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改訂された物語

【シュレディンガーの猫】によって改訂された物語...

「…あれ…見ろよ…」


「一体何繋がりだ…?」


「おいお前、声かけて来いよ。マイラさん可愛いとか言ってただろ?」


「何言ってんだ怖すぎるだろ!よく見てみろ!」


ここはすごく素敵な場所だ。闘技場の壁の中の、元は武器庫だった所に出来たレストラン。ほの暗い雰囲気に、取り払われた壁からは、会場全体の様子が一望できる。

…ただ、レイジとマイラと一緒にお昼を食べているだけなのに、周囲から異様な視線を感じてしまう。

ただ、レイジに気にしている様子は無いし、マイラに至っては気付いてもいない。

…やっぱり私には、もう上位ランク冒険者としての心構えが必要なのかも。


「はあ〜…」


「どうしたの?エインツィアさん。嫌いな物でも入ってたか?」


「違うのレイジ…ただ、同じで居るのって限界があるんだなって…」


「なんだ、君はそんな事でG級をやっているのか?」


「違う。…本当は別な理由があるんだけど…」


そんな話をしていると、マイラが拗ね始めた。


「ぶー…私も早くL級上がりたいー!…?」


「マイラさんの場合、後は匂い以外で敵と味方の区別がつけられさえすれば直ぐに上がれると思うよ…」


少しシュンとしたマイラが、大きくて真っ赤な魚の刺身を口に運ぼうとした瞬間だった。


“ドーーーーーン!!!”


巨大な衝撃音と共に、闘技場の一部が崩れ落ちる。

と、崩れた天井の一部がマイラのお刺身に直撃しそうになったので、急いでお皿を退けた。

闘技場全体がパニック状態に陥るが、槍を構えたレイジがいち早く行動に出る。


「…何だ!ドラゴンか!」


「統括殿!違います!大砲です!」


「何…?」


分かる…次に何が起こるか…全部!


