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堕天霊

『ほう…ちょっとは根性ある奴じゃねえか。』


突然、ディゼイがそんな事を口走った。


「ディゼイ、どういう事?」


『恐らくだが、あいつは人間に情を写した反逆者だ。タロスを使って迎撃しようとしていたんだろう。あ。おい、良い事思いついたぞ。』


ディゼイは舌を出す仕草をする。

私は、灰になり消えかけている天使の唇を奪った。

フードがとれて、長い金髪と青い瞳が見える。雌型だ。


「!?」


今度は私が自分の舌に傷を付けて、天使の口の中に押し込んだ。

これで、結社の一員ではなくとも私の魔力で一時的に生存できる。

とは言え、この状態も長くは持たない。


「ふぐぐぐぐ!(何をする!)」


『おい、お前堕天使だろ。』


「ふぐぐ?(何故それを?)」


『取り敢えず俺の指示に従え。結社に入るのを条件にお前は生存する。』


「むぐぐぐぐ!ふぐぐぐぐ!(断る!例え堕落して言おうとも、我は天使だ!)」


そんな、キスしたまま喋られては…

痛!噛まれた!


『おい、お前はどうして神に背いたんだ?』


「…………」


『賭けに負けたからか?酒の勢いか?違う、あいつと意見が合わなかったからだろ?』


「ふぐ…(しかし…)」


『こんな陰険な事でしか伝えれなかったのも、お前の立場のせいだろ?黙ってエインツィアに身を委ねろ。後悔はさせねえさ。』


天使の抵抗が止んだのと、2回目だったのもあって、伝授は随分と簡単に行った。

天使の血の味…私は多分人類で唯一その味を知る人になった。


「………」


「綺麗だね。てんs…元天使さん。」


「な…別に、これは一時的なものだ。我の目的が果たされれば、予定通り魂の輪廻に帰らせて貰おう。」


「わかった。じゃあ、それまではよろしくね。私はエインツィア。貴女は?」


「…イシュエル。それだけ。」


埃色に染まった自分の羽を弄りながら、イシュエルはそう呟いた。

イシュエルは不機嫌そうではあったけど、同時に楽しそうでもあった。


『おい、そこの天使お前とキャラ被ってるぞ?どうすんだよ。」


「そんなのは知らない。仲間が増えるのは良い事。」


そこで私はハッと気づいて後ろを振り向く。


「は…あ…」


案の定、ジズーチはカッチンコッチンになっていた。


『あーあ。この状態になったら、次の行動は二つだ。覚醒か逃避だ。』


ジズーチは顔を真っ赤にしながら、フラフラと倒れた。


『覚醒だな。おい、イシュエル、こいつの足持て。エインツィアは頭を持つ。』


さっきまで敵だった天使を、ものの五分で鼻で使い出すディゼイに感服する。

この子は気絶が好きなのかな?


「お、そろそろあのデカパイ姉ちゃん起きるな。早く帰るぞ。」



「うーん…おはようエインツィ…あ?」


マイラは部屋に居る人数を数える。


「一人増えた?」


イシュエルは前に出ると、マイラに向かってぺこりと頭を下げた。


「初めまして。天使改め、真崩第六の眷属。白蛇(ヴァイパー)イシュエル。この度真崩少女の従僕になった。どうぞお見知り置きを。」


赤い目玉の様な模様の付いた黒色のフード越しに、絵画のモデルの様な美しい顔が覗いていた。

金髪は毛先が僅かに灰色がかり、その服の背中の部分は小刀で切り開かれ、そこから灰色の翼が広げられている。

もう天界の制服は必要ないだろうって言う、ディゼイの提案だった。


「よ…よろしくお願いします…?」


「…すまない…。人間の事はあまり詳しくない。怒らせるかも。」


「そんな事無いよ。私だって、人付き合いは苦手な方だよ?」


そう語るマイラの目には、一抹の戸惑いの様な物が見えた気がした。

…確かにマイラの心は美しい。だけど、だからこそ、災害を起こす天使とは一線を置きたい気持ちなのかもしれない。

マイラに相談も無く、勝手に天使を引き入れたのは間違いだったのかも。


「すみませんマイ…」


次の瞬間、そんな私の不安は一瞬で吹き飛んだ。


「ねえエインツィア…天使さんってどんな物食べるのかな?」


「くふっ…」


マイラの真っ先の心配事に、思わず吹き出してしまう。

ああそうか。単純なマイラがそんな事考える訳ないか。次には直接聞くし。


「ねえ、貴女って、何食べるの?」


「…今となっては人間と同じ。」


「よし!」


マイラさんはすぐに厨房に走っていく。

私はふと気になったことを思い出した。


「…イシュエル。一体何があったの?」


「天使は教官様から色々な事を教わる。人とは何なのか、心の醜い原始的な化け物だと教わった。少なくとも我は、人間がそう見えなかった。それだけだ。まあ、今の我はお前の物だ。力も、心も。」


突然、イシュエルがグッと近づき耳元で囁く。


「肉体も。」


「…!?」


直ぐに離れて立ち上がる。


「我は少し出かけてくるぞ。人間の街を壊さずに見てきたい。」


私はイシュエルの呼気で僅かに温まった耳をさする。


『あいつ、お前に好意有りだな。不器用だが立派な求愛じゃねえか。』


「きゅ…求愛?」


『いやこっちの話だ何でもない。それよりあっちはどうするんだ?』


ジズーチは部屋の脇でずっとぼーっとしている。

ぶつぶつ何かを言っているが聞き取れない。


「ねえジ…」


「うわあああああああ!な…何ですか!?」


「ごめん。」


しばらくはそっとしておいた方が良さそうだ。



「人の食物は不味いと聞いた。お前は人では無いな?」


「うーん…獣人だから、人間の亜種に当たるけど…どうだろう?エインツィア。」


「私に聞かないでよ。」


表現方法はともかく、イシュエルもマイラの料理を気に入ったみたいだ。

マイラは明日王都に帰り、イシュエルはこれからしばらく身を隠すらしい。


「これは何だ?」


とイシュエルが聞けば。


「ローストビーフ。牛のお肉だよ。」


とマイラが答える。そんな他愛も無いやりとりの時間が何となく貴重に感じられた。


「そうそうエインツィア。」


「何?マイラ。」


その瞬間に、魔法石で出来た鍵を手渡された。

すごく複雑な形をしている。


「クエストでちょっと儲けちゃってさ、偶然売り家を見つけた物だから…お節介かも知れないけど…」


「え?」


「ギルドから道を二本超えたところに買っといたんだ。家。」


「ええ!?」


マイラは昔からそういう奴だった。

理解していると思った筈なのに…


「な…泣いてる?なんかごめんね、私が物置にでも…」


「ありがとう…本当に。」


…大好きだよ…マイラ。














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