自前スキルへの道
ーー イシュエル ーー
「…誰だ?貴様ら。」
赤い法衣の魔道師に、
「王国直属冒険者、五芒星が一人。赤き眼、エンプレス・ライオ」
フルプレートに身を包んだ騎士、
「同じく五芒星が一人。イージス、ジーク・メン」
双剣を持った盗賊らしき者に、
「同じく五芒星が一人、暗影、ソーサイスだ。よろしくな。お嬢さん。」
刀を持った竜人。
「同じく五芒星が一人、グリーム・リゾル。」
我はそろそろ飽きてくる。
「そして、五芒星が主、騎神、アレイー•バーだ。」
「....神....?」
神を名乗るのか.....?
面白い。
“ギュオン!”
長く伸びた紅剣が、その神とやらを縦に両断する。
なんだ、ただの人ではないか。
「!?」
そのまま騎士の首を跳ね飛ばし、竜人を裂き、盗賊の頭を砕く。
「あ....ああ.....」
「.....下らん。」
魔導師に高圧の闇魔力を流し、そのまま破裂させた。
『本は確保しました....て、これはこれは...』
「機械オタクよ。こう言うのは嫌いか?」
『画面越しだった事を幸運に思いますよ。あ、これは一旦貴女の家に持って帰りますね。』
「落とすなよ。」
ドローンが飛び去るのを見届けると、我は翼を広げ、洞窟とやらに向かった。
ーー エインツィア ーー
イシュエルが戻るまでの間、私はここの本をひたすら読み漁っていた。
『飲み込みが早いな相棒。普通の奴は、普通のスキルとまるでシステムが違うって混乱するんだぜ?』
「普通のスキルと無縁だったからね。私。」
古代文字にはあまり自信は無いが、シェティの貸してくれた辞書を使えば簡単に読むことが出来た。
低位スキルが666種、中位スキルが302種、上位スキルが169種、そして極位スキルが33種…一つの属性としては桁外れに多い。ただしどうやら他の属性との合成は不可能らしい。
ん…?極位技…?
「これは一体…あとこれも…これもこれも…全部見た事ない…」
マイラは部屋の中の魔道具に興味津々だ。
「よく見ると綺麗な場所だなぁ…」
シェティはずっと部屋の中を見て回っている。
『こいつは…図書室を丸々洞窟ん中に埋めたんだな。』
“ガタリ…”
図書室のドアが開き、そっとイシュエルが入ってくる。
「ほう…ここが図書室とやらか。…少し埃臭いな。」
「お帰りイシュエr…ぬあ!」
イシュエルは…全身が返り血で染まっていた
本人の様子を見るに、自身は怪我は負っていない様だった。
「ん?どうしたのエインツi…」
「まま…マイラ!そっちのテーブルにも面白そうな物があるよ!」
「あ!本当!」
よし…これでひとまず…
「どうかしm…」
「ええっと、シェティはあっちの部屋を調べて来て欲しいな!」
「あ、あそこに扉があったんですね!」
シェティは小走りで奥の部屋に向かって行った。
「さてとイシュエル。」
「どうかしたか?」
「どうかしたかって言うか…どうしたの…それ…」
「ああ、済まない…少し人を斬った。」
「…そっか。あ、本は手に入った?」
「今は我の家にあるだろう。図書室は無事だったか?」
「うん。誰も入ってきては居なかったよ。」
「それは良かった。では我も一度戻るとしよう。彼女らを怖がらせてはいけないからな。」
イシュエルは軽く会釈をすると、羽を軽く動かしながら部屋から出て行く。
「え…エインツィアさん!」
「?」
少し動転した様子のシェティに呼ばれる。
確かもう一つの部屋を調べていた筈。
「どうしたの?シェティ。」
「これ…この部屋…」
私はシェティの元に駆け寄る。
シェティは、戸惑いながらも興奮した様子で扉の前に立っていた。
「ここだね。」
私はゆっくりとドアを開ける。
その先には、巨大な円形の広場で、6本の柱が周囲を囲んでいた。
「…闘技場?」
『アビリティトレーニングルームだ。闇属性専用…今となっては、お前の為だけのな。』
