殺戮による動乱
ーー ギルドの夜 ーー
「うーん…今日も来ないかー。」
午後、クエストに向かっていった冒険者が徐々に戻ってくる時間帯。
ギルドの受付嬢、キャシーはふと呟く。
「ん?どうかしたかい?キャシーちゃん。」
少しチャラついた冒険者がキャシーに声を掛けた。
見事に染め上げた金色の短髪に、青色の瞳、中級戦士の装備を身につけた冒険者だ。
彼はS級冒険者、“鋼の旋風”ジロッドと呼ばれている。
「いやいや、こっちの話。」
「お、さてはあの女の子の事だね?」
「あ、いや、その…やっぱりバレるかー。」
週に一度、どこからかふらりと現れて、ノルマ最低限のクエストだけこなして去っていく。
黒いスピリットといつも一緒で、この国ではかなり物珍しい、赤紫色の長髪の少女。
一度手違いでA級クエストを紹介されたが、何の事も無くこなして来た話は冒険者の間でも有名であった。
「ま、おいらからしちゃ、あの子はちょっと迷惑だな。」
「え?それってどう言う事?」
「だっで、あんな美少女がいるってのに、ちょっとでもつるんだら即犯罪者判定だぜ?困っちゃうなぁ全く。」
キャシーは、少しごそごそと何かを取り出すと、書類の束でジロッドの頭をポンと叩いた。
「結局あんたはそれかい!」
「あいで!ご…ごめんて!だからおいらはさ、今イケオジを目指してんのさ。」
少し苦笑して、キャシーは書類を整理しながら分かりきった質問をする。
「どうして?」
「あの子が大人になった時でもイケてる為s…あいで!」
その様子を眺めていた周囲の人々から、和やかな笑い声が聞こえてくる。
「お前何抜け駆けしようとしてんだ!エインツィアさんは将来俺と一緒になるんだ!」
「何言ってんだ?ああいう繊細な子に、お前らの様な粗暴な連中が釣り合うわけないだろ。僕だよ僕。」
「ああやんのか!?」
「いいだろう、文句がある奴は全員訓練場に来い!」
キャシーは呆れた様子で、続々と集まる完了したクエスト契約書を集めながら、この束の間の平穏を満喫していた。
しかし、彼女…否、彼女や冒険者達は、今切迫した不安の種を抱えていた。
「キャシー、ちょっと来てくれ。」
「あ…かしこまりました。」
ギルド職員に呼ばれて。キャシーは奥の会議室に呼ばれる。
彼女にしては珍しく、会議の内容が大体は検討がついていた。
会議室に入り、円卓のいつもの席につく。
32人全員が席についたのを見計らい、初老の男、ギルド最高指導者であるレェ=ダリスが話を始めた。
「さて、昨晩王都の正義執行所の物品倉庫が襲撃され、シェティダロに関する証拠品の一つである未解読文字にて綴られた魔道書が窃盗にあった。そして…」
ダリスの秘書官である女性が、一枚の写真を提示する。
そこには王都最高のクラン、五芒星のメンバー四人と、その長の凄惨な遺体が写っていた。
円卓のあちこちから動揺する声があがる。
「…彼らは間違いなく、あの五芒の英雄達だ。彼らは最高の、L級冒険者であると同時に、王都にある五つのギルドをそれぞれ治めていた。損害は計り知れないだろう。」
円卓に座っていた一人、眼鏡を掛けた男がが立ち上がり、いくつもの書類を提示した。
「最高指導者を失った五つ全てのギルドは半ば崩壊、王都内は大混乱し、それに乗じた不法冒険者の横行、この事実が他国に知れば、戦争は避けられないでしょう…」
円卓の一人、キャシーが手を挙げる。
「あの、あれから襲撃した者の特定には至ったのでしょうか…」
眼鏡の男が少し苦々しく答える。
「目撃者の話によれば、翼の生えた女性との事だ。恐らくはシェティダロの契約した大悪魔、又は邪神で間違い無いだろう。…L級冒険者5人を、虫でも潰すかの様に一瞬で…大魔導、エンプレス・ライオに至っては、魔道破裂で殺されている。最早見せしめだ。」
キャシーは次に言おうとしていた言葉を飲み込み、別な質問をした。
討伐隊を組むのは…ただ死人を増やすだけだと知ったからだ。
「何か、その悪魔に関する情報は掴めたのですか?例えば、何属性だとか。」
「無い。…嘘の様に、何も無いのだ。その場に残った魔力も、ましては、彼らの遺体にすら、魔力が塵も残っていなかったのだ。」
「そんな…」
一通りのやり取りが終わり、ダリスの一声が掛かる。
「この悪魔は、逃走を試みた兵士すら惨殺する凶悪な性質を持っている。ギルド評議会はこれより、この悪魔を滅亡因子、L級モンスターに指定し、これより調査を行う。異論のある者は。」
円卓は静まり返る。
「異論なしと判断し、これよりL級レイドクエスト“今宵のワルツ”を開設。この悪魔に関する情報を集計し、何としても正体を掴むのだ。」
一同は賛成し、ギルド方針会議は幕を下ろした。
ーー シェティ ーー
“ズシャァ!ズシャァ!”
