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真崩少女の本戦

こうして見ると、改めてマイラの卓越した戦闘スキルに感服する。

自分に向かう全ての攻撃を瞬時に見極め、回避し、時には反撃に転じる。


「よっと。銃撃なんて酷いよぉもお。」


ここでマイラが鉄爪を装備していない理由が分かった。

彼女は殺しに来てない、勝ちに来たのだ。

軽い身のこなしで、地面と水平に飛びながら銃弾をかわし、銃士を思い切り巴投げする。


「な…なんだあいつ!でけえ癖に速え!」


「よっと。この弓も…支給品かな?」


他の冒険者の持つ武器を次々と破壊していく。

しかも丁寧に大会の支給品の物だけ。


「ここで武器を失った冒険者達が棄権!よってJブロック優勝者はぁ!王都第七ギルドのマイラぁ!」


そう言えば、マイラもSランク冒険者だった。

当然出場してるよね…


「おーい!エインツィアー!」


「うわ!」


マイラは少ししゃがんだかと思えば、家二つ分ほどある此処まで一気に跳躍した。

そのままマイラは私に抱きつき、私は押し倒される。


「エインツィアも此処に来たの?でもどうして…」


「ギルド長に土下座で頼まれたから来た。」


私はマイラを横に退けて、手すりに寄りかかる様に座る。

マイラは仰向けに寝転がったままだ。


「エインツィアのスキル。見たよ。あの部屋で勝ち取ったんでしょう?凄いねぇ。」


「マイラも凄いよ。なんのバフも無しにあんなに動けるなんて。…あれ?そう言えばもう一人は?」


「えっと…敵か味方か分かんなくって倒しちゃったかも。えへへ…」


「…よしよし…」


私は寝そべるマイラのおでこをそっと撫でる。

マイラはにっこりと笑い、そのまま眠りこけていった。

これで予選は終わり、明日から本戦だ。

ただ…私の場合、ある意味今夜が本戦かもしれない…



私は闘技場の屋根の上で、満点の星空を眺めていた。

このまま朝が来れば良いのに…


“キイイイン!キイイイイイン!”キイイイイイン!”キイイン!”


満点の星空を埋め尽くす、数多の天文。

予選の時点では死者は殆ど出ない。なのに何故か、此処にきた冒険者の殆どが死亡してしまう。


「【バクの街】」


天使の襲来の前に、全ての天門を破壊するのは不可能。

だから私は、全ての天門を空間ごと私の固有結界の一つ、バクの街の中に取り込んだ。

当然、結界維持の為に私もその中に送り込まれる。


『相棒…良いのか?此処で。全員一人で相手…へへへ。はなからそのつもりだったな。済まねえ。』


「ふふ。」


天門が開き、数多の天使の軍勢が放たれてくる。

だけどここは、闘技場のある平地ではなく、灯一つ灯っていない、どこまでも続く石基調の夜の街であった。

夜空に星はなく、ただ大きな満月が煌々と人一人居ない街を照らしている。

時計台、大きなお屋敷、住宅街や何かのお店が地平線を埋め尽くしていた。乾ききった噴水のある小さな公園、消えた街灯の立ち並ぶ大通りらしき物。路地に立てかけられた古ぼけた自転車。劇場のような物もあった。

不気味極まりないゴーストタウンだが…


「ねえディゼイ…私、ここ好き。」


『お前の固有結界なんだ。あたりめえだろ?』


「ふふ…だね。」


ここなら、いくら暴れても外の世界への損壊は一切無い。

私が出れば、この素敵な私達だけの街は元どおり。


『行くか相棒!』


「うん。…【変真】!」


天使達が出現するが、困惑している様子だ。


「結界の主人を探し出して殺せ!我々への侮辱の罪を、地を持って償わせるのだ!」


私の服装は次第に変化していく。

背部には8本の直方体が、4対の翼の様に浮遊する。胸部は黒いチェストプレートらしき物で覆われたが、相変わらずお腹は出ていた。髪の毛はポニーテールで纏まり、スカートは長方形のプレートの集合体で形作られ、靴は、薄くて黒いぴったりの靴下(?)の上から、いくつかの金属の部品がくっついた物だった。


