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試運転

ーー レインズギルドの受付嬢 ーー


「…で、キャシー、あれからエインツィアは此処に来たか?」


「いえダリス様。多分ですけど、また元の生活に戻ったんでしょう。ですが今日は週末ですから、きっと来ますよ。」


昨日、コンバットの褒賞品と報奨金を届けにエインツィアちゃんの行ったけど、応対したのは眼鏡をかけた別の女の子だった。

姉妹…では無さそうだったけど…


「そうか…彼女は、我がギルドにチャンスを齎してくれた。是非とも直接礼が言いたいのだ…ははは、一括払いで利子まで完済した時のあの王国兵士のびっくり顔、君にも見せてやりたかったよ。」


「何せ、コンバットから金貨5万枚、それに10年分の上位クエスト優先権でしたっけ?」


「ああ。…紛れもなく、優勝者所属ギルドに対する配当だ。…あの混乱の中、俺やジロッドのパーティは他の冒険者達と一緒に避難したが…」


すると、私の元に初めて見る冒険者が2人。


「こんにちは!今日付けでレインズに移籍することになりました!魔法使いのアルマスです!こっちは戦士のレイグ!」


「どうも。これ、2人分の移籍届です。これからよろしくお願いします。」


移籍届を私に手渡すと、2人はそのまま集会場の方に歩いて行った。

知名度が一気に上がって、前まで少し寂しかったレインズに、続々と冒険者達が流れ込んできていた。ー


「なあ。見つけたか?」


「今日も居ない…エインツィアさん、本当に此処の所属なのか?」


「最近じゃ、金で雇われた傭兵じゃ無いかって言われてるぞ…」


…エインツィアちゃん…すっかり人気者だね…



ーー エインツィア ーー


「くぅ…すぅ…」


“カンカンカン!”


…金属音…?


「起ーきーてーくーだーさーいー」


「じ…ジズーチ…おはよ…」


フライパンを何かの部品で叩くジズーチが、寝室の入り口に立っていた。


「おはよ…じゃ無いですよ。もう週末で正午ですよ?」


「ふわぁ…そっか。ありがと。」


ディゼイが私の周りを周ると、黒い霧と共にパジャマが普段の服装に変更される。

肩に乗ったディゼイが、綺麗に折りたたまれたパジャマをベッドの上に吐き出した。

相変わらず、どうやっているのか見当も付かない。


「なんか食べて行きますか?今朝作ったパンケーキなら有りますよ。」


「うん。貰う。」


ジズーチの無表情は全く崩れてないけれど、その挙動はどこか楽しげだった。

部屋を出て廊下に差し掛かった時には、すでにメープルシロップの香りが漂っていた。

…ここまで匂い届くっけ?


