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丸洗い

「…………」


『どうした相棒、鏡なんて普段見ないだろ。』


「その…この胸のベルトって…もうちょっと…その…」


『あ?何だよ、ちゃんと隠れてるだろ?』


「でも…その…ギリギリって言うか…はあ、何でもない。」


今更自分の格好に注文をつけるのもあほらしく感じ、素直にその廃墟を後にした。

マウンテントールを一体討伐。

明らかにノルマクエストの難易度が上がっている気がする。


「グオオオオオオオ!!!」


山の様な巨人が、落雷と共に現れる。

確か、マウンテントールはC級モンスター…大体、下級天使とほぼ同じ戦闘力と見て間違いは無いだろう。


「【インパクト・ヌル】」


薄気味悪いギラギラとした茶色くて大きな腹に手をかざすと、そこを中心に巨人の腹は丸く凹む。

と、次の瞬間には耳を破る様な重苦しい衝撃音と共に、マウンテントールは後方に吹き飛んで行った。


“ゴオオオオオオオオン……”


後方にあった巨岩に打ち当たり、巨岩と共に崩れ落ちる様に倒れる。

その巨体は、その後動く事は無かった。


「………」


『まあGでもCでも、今のお前にとっちゃあんま変わんねえな。』


パンパンと、特に汚れているわけでも無いけれど手をほろう。

あれを運ぶ…嫌だなぁ…


“キンキン!ガンガン!ドン!”


ん、あそこでも戦闘が巻き起こっている。

私とおんなじノルマを押し付けられた人かな。


「クラリス!右側から崩すよ!」


「オーケー!【剛打撃】!」


あれ…あの子達って…


「き…キスカちゃん大丈夫!?」


「大丈夫だよアン。こんなのかすりきz…いたた…」


「こ…こっち来て!【ヒール】!」


ローゼン…だっけ、確かそんな名前のギルドの子達だった筈。

4人のチームで、マウンテントールと互角の戦いをしていた。


「リッタ!上から来るよ!」


「任せてキスカ!」


大剣を持つ、リッタと呼ばれた少女が巨人の棍棒を刃で受け止める。

アタッカー2人に、魔法剣士とヒーラーが1人ずつ。

前のめりで、かなり思い切った編成だ…


「リッタ!今だ!」


「3人とも、ありがとう!行くよ…【スターブレード】!」


キスカはエンチャントした武器で、その巨体を横に一刀した。


「グオ……オオオ……」


巨人は倒れ、4人の少女達は勝利を収めた。

ほっと胸を撫で下ろし、そこを立ち去ろうとした瞬間だった。


「グオオオオオ!!!」


…どうやら血の匂いに引き付けられて来たようだ。

もう一頭のトロールが、少女たちに向かってきていた。


「!キスカ!危ない!」


「え?」


リッタが声を上げた瞬間には、巨人の大槌はキスカの真上に迫っていた。

…はあ…あの子達の名前、覚えちゃった…


「【インパクト・ヌル】」


巨人の脇腹のあたりに、一瞬だけ丸いくぼみができ、瞬きの間に、巨人は巨岩を突き破りながらかなり遠くまで吹き飛んだ、。


「所で…どうしてマウンテントールの討伐が増えたんだろうね。ディゼイ。」


『奴らから採れる脂がいい燃料になるらしいからな。…魔導植物完全完備のお前の家が特別おかしいだけで、普通は冬が近付けばどいつも燃料を欲しがるからな。』


「ふうん。」


開いた掌を握る時に、パキパキと音が鳴った。

【インパクト・ヌル】…特定の体積に、その許容量を超える闇魔力を流し、空間そのものを破裂させる荒技。

連発すると関節痛めそうで怖いな。


「ぇぇ…え…エインツィア…さん…?」


「…………」


何か声をかけようとしたけれど、その前にその子達の姿を見て、つい言葉を失ってしまった。

相当な激戦だったのだろうか、地面にへたり込む彼女たちは、マウンテントールの薄茶色の油が身体中にこべりついていた。


「エインツィアさん、その…助けて頂き…」


キスカが何かを言おうとするよりも前に、取り敢えず色んな場所に飛んだ。


『なんとか平原の薬草に、どこそこ海洋の海藻、あとは…』


「ねえ…ちゃんとやって。」


『土地勘無いのはお互い様だろ。飛ぶ場所は合ってるし大丈夫だろ。』



ーー 半人前冒険者 キスカ ーー


クラリスの提案で、あたしたちの受けれる中で今一番高額、高難度クエストを受ける事にしたのだけれど…


「なんか、ギリギリだったね。キスカちゃん。」


「…そうだね。アン。あたしが、もう少し火力を出せれていれば…」


「キスカちゃんのせいじゃ無いよ!アン…怖くなって、ずっと隠れてばかりで…」


エインツィアさんが居なければ、今頃みんな巨人のおやつだった。

もっと、強くならなきゃ…


「あの、エインツィアさんは何をしているんだろう…」


クラリスは、いつのまにか出来た物の山を指差す。

薬草とか、何かの鉱石とか、バラバラな地域で採れるはずの物が集まっていた。


「よっと。ディゼイ、あと…」


『最後は山頂だぞ。』


エインツィアさんが、空中に開いたゲートから一瞬現れて、物を落として、また消えるを繰り返していた。

あ!確かあの石、高級天然石鹸ってとんでもない値段で売ってるのを見た!


