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白鯨と堕天使

石レンガの城壁で囲われたそこは、私には集落と言うよりは要塞に見えた。

そんな中、私の連れてきた三人の持つ魔石…ライセンスが反応して、その城壁に石門が現れる。


“ギシギシギシ…”


石門はゆっくりと開く。

かなり入りにくい雰囲気だが、背に腹は変えられない。

私が足を踏み入れるが、その向こうにはすでに人だかりが出来ていた。


「誰だお前…な…!君達は…!」


私は抱えていた二人をゆっくりと下ろした。

筋肉痛予約入ったかも。


「ジェット!ロード!それにアデル!生きてたのか!」


再開の様子を見届けると、私はそっと城門を出ようとした。

あ、門が消えてる。…そうか此処のライセンスが無いと。

同時にアデルさんの声も聞こえる。


「僕らは彼女に救われたんだ。」


「…残りの連中は?」


「助け出されたのは…僕たちだけ…でも、あの子は全力だったよ。」


その時だった。

不意に上空から二本の斬撃が飛来して来た。


『あぶ、ねえなぁ!』


ディゼイが瞬時に双剣に姿を変えて斬撃を受け止めた。

“真崩疾風”…【神速】と【二刀流】のスキルが付与される変真。多分だがこれで2回目だ。

斬撃の主と思われる二人の剣士が、私の目の前に降り立つ。


「侵入者を許したのは何処のどいつだ。」


東洋風、いつかの真崩刀巫の様な服装の女剣士と、身の丈に合っているか心配になる程大きな刀を抱えた気の弱そうな少女だ。こちらは、赤よりの色合いの和服姿だ。


「ディゼイ…」


『あのチビの方の斬撃の方が重かったが…初見じゃなんともだな。』


脇でアデルさんが止めに入ろうとするが、周りに止められた様だった。

介入は危険だと言う事か。


「大人しく捕まるか、此処で死ぬかだ。選べ。」


どうやら気の弱そうな方は恥ずかしがり屋らしい。

気の強そうな方にコソコソと隠れている。


『んなのは…』


「…分かった。捕まる。」


刀を納めて、変真も解く。

二人は少し戸惑っている様だが、周囲は安心している。


『おい、どうして…』


「私の敵は、少なくともあの人達じゃない。」


すぐに守衛らしき人物に取り囲まれて、牢獄らしき場所に連れて行かれる。

何があったのか知らないがかなり面倒な集落らしい。



「………」


ぼろっちいワンピースに手枷足枷。

ご丁寧にスキルの封印魔法までかけられた。


『なあ、これからどーすんだよ。せっかくの俺様の自信作(セーラー服)もとられちまったじゃねえか。』


「心配要らない。こう言うのは流れに身を任せるのが一番だから。」


『本当か?奴さん、お前に照準合わせてるぞ。』


「どう言う事?」


『此処より二キロ先、左方向に絶対天門予備軍反応なんだよなぁ。』


「それ早く言ってよ!」


『それどころじゃねえ。さっきの山から光魔力が降りてくる……いや、これは心配要らないな。』



ーー イシュエル ーー


大きな石の壁。

確か、人間のことわざにこういう時の対処法があった筈だ。


「石壁を叩いて渡る…だっただろうか。」


掌底で、その石壁に進路を築いた。

防護魔法がかかっていたらしいが、我の前では薄皮にも満たなかったぞ。


「なんだ!」


「突然外壁に穴が!」


今思えば、クジラで上から入った方が良かったかもしれない。

土埃の付いてしまった左手を軽く振った。しかし…


「歓迎会か?随分と武装しているな。」


我の後ろの外壁の穴から、冷たい風が吹く。


「あのフードの女を捕らえろ!今度は本物の侵入者だ!」


侵入者か…確かこの集落の名前はエソイ。

かなり優れた造武技術のあり、狩猟採集が主な産業だ。

…一度、我も此処に来た事がある。タイラントキャンサーの襲撃としてだが。


「翼…?気をつけろ、あの女、人外だ。」


加護無き今、【天霊魔法】は使えない。

エインツィアから授かった【白蛇刻印】はまだ使った事がない。

此処は自前のスキルで行くしかなかろう。いや、自前というのは少し違うか。


“シイン…”