「え?それってつまり…私が…」
『ある程度のスキルを習得すれば、心身共に負荷の掛かる真崩が無くともある程度までは行けるんだが…』
「だが?」
『ちいときついぜ。こりゃ。どうやら悪魔用の闘技場らしい…』
「それって、やっぱり私じゃ使えないの?」
ディゼイは少し何かを考える。
『相棒、どんなに辛くてもやりきる自身あるか?』
「うん。」
『へへ。そのちょっと抜けてる感じ、好きだぜ。』
ーー シェティ ーー
『って事だシェティ。お前一番暇だろ。ちっと3日くれえ天来の対処しててくんねえか。』
「え?…私が…ですか…?」
『おうよ。なんかあったらジズーチって奴を頼れ。あいつもなかなかの暇人だからよ。あ、寝泊まりは此処かイシュエルの家でな。人目には出るなよ。んじゃな。』
そう言い残すと、マスt…エインツィアさんと使い魔は扉の向こうに消えていった。
『誰が使い魔だ!』
壁の向こうから怒号が響く。
って、え?今声に出した覚えは…
「あれ?魔女さん、そう言えばエインツィアは?」
「向こうのお部屋でしばらく修行するって、3日くらい…」
「ええ!?“ちと残ってしばらく炊事しててくれ”って、そう言うことだったの!?」
マイラさんは今までに無い速さで部屋から出て行く。
「ちょ…ちょっと買い出しに行ってくる!エインツィアが頑張るんだったら、私だって奮発しちゃうんだから!待っててね!エインツィア!」
「あ…その…いってらっしゃい。」
その言葉が届いたかどうかは分からないけれど、私は獣人のお姉さんを見送る。
天来と闇魔法については、あの日の夜、不安で眠れない私の横でエインツィアさんが沢山お話をしてくれた。
エインツィアさんの、どこか儚げだけれど、どこか優しくて綺麗な声。私はその声が好きになった。
「………」
ふと、ぼうっと彼女の事を思ってしまう。
私は恋をしてしまったのだろか…私が異性に興味が無かったのは、もしかしたら私が…
「…ふふふ…」
素敵…
◇
“ヒュウウウウウウウ……”
「ジズーチさん、此処に天門が来るんですか?」
少し離れた場所から集落を眺める。
草原の真ん中の村。放牧された牛や、灯の灯ったテント。
様子に関して言えば、夜闇の世界に浮かぶ穏やかな場所でしか無かった。
『うちの輝探知センサーが間違っていなければ、数秒後に出ま…したね。」
次の瞬間、集落の上空に何か板の様な物が現れ、そこからさらに翼の生えた人間の様な物が降りてくる。あれが天使だろうか…
魔法陣から愛用の杖を取り出し、エインツィアさんから貰った新しい力を試してみる。
「ええっと、【アイススパイク】!」
杖の先から氷の棘が放たれる。
けれど、天使を光の障壁に阻まれて効果は無かった。
「なんだ?あの人間は。大人しく術式に抱かれれば良いものを…」
方法が違うのかもしれない…
杖の先を親指でトントンと叩きながら、何が違うのかを考えてみる。
『ふっふっふ…あの子の出番ですかね!』
私の傍を飛ぶ機械(ドローンとか言う筈…)から、ジズーチさんの楽しそうな声が聞こえる。
それとほぼ同時に、天使達が攻撃を始めた。
「死ね!愚かしく醜い人間よ!」
天使の持つ剣から、光の光線が放たれる。
ふうん…もしかしたら呪文の名前が変わっているのかも。
”ギュルルルルルルルン!“
天使の光線がこちらに当たる瞬間、何かが擦れる音と共に私の上に影が出来た。
わあ。強そうな騎士様。
『ふふふ、これぞうちの化身!うちの最高傑作!【インカネイション・ダイナー】!』
真っ黒な鋼の体、私の2倍はあるサイズ、2メートル近くある劔と盾。
真っ赤に光る目が、夜の世界に映えていた。
「なんだ…あの機構の装甲…」
「まさか、闇魔力か!」
“ギュイイイイイン!”
動揺する天使達に向かって、その機械は突入していく。
『時間は稼ぎます。その間に、力にゆっくり慣れて下さい。』