「…っと、これで、良いいかな?」


良い香りがする色々な素材の山が、戻ってきたエインツィアさんの軽い指先の動きに呼応する様に浮き上がる。

本当に不思議な力だなぁ…ん?


「………」


エインツィアさん特有の、凛としていてクールで、どこかチャーミングな雰囲気。

その、左右で微妙に色合いの違う赤紫色の瞳で、こちらを見降ろしていた。


「…ばっちい…」


「え?」


何かを呟くと、宙に円をなぞる様に指を動かした。


“ゴゴゴゴゴゴゴ”


轟音がして、何かを察知したかのように、周囲の無害なモンスターたちが離れていく。


「ねえ…なんかやばくない?」


クラリスが呟いて、少しだけ腰を浮かす。


「【エディット】」


背後の地面から、黒い霧の幕が湧き上がる様に出現する。

巨大な円形。エインツィアさんが宙に小さく描いた通りの形だ。


「とん。」


その後、エインツィアさんはかがみながら指で軽く地面を触ると、何かが陥没する音と共に、後ろの風景が豹変した。


「これって…」


「湖。…まん丸で、少し不自然かもしれないけれど。」


砂と石だけの荒野の真ん中に、大きな湖が出現していた。

驚くほど透き通った水で、まるで森林からそのまま持ってきたかのようだった。

凄い…でも、どうして…


「…少し試したいことがあるの。付き合ってくれない?」


「え…えーと…」


とりあえずみんなの様子を見る。

あれもしかして、みんなは何かに気づいた感じかな?


「は…はい。助けて頂きましたし…」


エインツィアさんは軽く笑うと、何か見えない力を使ってあたしを湖に落とした。

水は、あったかくも冷たくもない、絶妙なぬるま湯だった。

湖の底は意外と浅くって、そこは元の荒野の質感とはまるで違う、灰色の石だった。


「ぷは!いったい何を…」


水から上がり、エインツィアさんの様子を見てみる。

と、彼女は肩に乗っていた使い魔さんをおもむろにつかみと、かぶりついた。


「!?」


「ゴクリ…」


パン生地の様に引き延ばされながら、使い魔さんはエインツィアさんに飲み込まれてしまった。

その瞬間、彼女の背中からは、黒くて若干透明な触手が八本生え来て、片目に赤い眼光が宿っていた。


「綺麗にする。『じっとしてろよ。』」


先ほどの素材の塊を水に付けて、その触手で練る。

…と、あたしはここで初めて、エインツィアさんが何をしようとしているかを理解できた。


「わ!」


「ひゅぅ…」


「ひい!…って、冷たくない?」


ほかのみんなも湖に落ちてくる。


「『さあって、【返想】この姿はどんな感覚なのか、ゆっくりと試そうじゃないか。』」



ーー 明星の騎士団団長 クレン ーー


何でだ…何なんだ…

俺は剣で負けたのか…ヒーラーに…


「クレン…」


「あれが…L級冒険者…Legend級冒険者なのか?ロレーネ…」


「………」


「無理だ…俺には、無理だよ!俺が魔法対決で彼女に勝てと言っているような物だろ!…無理だよ…!俺には、才能も…まともな教養だって…」


「…彼女は、孤児だったらしいわよ。聖エファイストゥス学園にも、エインツィアなんて生徒の記録は無かった。」


「……なら、俺にはL級冒険者になる気質が無いんだ...」


アレイさん....すみません...俺は...


「ねえ、クレンは何処に行ったの?」


「?」


「アレイさんの前で、皆の先頭で、高らかにL級になるって言ったバカクレンは何処に行ったの?」


「...ロレーネ...」


「今出来る事を全部やり尽くした人の台詞、あんたが盗らないでよ!クレン、自分で言っていたじゃない!まだまだ知らない剣術が沢山有るって言ってたじゃない!」


ロレーネの長い金髪が夕陽に反射して、一瞬目が眩んだ。


「ぬあ!」


「剣聖より力が強い?なら今から私と腕相撲してみる?」


襟を掴まれたまま持ち上げられ、青く澄んだ瞳で睨まれた。


「あんたには、向上心って言う才能があるじゃない!だから誰よりも早く、私よりも早くS級まで上がれたじゃ無いの!その才能を、あんたは自分で否定する訳!?」


「.......」


「強者に負けた。いつものクレンは何をする?」


「決まってんだろ....」


剣を握りしめて、明星の騎士団の拠点を向く。


「今来てるダンジョン攻略依頼見に行くぞ。付いて来い!ロレーネ!」


「はいはい。それでこそバカクレン。」

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