「レイジ!そこにもう一発来るよ!」


「分かった!」


レイジは闘技場を駆け上がると、飛来してくる大砲を槍で両断した。


「エインツィアさん、貴女はやっぱり凄い。大砲の弾道をピタリと当てるなんて…」


「ただ、予感がした。何でかは分からないけど…」


『…上手く行ったな。』


ディゼイが何かを呟いたけれど、今は気にしている暇も無かった。


「流石L級様。随分と感が鋭い様で。」


武器を抜く音が彼方此方からしてくる。

黒い鎧を纏った冒険者達が次々と私達を囲んできた。


「…ラヴァナント帝国か…」


レイジは苦虫を嚙み潰した様な表情で呟いた。

…来る…気がする。


「レイジ!闘技場の外からも来るよ!大軍だよ!」


「やっぱりか…他国の冒険者達を一掃するつもりか?」


あちこちで、帝国の冒険者達は続々と戦闘を始める。


「覚悟し…」


「【ネガバインダー】」


私達を囲む帝国の冒険者達は、黒く変色した地面から伸びる触手によって拘束された。


「こんな奴らに構っている暇なんて無い、早く行こう!」


「分かった。ありがとう。エインツィアさん。」


マイラが他の冒険者達を引き付けている内に、闘技場を出ようとした。


「【鳳凰拳法・阿僧祇拳撃】!【鳳凰拳法・羅生脚】!」


あれ、あそこで戦っているのって…


「じ…実況者さん!?」


思わず大声を出してしまった。

あの人、闘えたんだ…


「おおこれは、彗星の如く現れ、トントン拍子でコンバットの激戦を制して来た稀代の冒険者、エインツィア選手…っと、統括殿。お知り合いで?」


「ああ、オレとエインツィアは長い付き合いだ。…これじゃあ、今年の大会はおじゃんだな。」


「全くですな。ははは…ん?」


実況者さんは、拘束状態の冒険者達を見る。


「あれは、エインツィア選手が?だとしたら…少なくともエインツィア選手は決勝進出ですな。」


「?」


「あそこで拘束状態にあるナイト…彼はエインツィア選手の準決勝の相手でございます。」


「ほぉ、奇妙な偶然もあった物だな。オレ達は闘技場の外に行くが、お前はどうする。」


「わたくしめは、衛兵と共にここの冒険者達の鎮圧にかかります。幸い、強力な者たちはエインツィア選手によって全員連行出来ておりますので。」


「そうか、頼んだぞ。」


レイジは実況者さんとのやり取りを済ませると、私と一緒に外を目指した。


「はあ…はあ…うう…どうしよう…帝国の冒険者たちは何とかなったけど…重戦士に真っ二つに斬られちゃった…うう…」


疲弊した様子のマイラが、ふらふらとこちらに向かってきた。


「マイラ?どうしたの?何も起こってないよ?」


「あれ?おかしいな…さっき絶対重戦士に…あれ?重戦士なんか居たっけな…」


「食べ過ぎで寝ぼけたの?とにかく、レイジと一緒に外の軍勢、片付けに行ける?」


「もちろん!だって斬られて無いもん!」


「あ…そう…」


一行は急いで闘技場の壁際の通路に入った。

此処を抜ければ闘技場の外、軍勢の迫る東の平野に抜けるが、かなり時間が掛かる。


「……」


ふと、何故か壁に入るヒビが気になり、立ち止まって少し叩いてみた。

…此処だけ音が違う…


「ん?此処?」


マイラが掌底で壁を叩くと、隠された窓の跡が露わになった。

そこからは、平野いっぱいを埋め尽くす黒い軍勢がよく見えた。


「行くよ、マイラさん、エインツィアさん。」


マイラが先陣を切り、レイジと一緒に続く。


「【ナチュレクトバフ・神速】」


「おおこれは凄い!体が羽のようだ!副作用とかあるのかい?」


「さあ…あ、もし突然痩せたら、私の家においで。お薬が置いてあるから。」


「そうか。副作用が出なくても、君の家に遊びに行っても良いかい?」


「変な居候がもう一人居るけど、それでも良いなら。」


「ははは。ああ、構わないさ。」


黒い鎧の軍勢が次第に近づくにつれて、彼らもこちらの事に気が付いた模様だ。

弓兵が上空に狙いを定め、斜め上空に矢を飛ばす。


「エインツィアさん!こっちに!」


「わかった。」


マイラは先に敵陣に到達し、矢が被弾する恐れはなかった。

レイジの盾に隠れ、矢の雨をやり過ごす。


「マイラ、一旦引いて。」


「わ…分かった!」


マイラがこちらに寄ってきたのを確認する。


「ふー…【ノイズウェーブ】」


右足で地面を叩くと、そこからガサガサと音の鳴る白黒の砂嵐の様な物で出来た波が生まれる。

波は、黒鎧の一団を一気に押し流した。


「ぐう....!?」


大斧を持った冒険者らしき男が、辛うじて波の一撃を耐えていた。

もう一度撃てば倒せるだろう。


「待ってエインツィア。私、あの人と闘いたい。」


「え?」


「あの人、多分だけど私の準決勝の相手だよ。」


黒鎧の兵士達が平野から洗い流された今、私達の目の前に居るのは彼1人であった。

どうやらあの重戦士だけ冒険者らしい。


「はあ...マイラさんたら...もう大会は...」


「分かった。頑張って来てね。」


「え...えっと、エインツィアさんがそう言うなら...」


マイラは軽い足取りでその重戦士の元に向かった。


「はあ...はあ...確か、お前は...」


「マイラ。貴方はエイークフルスさんだね。私の準決勝の相手の。」


マイラは、その重戦士に向かい軽くお辞儀をした。


「よしと...それじゃあ....」


「ふん!」


重戦士が早速斧を振り下ろすが、まるで彼の動きを完璧に理解しているかの様に、無駄の無い回避を魅せた。


「...と、前みたいには行かないよ!...前?前っていつだっけ...」


「この…人間もどきが!」


重戦士が斧を横から振るう。

が、マイラはその瞬間に足を振り上げ、重戦士の持つ大斧を地面に踏みつけてしまった。


「ぐ…なんて力だ…放せ!」


「……えい!」


“ゴオオオォォォォン……”


マイラが重戦士の額を鎧越しに小突くと、黒い巨鎧はガシャガシャと音を立てながら倒れる。

その後、彼女は地面にめり込んんでいる斧から足を退けた。


「はい。放したよ。」


「う…うう…」


すると、どこからともなく猛々しい実況が聞こえてくる。


「ラヴァナント帝国の襲来と言う、突然のアクシデントにも柔軟に対応しながら、見事に堅い装甲を打ち破ったマイラ選手が、決勝戦進出でぇぇぇぇぇす!!!」


闘技場の方から、音響設備を背負った馬と一緒に実況者さんが現れた。

歓声はなく、聞こえるのは音響の放つ微かなノイズと、平野を吹き抜ける風の音だけだった。


「統括殿。こちらの処理は完了しました。帝国冒険者は全員拘束済みです。」


「ご苦労。読心魔術師の令状を取ってくれ。今回の襲撃の全貌を明らかにするんだ。」


「かしこまりました。後ほど手配しましょう。では…」


馬の背負っているマイクを手に取ると、平野いっぱいに鳴り響かんばかりの実況を始めた。


「まるで何かに導かれるように、この大混乱の中見事準決勝の相手を打倒したエインツィア選手とマイラ選手。すぅぅぅ.....これより、観客も、ステージも何もない、第6000回コンバット決勝戦!開始…してよろしいでしょうか?」


実況者さんはこちらの様子を伺う。

マイラは指の関節をポキポキと鳴らしながら、こちらの顔を真っ直ぐに覗く。


「ふふん。私は大丈夫だけど、エインツィアは?」


「マイラが良いなら…良いけど…」


大会統括のレイジに見守られながら、コンバット決勝戦が今始まる。

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