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力の真実

ーー ダリス ーー


「…本当に、知らないのか?」


「ごめんなさい…初耳です…」


彼女は少し気まずそうに答える。

からかっているわけでも無いらしい…

このギルドでは彼女の満足する様な報酬は出せない。よって素直に頼む事にしたわけだが、想定外だ。

俺は立ち上がり、コンバットの説明をする事にした。


「年に一度開かれる闘技大会…いわゆる冒険者同士の戦いの場だ。世界中から様々な冒険者が集まり、違いの力をぶつけ合い、高め合う。そうして頂点を目指すのがコンバットだ。」


「はあ…それで、どうして私が…」


「コンバットで好成績を残した冒険者の所属するギルドは、資金援助を受ける事が出来る。…もう、このギルドが抱える借金返す術がこれしか無いのだ。」


「…でも、私はG級…」


「君が実力を隠しているのは分かっている。その点に関してはいくらでも調整するので安心して欲しい。頼む…!」


俺は再び土下座をする。


『おい、何事だ?』


突然、部屋に空洞音の様な奇妙な声が響いた。

見ると、エインツィアの左肩から黒い油の様な物が湧き出て、それが次第に形を成していくのが見えた。


『なんだこのおっさん。って、ギルド長とかいうやつか?写真でしか見ねえ顔だがよ。』


「君が、エインツィアの連れているスピリットか。いかにも。俺がギルド長だ。』


俺はそのスピリットにも、俺とエインツィアのやり取りを伝えた。

しかし…こんな種類のスピリット、見たこと無いな。


『成る程?んで、この最強美少女に懇願したって訳か。』


「えっと…でぃ…ディゼイ?」


『で、どうする?お前が決めて良いぜ?エインツィア。』


「で…でも天r…お仕事どうするの?」


『最悪会場から行けるだろ。お前には数える気にもなんねえ程のスキルもあるしよ。』


エインツィアとその使い魔が、少しの間会話をする。


「分かりました。出る事には出てみます…ただ、ご期待に沿えるかどうか…」


「ありがとう!恩にきるよ!」


「ふひゃあ!?」


ああ…良かった…本当に…

と、正気に戻った次の瞬間、俺がエインツィアに熱い抱擁をしている事に気がついた。


「あ…ああ…あにょ…せ…せいいっぱいがんばりましゅから…その…そろそろはなしてくだひゃい…これひゃあのどがしまって…」


「ああ済まない!…とにかく、出発は明日だ。出場者の為の宿泊施設が用意されているので、必要最低限の持ち物で構わない。それじゃあ…頼む。」



ーー エインツィア ーー


「ただいま。ん?」


くんくん…何かいい匂いがする。これって…


『マイラでも来てんのか?…いや、玉ねぎを少し炒め過ぎたな。こりゃ…』


と、リビングからエプロンをつけたジズーチが現れる。いつも通りの不機嫌そうな顔だが、何処と無く緊張している様だ。


「来てください。」


「え?う…うん。」


私は言われるがままにリビングまで連れられる。

あ、これって…


『カレーじゃねえか!』


「ジズーチが作ったの?」


と、ジズーチは私を強引に椅子に座らせた。


「その…食べて下さい。」


「あ、うん。いただきます。」


スプーンで一口食べてみる。


「美味しい。」


形容的なカレーの味に、隠し味のつもりかもしれないけれどそれなりに存在が解るソースも風味。めちゃくちゃな切り方の根菜の数々…


「本当ですか…?」


『おうよ!まじでうめえ!』


「…そうですか。」


ジズーチは平静を装っているけれど、かなり喜んでいる様だ。


『さて、そろそろ荷造りでもするか。』


「へ?」


ジズーチが目を丸くして振り返る。


「ど…どこ行くんすか?」


「コンバット…て言うのに行く事になったの。大丈夫。二、三日で戻るから。」


「ほお…そうですか。気を付けて下さいね。」


「ふふ、うん。私、頑張るから。」


「あ、どうせならこのステルスドローンも持って行って下さい。会場に着いたら迷彩起動してベストポジションに配置しておきますから。」


「分かった。じゃあ、おやすみ。」


「おやすみなさい。」


私はシャワーを浴びて、自身のある二階に登った。

服装はディゼイが勝手に着替えさせてくれたので、そのままベッドに沈む様に飛び込んだ。


「ふう…」


『…相棒…済まねえ。』


「分かった。」


私は直ぐに元の服に戻り、窓を開け放つ。

夜風が私を撫でる。前より素肌の出ている面積が圧倒的に広い為、軽くくしゃみが出そう。


「せっかくだし、実験台になって貰おっか。ね、ディゼイ。」


『さてと、早速やるぜ。』


「【ディメンションスキップ】」


窓の外の風景が一瞬真っ黒になり、直ぐに全く別の風景になる。

闇魔法のスキルはどれも特殊で、それでいて強力だ。


窓の外に出るとゲートは消え去り、私は火山の真上に煌々と輝く天門の拝める湖のほとりに立っていた。


『ほお。まーた懲りずにやるつもりか。』


「何を?」


『ブレイズアータルを召喚するつもりらしい。確かにここならうまく行くかもな。ただ…』