『【真崩戦機】対大軍勢の超火力特化型だ。ここなら好きに暴れられるだろ?』


「良いね。」


私の放つ黒い波動が、一瞬で複数の天使達を消滅させる。


「あそこだ!」


「人間風情が…者共!かかれぇ!」


天使達の進軍が始まる。

背中に浮いているプレートの間に、膜のような光が放たれて、飛行を開始した。


“キイイイイイイイイィィィィ!”


赤い軌跡を残しながら、紫色のオーラの剣を伸ばし、空中で天使達を次々と切り裂いていった。

人生初の音速飛行。とても気持ちがいい。


「おのれぇ…飛行兵!飛行特化兵!」


天門から、今度は翼に装甲を付けた天使が現れる。

その天使達も軌跡を描いて私の方向に飛来するけれど…私よりも遅かった。

私の周囲に、無数の輪のような物が出現する。


『弾幕だぜ。星がないなら、お前達がこの街を照らせ!天使共!』


輪から、無数の光線や光弾が放たれる。

天使達は次々に撃墜され、天門も破壊される。


「くそぉ…こうなれば!」


指揮官らしき天使の体が光り出し、白くて大きな狼に変わっていった。


「グオオオオオオオオオオオオ!!!」


「……満月のせい?」


『まあ偶然だろうが…オシャレだな。』


狼は、数本の巨槍と共に私に向かって突進してくる。

巨槍から光線が放たれるが、バリアが展開し、その全てを弾き返した。

私はオーラの剣を構え、そこにいくつかの光線を束ねる。


“ビイイイイイン!”


大剣に変わり、そのまま巨大な狼を一刀両断した。

やっぱり。天界の動物は、みんな布と鉱物で出来た人形みたいなものなんだ。

溶けていく巨大な狼の骸を眺めながら、しばしの静寂を楽しんでいた。


「ねえディゼイ、この街って完全にオリジナル?」


『…かつて、そうだな、コンバッドすら生まれてない程昔の話だ。カンディディっつう巨大都市があったんだ。本当に人が多くてな、でも…滅んじまった。此処はその街のイメージをそのまま拡大していったものだ。』


「どうして、その街は滅んじゃったの?」


『まあ、【バク】の仕業だな。奴はその街の人々の全ての悪夢を食い漁り、幸せな夢を見せたんだ。』


「それだけで…どうして?」


『幸せな夢から、人は抜け出せなくなったのさ。例え朝がやってきても、体が朽ち果ても…多分、今でも永遠の夢を見ているのさ。そいつらは。』


「…あのさ、当然のように出てきたその【バク】って何?」


『…量子生命体だ。いわば、俺の同族。亜空間に満ちるゼロエネルギーが、偶然高濃度になった場所で俺たちは生まれるのさ。俺はイービルスピリットキング…もとい、【ソウル】。で、奴は【バク】。奴は悪夢が大好きだっだが、始めに餌場にしたカンディディでの失敗を機に学習したんだ。幸夢も一緒に食い、人が目を覚ませる状態に保ち続ける事にしたのさ。』


「…今でも居る?その【バク】って。」


『身体を捨て、観測不可体になったが、奴は生きてるぞ。もしお前が目覚めた時に夢を覚えていなかったり、覚えていたはずが直ぐに忘れちまうのは全部奴の仕業さ。…あ、俺の事はディゼイで結構だぜ。【ソウル】はあくまで種族名だからな。ほら、帰るぞ相棒。』


建物が、石畳が、空が、固有結界が、解ける様に消え行った。

気がついたら、私の変真は解け、もとの闘技場の上で座っていた。


「疲れた…明日仮病でも使おうかな…」


『まあ…嫌でも出る羽目になると思うが…』


「?」

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