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闇を求めた魔女

「ディゼイって、いつの間に私以外の人の所に行けるようになったの?」


『俺様にだって学習能力くらいはあるさ。お前から拝借した魔力を使えば、1時間くらいなら声を飛ばせるらしいぜ。』


いつかの雪山の中腹に、小さめの小屋がポツンとそびえていた。

私はその古びた木製のドアを開ける。


「よく来たな。我が主よ。」


そこには、暖炉の前の揺り椅子でくつろぐイシュエルと、戸惑った様子でソファに腰掛ける…


「シェティ!?」


「はい…どうも…はは…」


シェティが立ち上がった瞬間、私は思わずシェティに抱きついた。


「良かった…シェティ…」


「………」


その横で、ディゼイとイシュエルが何やら話していた。


『お前、ヴァルハラにいた割には随分と機転が利くじゃねえか。まさか自分を悪魔に、シェティを悪魔との契約者に仕立て上げるなんてな。』


「ふ…咄嗟に思いついただけだ。それより、あの魔女、お前としてはどう見る?」


『…かなりのレアケースだな…ありゃ。片燐でも闇魔力の再現が出来たってこたは…まさかまだ残ってあんのか?』


すると、私の腕の中から苦しそうな声がした。


「あの…そろそろのぼせてきました…」


「あ、ごめん。」


私はシェティを慌てて放す。

ほのかに赤みがかったシェティがふらふらとソファに倒れこんだ。


「ふう…あの、私こわーい罪人ですよ?どうしてそんな…」


「もうそんな事言わないで。死ぬ事だけが償いじゃ無いから。」



イシュエルが4人分の鹿肉のスープを持ってきて、それぞれ机に着く。


『さて…そろそろ話してくれねえか?お前がどんなんでも、今更何も言わねえからよ。』


「………」


シェティは、少しの間もじもじした様子でいたけれど、ゆっくりと話し始めた。



ーー シェティの罪 ーー


「おーい、シェティー!置いてくぞー!」


「今行きます!ハインツ様!」


私は、かつては4人パーティの冒険者でした。回復魔法担当の私と、タンクのクレト様、魔法使いのアイリム様に、アタッカーのハインツ様。

私とハインツ様は、裕福な貴族の元に生まれた兄妹、アイリム様はハインツ様の許嫁、クレト様はギルドが派遣した私達の教官でした。


「今だよ!ハインツ!」


「援護ありがとうございます!はああ!」


元より、アイリム様とハインツ様の親睦を深めるために結成された一時的なパーティでした。アイリム様の20の誕生日の日には解散して、私達は冒険者を辞め、各々の生活に戻る予定でした。


