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二回戦 誰の舞台

ーー ストロベリー☆キスカ ーー


「みんなの応援が、あたし達のチカラに変わる!行くよ!」


あたしたちは、4人で声を揃えてスキルの名前を言う。


「「【シューティングスター】!」」


上空に巨大魔法陣が現れて、沢山の流れ星が会場に降り注ぐ。

星は、敵に当たると攻撃に、味方に当たると回復とバフになる、あたしたちの集大成。


「うわああああああああ!!」


レインズの伯父様方4人は、見事なやられっぷりを披露し、会場は更に盛り上がった。


「みんなの声援のお陰だよ!みんなありがとう!」


...と、勝利と声援の快感に浸るのもこれくらいにして、あたしは仲間達の様子を確認する。


「みんな、良い?レインズの本命の登場よ。」


みんな星を10個以上浴びて居る。これならきっと大丈夫。

....あたしは深呼吸をした。


“キイイイ....”


あたしたちとは反対側の大門が開き、聴き慣れない靴音と共に、闇の中から少女が1人現れた。


「う....!」


「どうしたの?アン。」


「こ....怖い.....【戦闘力知覚】が....逃げて!...て、叫んでる...!」


アンがその場に蹲り、頭を抱えながら震えていた。

こんなアン、今まで見た事が無い。


「大丈夫。流れ星の加護が有れば、きっと...ううん。絶対大丈夫。」


「キスカちゃん....!」


あたしは、エインツィアさんの方を向いた。

小柄な体に、綺麗な赤紫の髪と瞳。変なスキルの数々に...赤紫....きっとあたしたちの知らない、辺境の地で生まれた子なんだろう。


「ねえねえエインツィアさん、もしあたしたちが勝ったら、ローゼンに来てくれる?」


「....私が勝っても勧誘するのでは...」


「まあね。もう貴女の二つ名も決めたんだー!クランベリーなんてどうかな?」


「....嫌。」


「あはは....でも、あたし達は諦めないから!行くよみんな!」


みんな楽器を構える。

相手は何をしてくるか全く分からない...序盤はディフェンス主体で行こうか。


「では聴いてください!“投げKISS!“」


会場の音響から、あたしたちのニューシングルが流れ始める。


「行くよ!わんつーさんし!」


「【墓所凪】」


.....?

エインツィアさんが指を鳴らした瞬間、あたりが一段会暗くなった。


「......?........!?」


嘘....音が、消えた!?

会場の音楽も、あたしの声も....風の音さえ.....


「....!.....!?」


音は無いけれど、会場が盛り上がって居るのが分かる。

エインツィアさんが、また凄いスキルを披露したって。


「.....!」


慌てた様子の冒険者や職員が観客席に続々と現れ、エインツィアさんを見て、興奮混じりで納得していくのも見えた。


「静かね。此処は。そう思わない?」


「.....!.....!」


エインツィアさんの声だけが、はっきりと、重く、あたしたちの耳に届く。

それが、唯一の音なのだから。


「【墓所凪】は、一定範囲に結界を張る。結界内では、詠唱を必要とするスキルが使用できなくなるの。この闘技場が丁度すっぽり入るくらいの結界の範囲内ではね。」


「.....」


「ただ、色々と副作用があるの。これもフィールド変質に入るから、敵味方問わず効果を受けるし、正直かなり燃費が悪い。何より最大のデメリットは、私以外の全ての音が消えるの。だから味方同士の連携に...」


『私以外だと?』


「訂正、ディゼイの声も通る。」


何処からともなく現れたエインツィアさんの使い魔が突っ込みを入れた。

会場は、もうエインツィアさんに釘付けだった。次に何をするのか、あたしすら気になるもの。


「.............」


「!」


顔面蒼白のアンが震えながらあたしの手を握る。

大丈夫....そんな声すら、届かない。


「.....!.....!」


「だね。そろそろ始めよっか。」


あたしはマイクソードを、普通の剣みたいに構える。

声が届かなくたって、あたしはボーカルなんだから!


「.....!」


あたしはエインツィアさんに切りかかる。

エインツィアさんのパッシブは、消えていられる時間が最長0.64秒、現れてからもう一度消えるまでのリキャストが1秒程。

14段の星の加護を受けた今のあたしなら、攻撃を通せる!


「.....と。」


エインツィアさんの姿は消えたが、より早く戻り、より再び消える間隔が長くなって居た。

と、あたしはさっきのエインツィアさんの言葉を思い出す。

燃費が悪い....そうか!


「.....」


「.....!」


クラリスが駆けてきて、もう楽器としては使えないドラムをハンマー形態にして、エインツィアさんに攻撃を加えた。


「.....おっと。」


決して早い攻撃ではなかったが、エインツィアさんはもう瞬間移動を使った。

....あたし達を、試してる?

エインツィアさんなら、こんな音消しスキルを使わずともその気になれば直ぐに決められる筈...


「........」


あたしはアンの方に行き、そっと抱きしめた。

言葉が駄目なら....気持ちを直接伝えればいい。


「......」


「.........」


アンは立ち上がり、そっとあたしに【ライトスピードアップ】を掛けた。

詠唱が出来ないアンの、精一杯のバフだ。


「......!」


リッタは、ベースの変形した大剣を使って、クラリスと一緒に追撃を加えていた。

もう彼女は、既にエインツィアさんの意図に気付いたんだろう。

あたしも、頑張らないと!


「......!!」


魔力を使わない、純朴な剣技。【パリー】だ。

歓声も、音楽も、声も無い。エインツィアさんが見たいのは、アイドルとしてのあたし達の歌の力じゃ無い。

冒険者としての、あたし達の心の絆の力なんだ!


“.....”


確かに、感じた。

あたしは恐る恐る、あたしの剣先を見る。

エインツィアさんの肩に、あたしの剣先が触れていた。エインツィアさんの防御力が高く、傷すら付かなかったけれど....


「貴女達への、敬意を込めて。」


エインツィアさんは、瞬間移動で距離を取る。

あたしの筋肉は、既に限界を迎えていたため、もう追う気にもならない。


「【ショウダウン】」


あたし達を囲むように、四つの黒いオーブが現れる。

少し周囲を回転したのが見えた瞬間、あたしの意識が叩き落とされる心地がした。



ーー エインツィア ーー


会場を包んでいた黒い霧が、私の手のなかに集まり、私はそれを握り潰した。

その瞬間に、会場の雑多な音が返ってくる。

【ショウダウン】。範囲催眠スキルだ。ナチュレクトデバフよりも効力は低いが、体力を使い果たした彼女達を眠らせるには十分だった。


「ローゼンは補欠を持って居ません!よって二回戦の勝者は、またしてもフィールド変質を使いこなしたエインツィア選手によって、レインズギルドのぉぉぉぉぉぉ勝利です!」


急に爆音の歓声が来た為、危うく鼓膜が跳ぶかと思った。


「【生体再構築】」


私は、倒れているキスカに全快復を掛ける。


「....エインツィア....さん?」


「見学くらいは、考えとく。」


私はそうキスカに伝えると、入場口から建物の中に戻る。


『なあ相棒、なんで【墓所凪】なんか使ったんだ?』


「....うるさそうだったから。」

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