滅びの力は、案の定多様だ
「あのさ、ディゼイは私をどうするつもり…かな。」
『さあな。出来ればこの恨みでお前の心身を破壊したいが…まあ、そうもいかないからな。』
発掘作業の始まっていない小川で身体を洗いながら、そんなことを話す。
ディゼイの話じゃ、遺跡はここまでは続いていないらしい。
「不思議…ディゼイに裸を見られても、全然平気…」
『そりゃあ、俺はお前と一心同体だからな。防衛の必要がないんだろう。』
「そう言えば、さっきのあれは何だったの?あの、ディゼイが刀になって…」
『ああ、我ながら良い出来だった。上半身は割と適当だったんだが、肩や横胸が見えるのも良い味出してて…』
「きもい…じゃない、あれは何なの?」
ディゼイはつるつると水面を滑りながら答える。
『ありゃ“変真”。今のお前のアビリティだ。お前はどうやら俺のスキル、【真崩】を借りパクしちまったらしいんだ。』
「まほう…?魔法じゃなくて?」
『お前と始めて出会った時、俺は魔人の姿になったろ?実際、俺はあれ以外にも無数の姿が存在して、ああいう風に変真する事で力を行使したんだ。』
「へえ…で、貴方は私に協力する。貴方は私に何を求めるの?」
『この世界を掌握したい。形がどうであれ、この世界の支配者になりたい。』
「ぶっ…」
私は思わず吹き出してしまう。
そんな、子供じゃないんだし…
『笑うなよ。昔の俺だったら容易だったんだぞ?しかし今は無理だ。だから、お前がなれ。イービルスピリットキング代行として。』
「はぁ?」
『何度も言うが、俺とお前は夫婦以上に運命共同体だ。それが協力の条件だ。どうだ?』
私は少しの間、宙を眺めて考え込む。
ん…待てよ、ディゼイの満足する形で、地位を持つでも多分良いんだから…
「うん。良いよ。」
『へ、互いの欲望まみれの徒党結成だ。』
◇
体も綺麗にしたし、新調…って言うのかは分からないけど新しい服もあるし。
ギルドに行ってみる事にした。
「おい、今日の夕刊見たか?」
「ああ、ストーンゴーレムをソロで倒した冒険者の話だろ?」
ギルドの掲示板に珍しく張り出されていた新聞には、“素性、スキル共に不明”と大きな文字で綴られていた。
「私、こんな姿だったんだ。」
髪の毛は後ろでしばり、何となく東洋の雰囲気を持った服装だった。
『なかなか良い。二の腕のあたりから袖が始まったり、20歳の肉体にしたのも正解だったな。』
見つからないように体内でブツブツ言ってるディゼイ。
私は掲示板を後にし、受付に向かった。
「あの…」
「あら?こんな子供、うちのギルドに居たっけ?」
「………」
「まあ良いわ。ねえ、君ランクは?」
「G…」
「案の定駆け出しみたいね。じゃ、どうする?」
「昇格クエスト…」
「え?本当に良いの?」
私はコクリと頷く。
髪も瞳も服装も変わっているし、あの来てはいじめられていた子供だとは気づかない様子だった。
私はライセンスを取り出す。
魔石のはめ込まれたブローチだ。本人と紐付けされたおり、魔石の色でランクが分かる仕組みになっている。
私の魔石は、燻んだ灰色。見慣れた色だ。
「それじゃ、スモールドラゴンの心臓を3個納品して頂戴。」
「はい。」
私は去り際に、気恥ずかしく質問する。
「あの…どこに住んでますか…スモールドラゴン…」
受付の人は和やかそうにクスリと笑う。
「ここからすぐ西の岩山ですよ。」
私はそそくさとギルドを後にする。
『プス…』
「笑わないでよ…」
『お前可愛い。』
「うるさい…」
◇
岩山…ここかな。
最近、岩に好かれている気がする。気のせいかもしれないけど。
「ねえ…あれやってよ。刀巫…だっけ…」
『はあ、俺が言えた事じゃ無いがもうちっと頭使え。』
ディゼイが姿を変える。
刀…じゃ無くて、細身の剣。
剣から放たれた黒い光が、セーラー服と置き換わって行く。
「おお…?」
『真崩龍殺だ。どうだ?今度も良いだろ?』
体は特に変わらないけど、髪は若干短くなった。ショートボブ辺りだ。
黒い鎧が胸部と腕、それに腰から下を包んでいた。
「あれ、お腹…腰…」
『ああん?どうした?なんか文句あんのか?』
「だって、こんなに開いてたら、防御力…」
腹部からぐるりと、なんの防護もしていない部分があった。
『まあ見てろよ。ほら、そいつが戦う気らしいぞ。』
赤い鱗に包まれた小さなドラゴン。
トカゲの様な黄色い目で、私の事を睨みつけてきた。
私の半分ほどの大きさしか無いが、翼や角からすでに成熟した個体である事を示していた。
“ギャアアアア!”
剣を構えて、その赤いドラゴンに立ち向かう。
取り敢えず、最初の一太刀を当てる。
「あれ…?」
“グギャァ…”
少々の唸り声を上げて、たった一撃で小さなドラゴンはただの骸になってしまった。
『文字通りドラゴン特攻だ。こんな雑魚、当然の結果だろう。』
「………」
今のドラゴンの声で、辺りに居たドラゴンの注目が全てこちらに向かった。
“ギャアアァァァァ!”
黄色いドラゴンは雷を帯び、赤いドラゴンは炎、青は水、緑なら風と言った具合に、スモールドラゴンは各々の魔力を解放した。
重低音とともに、ドラゴンの口からは魔力の弾が放たれた。
数発は剣で弾いたが、数が数だけに何発も食らってしまう。
「ん!」
『スモールドラゴンなんかの魔法に敗れる程、真崩龍殺の鎧はやわじゃ無いぞ。』
成る程。ディゼイの言っていた鎧とは、私の身に着けている鎧では無く、私を防護する目に見えない魔法障壁の事か。
私の身体には傷一つつかなかった。
「ねえ、ドラゴンの心臓、何個って言ったっけ?」
『さあな。念の為、敵対する奴は全員潰しとけ。』
私は一つ薙ぎ払い、誰に教わったとも無い剣術でドラゴンを倒し続けた。
残ったドラゴンの表す感情が、敵対から畏怖に変わり、撤退して行った。
「ふう…」
『心臓だってよ。どうする?』
私の変真が解ける。
「そういえばさ…変真する時ってさ…見えるの?」
『は?』
「ほら…一瞬だけ服何も無いじゃん…私…だから…」
『はあ?…ってなんだよ、そんな事かよ。まあ、人前でやる時はちっとは気い使ってやるよ。』
私は支給されたナイフを使って、宝石にも使われるスモールドラゴンの心臓を取り出していった。