長剣を抜くと、その剣の刃は解ける様に四本の銀線に分かれる。

糸剣クリックヘイローと【切断属性倍加】、我の今の力だ。


「…!」


突然、何も食べていない筈なのに甘い味がした。

後ろから二人の人間が襲って来たため、糸の剣を一振りする。

刹那遅れて糸の刃が二人の持っている銅の剣に巻きつき、羊羹でも切る感覚で相手の武器は鉄くずに変わった。

威力にかけるクリックヘイローに我のスキルが見事に噛み合っている。



ーー 再びエインツィア ーー


「…なんの騒ぎ?」


『明らかに看守の数が減ったが、ちょっと様子見に行こうぜ?』


「どうやっt…」


ディゼイは姿を変えて、一本の刀になり手枷足枷を断ち切る。

そうだ、これはディゼイのスキルだ。


『オラァ!』


鉄格子も横に一刀両断し、私のための道が出来る。

セーラー服は近くのテーブルに畳んで置いてあるのを取り返し、外套はその椅子に掛けられていたので、それも一緒に羽織る。


「やっぱりこの格好の方が落ち着くね。」


『言ってる場合か、行くぞ。』


湿った石階段を登り、牢獄の外に出る。

忙しなく走る兵士たち。その先には、灰色の翼を背に銀光と共に戦禍に舞う女神…じゃなくて、イシュエルの姿。


「イシュエル!?」


「エインツィア…どうして此処にいる?」


「取り敢えず武器を納めて!」


イシュエルはその言葉に呼応すると、兵士を足払いで遠ざけた後にその糸の様な剣を鞘に収める。

そして、翼を数度羽ばたかせ、若干飛翔しながらこちらに来た。


「甘い。再開が近いとこんな感覚だとはな。」


「なんの話?」


「いや、こっちの話だ。それよりなんだこの無礼な連中は。」


再び兵士に取り囲まれようとした時に、ジェットさんが兵士の前に立ち塞がった。


「止めろお前たち。どうせ勝てる相手でも無いだろう。」


「団長?しかし…」


「首都の連中が人命救助をすると思うか?彼女はただの善良な冒険者だ。そこの有翼のお嬢さんも、こんだけの数に囲まれても一人も殺してないだろ。」


兵士たちは少しの間戸惑うが、気まずそうに武器を納めて行った。


「済まないな。今はちょうど首都の連中とピリピリしててな。」



招かれた先、ここは市役所の客間だろうか…


「済まないな。私は最初から疑っていたが、こいつの早とちりで。」


振袖の女剣士が、気の弱そうな少女の頭をくしゃくしゃと撫でる。

その目はなんだか不満そうだ。

本当は自分のくせに…とでも言いたげだが、その時初めてその子の容姿が観察できた。

あどけなさの残る顔に、若干緋色の動きやすそうな和服。首元まで伸びた艶のある黒髪を、金色の髪留めでギリギリまとめていた。


『ああんと、こいつはどっちかっつったら姫君の格好だが。』


「そうなの?」


不思議でじっと見ていると、その子の顔が次第に紅く染まり、大きな刀でその可愛い顔を隠してしまった。

かなりシャイなな性格らしい。


「全く、こいつは本当に仕方のない奴だ。」


振袖の女剣士が少女の背を押した。

ビクビクしながら少女は前に歩み出て来る。


「…スギマ…ハス…です…」


「私はシラカ。シラカ リンだ。まあ見ての通り五行国出身で、今は雇われ傭兵だ。」


シカラさんと、ハスちゃんで良いかな。


「まあ、ハスもこんなんだが…」


シカラさんは、机の上のリンゴを宙に放り投げる。

数本の閃光が見えたかと思うと、そのリンゴは切り分けられた状態でお皿に着地した。


「実際【剣術強化】で、私より強いかもしれないぐらいだからな。」


ハスちゃんが刀の刃をポンポンで磨いているのを眺めながら、私達は実に見事なうさぎリンゴを一つ食べた。

普通に包丁を使っても、こんな毛並まで再現は難しいと思う。


「で、あんたは何者だ?そう言えば、まだ名前も聞いてなかったね。」


「私は、エインツィアで…そこで眠っているのがイシュエル。」


イシュエルは、翼で自分を包む様にして眠る。

一体どうしてこんな所で…

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