誕生【真崩少女】
『ハハハ、でっけえ袋担いで。まるでサンタクロースだ。』
「…誰…それ…」
袋いっぱいの心臓を担ぎ。ギルドのある街に戻っている途中だ。
スモールドラゴンの心臓は、魔石がこべりつく様に生成されているため、数が揃えば結構な重量だ。
『お望みなら、サンタコスも出来るぞ?』
「…何故か興味あるけど、今はやめとく。」
『ああ。冬に取っておくか。』
だんだんと街が見えてきた。
しかし、なんだか様子がおかしい。
「!」
火を吹き出す建物。夜だってのに昼間より明るい空。
建物はどんどん燃えてるのに、声一つ聞こえなかった。
『…はあ、さては…』
ディゼイが光り輝く空の中心を示した。
数体の神々しい白色のドラゴンと、それを使役する翼の生えた騎士。
「あれ?エルファエル様…?」
『はあ!?様だと?』
「この町の守護天使様が…どうして…」
『…おい、今すぐあいつを止めるんだ。』
ディゼイがそんな事を口走る。
「え?だって、これはきっと、聖典に書かれてた救済の…」
『い!ま!す!ぐ!だ!火事起こす救済がどこにあるんだよ!』
私の本能か、その光の下に私は歩いて行った。
よく見ると、エルファエラ様の眷属の龍が光線を放ち、それが出火原因だった。
「………」
『何ぼさっとしてるんだよ!焼きコロッケになっちまうぞ!』
「だって、あの炎は神聖なもので、死ではなく救いを受けるの…ほら、みんなああして黙って座って…」
ディゼイがかなりの大声で私に呼びかける。
『炎は!炭素の燃焼反応だ!神聖もクソもありはしない!』
「でも…」
『良いからやれ!もし間違いなら俺を一生恨め!』
ディゼイはその姿を、うねうねと湾曲した形の短杖に変えた。先端には紫色の宝石らしき物が付いている。
一生恨め…か…
私は覚悟を決めて、姿を変えたディゼイを握りしめる。
杖から放たれたのは煙の様なオーラ。例の如く、服は散ってオーラが私を包み込んで行く。
「うおぉ!」
また私の知らない姿。
髪の毛にはピンク色が混じり、紫の髪飾りには小さな魔女帽子のオブジェ。あとは…形容できない奇妙な服装だ。この時期に半袖だし。
『おお…フリルスカートにロングブーツ。腕にはチュチュ。いつか見た“アニメ”を思い出すな。』
ディゼイってさ、デザイナーなのかな…変態なのかな…
その時、翼の騎士がこちらに気付く。
「ん?何だ貴様、何故畏怖の術式が機能しない?」
『そんな小細工、俺達に通用すると思ったか?』
「貴様!ヴァウリの民が封印した筈!」
『封印?あんなの、漬け物石の方がまだマシなポンコツが?』
「…やはり、六道封印と言えど、時の流れには勝てなかったか…悪い事は言わない。悪しき存在に巣食われし哀れな少女よ、我の救いを受けよ。さすれば、その身を浄化してしんぜよう。」
畏怖の術式…何だか、この天使様を信用できなくなる。
「お断りします。」
「愚かなる者よ…邪魂共々、その身を持って償うが良い!」
違う。こんなの、私の信じてる神様じゃ無い。
天使は私の方に剣を向けると、三頭の龍がこちらに飛来して来る。
格好つけてお断りしたが、何となく不安だ。
「ねえ、ドラゴン特攻じゃ無いよ…どうするディゼイ。」
『心配要らない。その姿“真崩々女”は光属性特攻。さっきのミニトカゲ同様とはいかんが…まあ、頑張れ。』
白い龍が至近距離に来たところで、私はその龍に飛び乗る。
龍の背を走り抜け、尻尾の所で飛び上がる。
「はぁ!」
杖を振り上げると、その先に魔法陣が現れる。
天使は手を合わせると、三角形の透明な防壁が現れた。
”キイイィィィィイイン!“
振り降ろすと、魔法陣の規模の割には小さな魔弾が数発放たれる。
「ねえ…ディゼイ…失敗じゃ…」
『まあ見てな。』
魔弾はその防壁に触れた瞬間、目を見張る大爆発を起こした。
真っ黒な巨大なボールにも見えるその爆発は、一瞬でその街に夜闇を再び戻した。
「…!」
『ああ、あいつの能力は想定済みだからな。お前がどこまでの力を発揮するのかは分からなかったが…まあ結果オーライだろう。』
「そんな無責任な…」
弾幕が晴れると、空を照らしていた光は…一層強い物になっていた。
取り巻きの白龍の姿は無く、天使は巨大な白龍に姿を変えていた。
「権威で聞かぬなら、猛威で知らしめるまで!」
巨龍は無数の魔法陣を纏い、その魔力を高めていった。
光が満ちていき、その巨龍の口から極太の光属性ブレスを放つ。
私は回避できるけど、街の方が心配だ。
『よし、借りパク完了ってな。おい!地面に降りろ。』
突然ディゼイにそう指示されて、私は思わず蹌踉めきながら着地した。
杖のディゼイは姿を変え、手袋になって私の両手を包み込んだ。
服装も変わったが、それを確認している暇はなかった。
”パン!“
手を合わせると、さっき天使の使っていた障壁そっくりの物が目の前に出現する。
ただし、それは若干黒くくすんでいた。
「!」
『お前達の能力から思い付いたんだ。エインツィアの吸収と、お前の障壁生成。よって…』
巨龍の渾身のブレスが当たっても、障壁には波紋の様な物しか現れなかった。
むしろ、だんだん身体が軽くなって行くのを感じる。
『やっぱヴァルハラの連中は頭が硬いらしいな。』
その内、巨龍の魔力が尽きかける。
ディゼイはそれを見計らうや否や、再び短杖に姿を変えた。当然、連動して私の姿も変わる。
『一発、特大の行くぞ!』
「はあ…」
杖を振り上げると、そこには掌台の魔法陣が現れた。
巨龍は翼を広げ、残った魔力で自己強化を図る。
『行くぞ!』
「はい。」
魔法陣を巨龍に合わせ、思いっきり魔力を打ち出した。
“ドオオオオオオオオン!!”
巨龍の光を、真っ黒な爆風が飲み込む。
反動で暴風がこちらに来る。
私の脈拍は上がっていた。自分が、こんな大規模な魔法を操る日が来るなんて…ディゼイの力だろうけど、勝ち取ったのは私のスキルの結果だ。
『はい残念エインツィアの勝ち。』
弾幕が少し晴れたところを進む。
地面の凹みの中心に、瀕死の天使…いや、魔物が倒れていた。
『ふん。気高い天使が、こんなガキ一人にも勝てねえのか?』
「ディゼイ…もうやめなって。」
足元で虫の息のその魔物を見下ろす。天使の姿の魔物を。
「ふ…神の啓示に…逆らった罪…いずれ悔やむが良い…」
「じゃあね。守護天使様。」
魔弾を一発放って、その魔物の頭を砕こうとしたが、その前に魔物は天からの光に昇っていった。
私は街の様子を眺めてみる。
今見れば、人々は祈っているのでは無くただ意識を失っているだけだった。炎は爆風でとっくにかき消え、半壊した家々が立ち並ぶだけ。
「あ…貴女は…一体…」
私の背後から声が聞こえる。
そっと振り向くと、見えたのは黒服黒フードに身を包んだ人物だ。
ギルド専属の暗躍組織…?都市伝説だと思ったが、精神魔法が効かないのなら多分本物だろう。
私は一言名乗る。
【真崩少女】…と。