんだが、俺は何ともないな。…なんか、エインツィア…お前も大変だな。
「『さあて、この美少女の身体も中々良いじゃねえか。』」
この状態じゃ【変真】が使えないのが唯一の欠点だな。
あいつが使えねえ分、優しい俺が仕事をしてやろう。
俺はその身体でギルドに向かう。二足歩行なんていつぶりだ?
「『よお…じゃなくて、こんにちは。』」
「あ、こんにちは。あれ?いつも一緒にいるあの黒いスピリットは?」
「『ええっと…今、ハリウッドで美人セレブとデートしてますよ。』」
「うん…よく分かんないけど、その袋は?」
「『あ、はい!これ納品お願いします!』」
俺はスモールドラゴンの心臓の詰まった袋を受付のテーブルに置く。
ゴトゴトと音をたてて、その袋から心臓が数個転がる。
「え?一体、何個持ってきたの?」
「『何個取ってくれば良いのか分からなくて、ざっと群れ一つ分ぐらいですかね?』」
「ええ!?一体どうやって…」
受付の姉ちゃんは戸惑ってたが、その心臓の中から上質なのを三つ選ぶ。
「ええ…では、これよりエインつ…エインツィア様はFランク冒険者です。残ったスモールドラゴンの心臓はどうなされます?」
「『え?どうするって、どうできるんです?』」
「換金、ポイント変換等などがございますよ。」
「ほとんど魔導変質してしまっている様で…全部で金貨一枚くらいですね。ポイントに関しては、エインツィア様はソロなのであまり関係ないかと。」
全く、人間のシステムは随分と複雑だな。
金貨ってのは恐らく金の事だろうが、ポイントに関しては見当も付かないな。
しかし…こんだけ集めても一枚ぽっちか…
「『上げます。どうせ要らないし。』」
「あ、寄付という事でしたか。ありがとうございます。」
さあて、すごく優しい俺は、そろそろ体をあいつに返す時が来たらしい。
あいつ、そろそろ大丈夫なのか…?
ーー 目覚めたエインツィア ーー
「ぐぷ…げええ…」
目が覚めたが、すごく気分が悪かった。
どうやら、魔導痛は収まったが魔導酔いが始まったらしい。
『へえ。喚いたり吐いたり、随分と忙しい奴だな。ドラゴンの心臓は、俺がしっかり全部ギルドに納品したぞ。』
「ぐぷ…ええ…余ったのはどうなった…?」
『金貨一枚分らしいから、寄付しだぜ?みみっちい奴だとは思われたくなかったからな。』
「うえ…ええ…?せっかく金貨なのに…」
金貨一枚…銀貨百枚分のそれは、人一人が二週間豪遊してもお釣りが来る額だ。
『何だよ?なんか問題あったか?』
「ごぽ…せっかく…げほ…家無し脱出のチャンスだったのに…」
『意外と高額だったんだな…済まねえ…。まあ、俺たちは路地裏の方が似合うと思うぜ。』
「うう…早く刑務所以外の壁に囲まれた生活がしたい…うぷ…」
路地にある大きなゴミ箱に、私は嘔吐してしまう。
魔導痛は、多量の魔力が流れる事で魔導線が壊される事で起こり、魔導酔いは、魔法の行使し過ぎで脳が限界を迎える事で起こる。
「ぜえ…ぜえ…ぜえ…」
今ディゼイ責めても仕方ない。
知らなかったもの、仕方ない。それに、私を思っての行動らしかったし。不器用だけど。
『で、この後どうすんだ?相棒。』
「取り敢えず…Aランクまで…あが…げええ!」
『取り敢えずまず復帰だな。出来るだけ遠くを見ろ。風に当たるのも良いぞ。』
路地を形作る建物によしかかりながら、色の変わったライセンスを見る。
見慣れた灰色から、これまた燻んだ緑色になっていた。
「はあ…ありがと…ディゼイ…」
『お前がダウンしてちゃ、いつまでたっても世界の支配者なんぞにはなれんからな。』
疲労から目を閉じてみるが、さっき散々寝たせいで眠りにはつけなかった。
クエスト受注金援助制度フルで使っても、私に受けられるクエストには限りがある。
結局、力はあっても地道な道のりなのに変わりはない。
『…?おい…なんか感じないか?』
「ええ…?今言われても…まさか…今日も働けっての?」
確かにかすかに感じた。あのヴァルハラ特有の気配が。
遥か遠くからだけど。
『つべこべ言ってねえで、お前が行くんだよ!お前しか行けねえんだよ!』
「でもまだ気分が…」
私の言い分は完全に無視され、ディゼイはいつもの短杖に姿を変え、私は真崩々女とやらになる。
初めは明かりのない場所を駆け、街から離れて夜闇の森の中に入っていく。草木は私の道を開け、水の上を走り、次第に明るい場所が見えてきた。
「はあ…はあ…はあ…」
『成る程。ヴァルハラ共の中宿地か。』
光に包まれた地には、妙な石像や装飾品。空には天使地には聖人。
『こんだけ大規模となるとだな…明日にはこの大陸の人間全滅してもおかしくないぞ。』
「なら、全員倒すまででしょ?けほ…けほ…」
『まあ、無理はすんなよ。』
私は闇の中に身を隠し、魔弾をその光の中に投げ込む。
ちょうど出した魔弾と同じ数の爆発が起こり、その地にざわめきが走った。
「なんだ!どこから攻撃された!」
「やはり闇属性が復活したという話は本当だったらしい。全員構えろ!」
さらに一発打ち込むと、居場所がバレる前に私から出てきた。
『よお、神さん元気か?』
「貴様!まさか…ディゼイか?そんな少女の姿で我々を騙せると思うなよ!」
まあ、普通そう見られるよね。
私自身、口数が多い訳では無いし。
“キイイィィィィン!”
聖人がその身に光の魔力を宿す。
『ヴァルハラに魅せられたバカな連中か。エインツィア、お前の同種族(人間)だが、大丈夫か?』
「問題ないよ…」
堂々と、その光の中に歩んでいく。
聖人は白いローブに身を包んでいるが、歩くと言うよりは滑るように移動していた。
私は出現させた魔弾を口に含み飲み込むと、聖人たちの陣地に突撃していった。
「何!」
聖人の魔法は闇にかき消され、同時に私の身体能力も上がっていた。
聖人を一人蹴り倒し、後ろから迫ってきた天使に飛び乗る。
その天使を足場に、光の大地の中心にある石像を拳で粉々に砕いた。
“ジジジ…ジージジジ…”
光は次第に弱まっていき、天使たちは撤退、聖人たちはただの白骨になっていった。
成る程。聖人たちは、本当はもうとっくに…
『お疲れさん』
「明日も…お仕事なんだけどな…」