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滅びの力は、案の定多様だ

「あのさ、ディゼイは私をどうするつもり…かな。」


『さあな。出来ればこの恨みでお前の心身を破壊したいが…まあ、そうもいかないからな。』


発掘作業の始まっていない小川で身体を洗いながら、そんなことを話す。

ディゼイの話じゃ、遺跡はここまでは続いていないらしい。


「不思議…ディゼイに裸を見られても、全然平気…」


『そりゃあ、俺はお前と一心同体だからな。防衛の必要がないんだろう。』


「そう言えば、さっきのあれは何だったの?あの、ディゼイが刀になって…」


『ああ、我ながら良い出来だった。上半身は割と適当だったんだが、肩や横胸が見えるのも良い味出してて…』


「きもい…じゃない、あれは何なの?」


ディゼイはつるつると水面を滑りながら答える。


『ありゃ“変真”。今のお前のアビリティだ。お前はどうやら俺のスキル、【真崩(まほう)】を借りパクしちまったらしいんだ。』


「まほう…?魔法じゃなくて?」


『お前と始めて出会った時、俺は魔人の姿になったろ?実際、俺はあれ以外にも無数の姿が存在して、ああいう風に変真する事で力を行使したんだ。』


「へえ…で、貴方は私に協力する。貴方は私に何を求めるの?」


『この世界を掌握したい。形がどうであれ、この世界の支配者になりたい。』


「ぶっ…」


私は思わず吹き出してしまう。

そんな、子供じゃないんだし…


『笑うなよ。昔の俺だったら容易だったんだぞ?しかし今は無理だ。だから、お前がなれ。イービルスピリットキング代行として。』


「はぁ?」


『何度も言うが、俺とお前は夫婦以上に運命共同体だ。それが協力の条件だ。どうだ?』


私は少しの間、宙を眺めて考え込む。

ん…待てよ、ディゼイの満足する形で、地位を持つでも多分良いんだから…


「うん。良いよ。」


『へ、互いの欲望まみれの徒党結成だ。』



体も綺麗にしたし、新調…って言うのかは分からないけど新しい服もあるし。

ギルドに行ってみる事にした。


「おい、今日の夕刊見たか?」

「ああ、ストーンゴーレムをソロで倒した冒険者の話だろ?」


ギルドの掲示板に珍しく張り出されていた新聞には、“素性、スキル共に不明”と大きな文字で綴られていた。


「私、こんな姿だったんだ。」


髪の毛は後ろでしばり、何となく東洋の雰囲気を持った服装だった。


『なかなか良い。二の腕のあたりから袖が始まったり、20歳の肉体にしたのも正解だったな。』


見つからないように体内でブツブツ言ってるディゼイ。

私は掲示板を後にし、受付に向かった。


「あの…」


「あら?こんな子供、うちのギルドに居たっけ?」


「………」


「まあ良いわ。ねえ、君ランクは?」


「G…」


「案の定駆け出しみたいね。じゃ、どうする?」


「昇格クエスト…」


「え?本当に良いの?」


私はコクリと頷く。

髪も瞳も服装も変わっているし、あの来てはいじめられていた子供だとは気づかない様子だった。

私はライセンスを取り出す。

魔石のはめ込まれたブローチだ。本人と紐付けされたおり、魔石の色でランクが分かる仕組みになっている。

私の魔石は、燻んだ灰色。見慣れた色だ。


「それじゃ、スモールドラゴンの心臓を3個納品して頂戴。」


「はい。」


私は去り際に、気恥ずかしく質問する。


「あの…どこに住んでますか…スモールドラゴン…」


受付の人は和やかそうにクスリと笑う。


「ここからすぐ西の岩山ですよ。」


私はそそくさとギルドを後にする。


『プス…』


「笑わないでよ…」


『お前可愛い。』


「うるさい…」



岩山…ここかな。

最近、岩に好かれている気がする。気のせいかもしれないけど。


「ねえ…あれやってよ。刀巫…だっけ…」


『はあ、俺が言えた事じゃ無いがもうちっと頭使え。』


ディゼイが姿を変える。

刀…じゃ無くて、細身の剣。

剣から放たれた黒い光が、セーラー服と置き換わって行く。


「おお…?」


『真崩龍殺だ。どうだ?今度も良いだろ?』


体は特に変わらないけど、髪は若干短くなった。ショートボブ辺りだ。

黒い鎧が胸部と腕、それに腰から下を包んでいた。


「あれ、お腹…腰…」


『ああん?どうした?なんか文句あんのか?』


「だって、こんなに開いてたら、防御力…」


腹部からぐるりと、なんの防護もしていない部分があった。


『まあ見てろよ。ほら、そいつが戦う気らしいぞ。』


赤い鱗に包まれた小さなドラゴン。

トカゲの様な黄色い目で、私の事を睨みつけてきた。

私の半分ほどの大きさしか無いが、翼や角からすでに成熟した個体である事を示していた。


“ギャアアアア!”


剣を構えて、その赤いドラゴンに立ち向かう。

取り敢えず、最初の一太刀を当てる。


「あれ…?」


“グギャァ…”


少々の唸り声を上げて、たった一撃で小さなドラゴンはただの骸になってしまった。


『文字通りドラゴン特攻だ。こんな雑魚、当然の結果だろう。』


「………」


今のドラゴンの声で、辺りに居たドラゴンの注目が全てこちらに向かった。


“ギャアアァァァァ!”


黄色いドラゴンは雷を帯び、赤いドラゴンは炎、青は水、緑なら風と言った具合に、スモールドラゴンは各々の魔力を解放した。

重低音とともに、ドラゴンの口からは魔力の弾が放たれた。

数発は剣で弾いたが、数が数だけに何発も食らってしまう。


「ん!」


『スモールドラゴンなんかの魔法に敗れる程、真崩龍殺の鎧はやわじゃ無いぞ。』


成る程。ディゼイの言っていた鎧とは、私の身に着けている鎧では無く、私を防護する目に見えない魔法障壁の事か。

私の身体には傷一つつかなかった。


「ねえ、ドラゴンの心臓、何個って言ったっけ?」


『さあな。念の為、敵対する奴は全員潰しとけ。』


私は一つ薙ぎ払い、誰に教わったとも無い剣術でドラゴンを倒し続けた。

残ったドラゴンの表す感情が、敵対から畏怖に変わり、撤退して行った。


「ふう…」


『心臓だってよ。どうする?』


私の変真が解ける。


「そういえばさ…変真する時ってさ…見えるの?」


『は?』


「ほら…一瞬だけ服何も無いじゃん…私…だから…」


『はあ?…ってなんだよ、そんな事かよ。まあ、人前でやる時はちっとは気い使ってやるよ。』


私は支給されたナイフを使って、宝石にも使われるスモールドラゴンの心臓を取り出していった。






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