ジズーチさんの機械は、空飛ぶ天使を次々に切り落としていた。
ただ私自身は、マイラさんの様に全く別のスキルが追加されたのか、ジズーチさんの様に素の力が変化したのか、まだそれすらも分かっていなかった。
全然発動出来ない…困ったなぁ…
「……?」
…私自身?杖じゃなくって…
私は試しに、愛用の杖を放り捨ててみた。
杖が無くっても…私の中におかしな魔力を感じる。これが…もしかして…
「ひゃ!こ…これだ!」
『お、やっと掴みましたか。じゃあうちは一旦引きますね。』
私は中に手を翳し、聞いた事も無い呪文を唱える。
「ふ…【フレイオ・ウロボロス】!」
翳した手に魔法陣が現れ、2体の曲がりくねる真っ黒な炎の蛇竜が放たれる。2体の撒き散らす火の粉は大爆発を起こし、天使達を次々に屠っていった。
炎の筈なのに、照らされた周りが暗くなる。これが…闇魔力…
“ギュオオオオオオオ!!!!”
2体は最後、天門の前で集結し、丸い玉の様になる。
“ドオオオオオオオオオオ………”
真っ黒な爆発が起こり、天門は木っ端微塵に消えていった。
『中々おしゃれですね。』
「私は、今まで杖の魔力に頼っていたの。だけど…」
私は投げ捨てられた杖に目をやる。
「今まで支えてくれて、ありがとうございます。さっきは乱暴にしてしまい申し訳ございませんでした。」
杖を拾い、近くの切り株に突き刺しておく。
「次の誰かを、支えてあげてください。」
『貴女、それはただの杖ですよ?話しかけたって…』
「お互い様じゃ無いですか。ジズーチさん。」
『それってどう言う意味ですか…って、まあいいです。早く戻らないと日が出てしまいますからね。それでは。』
騎士型の機械とドローンはどこかに飛び去って行った。
私も足早に、あの書庫に戻る事にした。
ーー エインツィア ーー
“テキスト400をクリアしました。これより機材のメンテナンス、及び2時間の小休止に入ります。”
「はあ…はあ…」
身体中が痛む…けれど確かに感じる。
『低級スキル400個を…こんな短時間で習得するなんてな。流石悪魔式。効率重視なんてもんじゃ無いな。』
一度部屋から出て、身体を休める。
生まれ持った先天的なスキルと、自分の中の魔力に対応して習得する後天的スキル。
後天的スキルでは先天的スキルを習得することは出来ず、その逆も然り。
「エインツィア!」
「うわ!」
部屋から出て早々にマイラに抱きつかれる。
「ふむぐぐぐ!」
ち…窒息する!胸が…マイラの胸が…
「こんなに汗だくになって…まってて!直ぐにご飯の支度するから!」
「ぶへぁ!」
た…助かった…
『良い女房じゃねえか。な。』
「はあ…はあ…黙って…」