「【ディスタースキップ】」


私の体を黒く小さなゲートが飲み込み、瞬時に泉のほとりから、真上に天門のある火山のてっぺんに移動する。


「な…なんだ貴様!ま…まさか…!」


「真崩少女…参上!」


その天使を足場に使い、天空に浮かぶ天門を叩き割る。

毎回、この瞬間が一番楽しい気がする。


『てめえら…どこ襲撃しようとしたか知らねえが、どこも襲わせはしねえぜ?』


「おのれ…消え去れ!愚か者!」


…小物か…


「【ダークフォース】」


全ての能力値を上昇させ、攻撃に闇属性が付与される。


「さようなら。小物さん。【ディスタースキップ】」


私は一瞬で天使の背後に移動し、天使を火山の岩に叩きつける。私は落下が始まった瞬間に再び瞬間移動をし、元いた山頂の地面に着地した。


「ふふふ…くっくっく…なぜここに我しか居ないか解るか…?いや、直ぐに解るな…」


天使はそう言い残すと、光の粒子になって消えていった。


『おい、来るぞ。』


「!」


火口の中の溶岩がブクブクと湧き立ち、そこから巨大ななにかが現れる。


“オオオオオオオオオオオオオオ!!!“


『おお。今回は上手く行ったんだな。』


二枚の岩の羽に、ただ穴を二つ開けただけの様な顔。巨人の様な体はマグマの通った巨岩で、ところどころから炎が吹き上がっていた。

これがブレイズアータルとやららしい。


『さてと、ひさびさにやるか。』


「お手柔らかにね。ディゼイ。」


ディゼイは長銃に姿を変える。

私の姿も当然変わる。


髪型は立派なポニーテール縛りになり、大きなマント。全身を包む軍服らしき物も特徴的だ。お腹にベルトがまかれており、そこには色々な種類の弾倉が取り付けられていた。胸には金属のボタンが二つ、腕にはカフスボタン。短いスカートらしきものがあるが、その下にはちゃんとズボンをはいている。これは…長靴?


『【真崩討性】だ。』


…いつものディゼイにしては口数が少ない。

と、ベルトの弾倉の一つが振動を始めた。私はそれを装弾すると、ブレイズアータルに向かって射撃を始めた。


“バシャ!バシャ!”


着弾地点からは水が吹き出している。しょぼい…と思ったら、意外と効いているらしい。


“オオオオオオオ!!”


ブレイズアータルは暑そうな拳を振り下ろす。

私はすぐにテレポート…するまでもなかった。どうやら機動力が格段に上がっているらしい。こんなに大きな銃を抱えていても、何の問題も無く回避に成功した。


“パシャパシャ!バシャ!”


“オオ…オオオ…!”


ブレイズアータルの炎が次第に弱まり、最後はそれはただの岩の塊に変わった。


“ゴロゴロゴロ…”


岩の塊は、溶岩の中に崩れ去っていった。

あれ…?なんだかこの銃、さっきよりも重い様な…


『バキバキ…ベキ!』


銃が変形を始める。これってまさか…また…


「う!」


重量に耐えきれず、私は銃だった物を地面に落としてしまった。


『今度の研修生は随分と優秀らしい。お前、名前は?』


「…エインツィア…ねえ、貴方は誰?」


『俺の名前はキラン。誇り高きゼロエネルギーの根元に一つだ。』


「ゼロエネルギーって…何?」


『お前、今ゼロエネルギーを使っていただろう。お前の使うそれの事さ。』


「これは…闇魔法じゃ…」


『はあ…可哀想に、人間式の教育のせいだな。良いだろう。教えてやる。』


歪んだ銃だった物は、不定形な人の形に変わり、私の頭を軽く撫でた。


『お前の闇魔力と読んでいるそれは、実際は魔力とは何の関係も無い。全く別のエネルギーだ。亜次元を満たす、虚無の力、それがゼロエネルギーだ。…通常の魔力とは、その次元固有の法則を持っているが、ゼロエネルギーは別だ。全ての世界線において、その挙動は共通、下らない土着事象の生み出す力の残りカスとは訳が違うのさ。』


「?でも、闇…ゼロエネルギーも魔法陣とかあるでしょう?」


『確かにな。ただ、その場合はただの目印だ。人間でも分かりやすい様にな。その場合の魔法陣そのものには何の意味もない。ただの絵と同じだ。』


「…そうなんだ。あと、その次元固有ってどう言う事?」


『世界は無数に存在する。どれだけあるかは俺にも解らない程にな。だが、どこだろうとゼロエネルギーは裏切らない。必ず答えてくれる。素晴らしいだろう?』


「…色々ありがとう。キラン。」


『まだ講義は…』


突然、キランと名乗ったディゼイはしぼみ始め、元のディゼイの姿に戻っていった。

いつのまにか、私の【変真】も解けていた。


『ん?どうした相棒。なんかすげー思慮深そうな表情だぞ?』


「キランって言うディゼイに出会ったの。色々教えてくれた。」


『お前…その俺のいってる事理解出来たか?』


「うん。」


『…へへへ、何だよ。なら始めっから本当の事教えて良かったじゃねえか。』


「あ、ねえディゼイ。月がまだ真上にあるよ。今から帰ったら眠れるかも。」


『だな。よし、帰るか。』

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