「な…」


リビングに入って最初に目にしたのは、もはやシロップの塊にしか見えなくなっているパンケーキと、それを頬張るジズーチの姿だった。


「は…ほはえへへほ。」


「あの…ジズーチ…その…かけ過ぎじゃ…」


「ごくん。…え?ですが、シロップをかけないと味がしないと…」


「適量って言うのを…はあ、帰ったら一緒に作ろ。じゃあ…行ってくるね。ジズーチ。」


「あ、そのギルドから何か荷物g…」


そのパンケーキになりたかったものをディゼイと一緒に一皿平らげると、そのままギルドに向かう事にした。

胸焼け…は置いといて、あれからギルドは何か変わったかな。


『ほぉー人間ってのはやっぱ不思議だなー。』


「ん?」


『多分、お前があのギルドの株上げまくったせいだな。』


心なしか、街が少し賑やかな気がする。

商店街の中心にある、大きな半円型の建物に入っていく。


「あ、エインツィアちゃん!おはようございます。」


「おはようございます、キャシーさん。」


あのギルドは随分と人が増えていた。

コンバットとやらは相当影響力の大きな物なんだろう。


「あ、あの子じゃ無い?」


「うお!本物だ!やっぱりめっちゃ可愛い…」


暫くこの雰囲気が続くのかと思うと、少しため息が出た。


「キャシーさん、今週のノルマって…」


と、不意に首筋に冷たい物が当たる。


「お前が、エインツィアか。」


「…そうですが…貴方は?」


「俺の名前はクレン。職業は剣聖。」


「クレンさん。何か御用ですか?」


「…俺は、貴女に勝負を挑みたい。コンバットのルールを逆手に取った、完全なる不戦勝の貴女に。」


「……そうですか……」


キャシーさんは受付から出てくる。


「ちょっと貴方、少し失礼じゃ無い?」


私は、そっとキャシーを宥めた。


「分かりました。では、訓練場へ行きましょう。」


ギルドの建物の裏にある、大きな広場。

普段は物理系冒険者たちの鍛錬の場であるが、このように冒険者同士の勝負のために使われるときもある。


「では、よろしくお願いします。」


「随分と余裕なんだな。だが、少し待て。」


クレンさんは、背後で待機していたプリーストに声を掛ける。

と、プリーストはクレンさんに、大きな宝石の付いた首飾りを掛けた。


「【聖神の首飾り】。あらゆるデバフを無効化する、伝説級装備だ。オリハルコンドラゴン撃退作戦で勝ち取った、俺自身の力だ。」


「そうですか。…ですがまあ、」


肩に乗っているディゼイを握り潰すと、ディゼイは長剣の姿に変わった。

これを機に、【変真】の一歩手前、ディゼイの変形能力の別な使い方を試す事にした。

さしずめ、【変敬】だろうか。


「大丈夫です。魔法は使いません。」


「成る程…それが、その使い魔の能力か。」


能力…の一部、が正しいが、まあ、それでも良いかな。


「では…こちらから行くぞ。【ルーンブレード】…!」


クレンさんの、刀身に何かの文字が書かれた剣が輝き出す。

少し距離のある地点から振るうが、斬撃がこちらに飛来してきた。


「!」


“ガン!ギリリリリリリリリ…”

剣で受け止めたが、衝撃でかなり後ろに後退させられた。


「ねえディゼイ、どう?」


『あーこういう感じってのは何と無く分かったぜ。【変真】の時と何ら変わりないな。行けそうだ。…おい早く行くぞ。次は攻撃だ。』


「分かった。」


地面をめくる様に切り、その隆起した地面を蹴り上げてクレンさんに飛びつく。


“ガキン!”


「ぐう!?」


そのまま、地面を思い切り右足で踏むと、クレンさんの剣を引っ掛けたまま、クレンさんを投げ飛ばした。


「はあ…はあ…ふぅ…」


立っていた場所が見事に入れ替わったクレンさんは、混乱した様子でよろよろと立ち上がった。


「ぐ…何だ…ヒーラーが…こんな怪力を…?ロレーネ…あれは一体…」


クレンと私の様子をずっと観察していたプリーストが震え声で答える。


「あの子には…何のバフも掛かっていない…!つまり…あれは…」


「まさか…あれが純朴なステータスだと言うのか…!」


私は、手に持っている剣のディゼイに声を掛けた。


「ねえ、これはどうだった?」


『やっぱり攻撃も【変真】の時とあんま変わんねえが、少し燃費が悪いな。あー、正直これをやるのは対人の時だけで十分そうだなこりゃ。』


剣を持ち直したクレトさんは、こちらを睨みながら何かを唱える。


「【闘気集中】…行くぞ!うおおおおおおお!」


彼は凄い勢いで、剣を構えながら此方に駆けて来る。


“キン!キン!”


先程よりもかなり力強い剣術を受け止めながら、短い斬り合いを繰り広げた。

確かに彼の剣術は素晴らしい。

無駄が無くて、動きも正確、でも…


“ガン!ドン!”


「ぐはぁ!?」


単調。

私は、ディゼイの長剣を地面に突き刺して、そこに体重を掛けるように跳躍し、クレンさんの頭を思い切り右側から蹴りつけた。


「ふう…ごめんねディゼイ。重かった?」


『不安に成る程軽かったぜ。お前。』


体制を崩し、尻餅をついたクレンさんの首筋に剣を当てる。


「どう…なってる…なんで…」


「良い戦いでした。クレンさん。」


私はディゼイの剣をへし折ると、剣は溶け合い、素のディゼイに戻った。

その後クレンさんに手を差し伸べようとするが、彼は何かに駆り立てられるようにその場から走り去って行った。


「く…クレン!」


その後を、お供のプリーストが追いかけて行く。


「何だったんだろう…」


『さあ…何だろうなぁ…』


ふと顔を上げると、いつのまにか外野が沢山現れている事に気がついた。


「あ…その…失礼します…」


なんだか気恥ずかしくなって、私もその場を大急ぎで立ち去った。

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