…予定でした…


「ぐふ!」


「は…ハインツ!」


ある日の、クエストに出かけるために街で買い出しをしていた時の事でした。


「ダロ家よ…富の山で醜く肥え太ったブダ共よ!これが、貴様等の栄華の影で死に絶えていった者たちの意思だ!」


民主過激派の一団に襲撃され、その時にハインツ様は…お兄様は、魔法の傷を負ってしまったのです。


「ハインツに…何するの!」


アイリム様はすぐさま無数の雷魔法でその一団を焼き払いましたが、過激派の魔道士は死に際にこう呟きました。


「ふふふ…悶え苦しみしぬがいい…醜いブタめ…」


私は徐々に、その言葉の意味を理解し始めました。

ハインツ様の胸に受けた傷は徐々に広がり、変色して行ったのです。紛れもなく、それは呪いでした。


「ふ…済まないな…僕が不甲斐ないばかりに…」


「必ず、治して見せますから!」


アイリム様や国のみなには黙っていてくれと頼まれたので、私は一人で治療法を探し始めました。

ハインツ様は休養という事で、私達は3人でクエストに赴く様になりました。

私はその道中で様々な医学書や魔道書を読み漁り、なんとかハインツ様に掛けられた呪いの種類を特定する事は出来ました。


「“呪詛の歌”…」


対象、又は対象の親族に対する怨念が強く多ければそれだけ、より強力に、より遅効性になっていく上位呪文でした。

解除方法は、向けられた恨み全てを解消する事…しかし、呪いを掛けた張本人すらすでに倒されてしまい、実質解除不可能でした。


「…そうか…ならそれで良いんだ。我が家の名前がそれだけ汚れていたという事だけさ…」


「いいえ!私は諦めません!必ず何とかして見せますから!」


その頃ほどから、私はおかしくなり始めました。

だんだんと秘術書や禁術書にも手を出し始め、その時点で既に法を侵していました。


そんな中、それを見つけてしまったんです。


「…?」


とある洞窟に隠し通路を見つけたんです。

見た事の無い扉と封印が施されていましたが、それは軽く蹴破れるレベルにまで弱っていたんです。


「…ひ!」


そこは、図書館がそっくりそのまま埋蔵されたかの様な場所でした。

窓からは岩肌だけが見え、蝋燭の消えたシャンデリアが数本ぶら下がっていて、部屋の中には無数の書架が鎮座していました。

思ったほど広い場所ではありませんでしたが、私の好奇心が私をここに引き止めました。


「第4級闇魔法についての参考書…生贄と魔神の応用知識…ブラックマナ大全…」


“闇魔法”…私はかつて、御伽噺の一種だと思っていました。しかし背表紙に古代文字で刻まれた題名が、闇魔法が現実にあるものだと私に知らしめていました。


「エドニック式基本闇魔法…」


私は、その古びた魔道書を持ち出しました。

…クエストの合間に、夜寝る前に、誰にも見つからない様に、その謎めいた本を辞書片手に読み進めました。そこに、闇魔法はほかの全ての魔法を打ち消す事ができるとあったのです。


私は愚かでした。闇魔法を、私の知っているほかの魔法と同じ様なものだと思っていたのです。


「”表紙のジェムが赤い場合、この本には[グラムシフター]一回分の闇魔力が内蔵されています。丑の刻に後述の魔法陣の上に、56〜57ページを参照にすることで[グラムシフター]を起動できます。“」


[グラムシフター]…私は最初、それが闇魔力を人に移す物だと思ってしまいました。

いわゆる…誤訳です。興奮のあまり、私はそのページをろくに見ずに儀式を始めてしまいました。


[グラムシフター]の対象に宿る一切の魔力が消失します。


その文字を見つけてしまったのがいけなかったんでしょうか…


私はすぐに儀式の準備をして、ハインツ様の部屋に飛び込みました。

ハインツ様は自室のベッドで眠っていましたが、私はそれが衰弱による物だとすぐに分かりました。

ハインツ様の胸に、そっと1枚目の魔法陣を書き写した紙を置きました。

そして私は、人目につかない遠く離れた場所で、2枚目の巨大な魔法陣を展開しました。


“キイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!”


とてつもない高音が響き、魔法陣から赤い光が放たれました。

その時は成功だと思ってしまったのです。…お屋敷に戻るまでは…


『グオオオオオオオオオオオオ!!!!』


お屋敷は完全に崩壊し、真っ黒な化け物が街を暴れまわっていました。

黒い、ライオンの様な化け物でした。

化け物の胸には、さっき私が書き写した魔法陣がきらびやかな赤い光を放っていました。


私は…泣きながら魔道書を開きました。

[グラムシフター]は…人に魔力を移す物ではありません…小動物などに魔力を投入して、眷属として使役するものだったのです。

本にはちゃんと書いてありました。”中級以上の知能を持つ者には使用しない事。制御ができません。“…と。


「クソ…なんなんだあれは…」


「落ち着け!今はあれを倒す事だけを考えろ!」


王国騎士団が続々と集まっていますが、ハインツ様は…私によって歪められたハインツ様は…止まりませんでした…


「ぐあああああ!」


「ダメだ…あれは魔法生物だ!」


ハインツ様は…化け物は一晩中暴れまわり、大事を聞きつけて駆けつけた魔道士によって、町外れの牢獄後にやっとの思いで転送する事で、事態は一時的に収束しました。


後は…直ぐに私の仕業だと特定され…と言うか自供して、投獄され、無許可でのキメラ生成罪、大量殺人罪で死罪になりました。


そして、最期の日、一つだけ要求が叶う日が訪れ、私はそこで、酒場での昼食を選び…エインツィアさんに出会いました。

後は…知っての通りです。
























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