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鉄器の中の少女

「ふぇ…」


「ねえ君…大丈夫?あのロボに捕まってたの?」


上半身は包帯で覆われていて、腰には赤いコートをロングスカートの様に巻いている。

11歳半くらいだろうか。眼鏡をしているが、割れてしまっている様だ。


「うう…せっかくの働き口が…また仕事探さないと…借金が…」


「仕事?借金?まあ、此処にいても危険だし…」


と、不意にマイラが後ろから現れ、その子にデコピンを食らわせた。


「うい!」


少女は気を失い、それをマイラが抱える。


「ねえ、未確認モンスター捕獲したって、この子渡すのは…」


「駄目。」


「はあ…だよね。でも、この残骸丸ごと運べないし…座標だけ記録しとこ。」



「うう…」


「あ、エインツィア!この子起きた見たいだよ!」


マイラに呼ばれて、私はリビングへ。


「ほんとだ。起きてる。」


マイラは直ぐに、キッチンに向かう。


「うう…誘拐ですか…良いですよもう、生きてても仕方ないですし。身代金は期待しないで下さいね!」


肌は白く、髪は解かしきれていない灰色。

抵抗なんて諦めた様で、妙に堂々としていた。

参ったな。取り敢えず声をかけてみる。


「落ち着いて、私は誘拐犯なんかじゃないよ。ただ、君の事が知りたくて…」


「口説くつもりですか?言っておきますけどウチはノンケです。そこのお姉さんみたいには行きませんよ。」


「な…違うよ…まず、なんであの中にいたの?」


「それは…仕事の紹介ですよ。あれを修理して、上手く動く様になったら報酬が出るって。」


「…誰が?」


「知らないですよ。ただ、白い翼が生えてたので人間では無いかと。」


私はディゼイと顔を見合わせる。

どこから突っ込む?この子の技術力がどう考えても子の時代から逸脱してる事か、雇い主が恐らく天使だって事か。


「ああ、回収は明日だってのに…金貨10枚なんてもうこの先返せる気がしないよ…」


本当に謎の多い少女。


「ねえ、君ってさ、どこに住んでるの?」


「タロスの中だったんだけど、貴方達に壊されたのでホームレスです。」


「…ごめんなさい。」


すると、マイラがパンとシチューを持って部屋に入ってくる。


「はいこれ。貴方半日気絶してたから、お腹空いてるかなって。」


「あ…ありがとうございます…」


少女は戸惑いながら、辿々しく食事を始める。


「毒は…無しか。」


「そんな物騒な。」


よく見ると、少女は年の割に手足が細い。

体が弱いのか、筋肉も随分と少なかった。


「ねえ、君ってさ、なんて名前なの?」


「ジズーチ。ジズーチ=アンデウ。しがない機械オタクです。」


なんとなく、ジズーチが心を開いてくれた気がした。


『おいジズーチ。お前は一体どうやってあのロボットを動かしていたんだ?とても素人のメンテナンスじゃなかったが。』


「ただ、機械が好きなだけです。両親も居なかったので、前までは遺跡に住んでたんで、そこら辺の部品をいじってたらいつの間にか覚えました。」


『…ああ、そういう事か。』


「はあ…しかし、取引先の方が明日タロスを取りに来る予定なんです。失敗したら殺すみたいな事言ってたので、なんだか不安です。」


「ねえ、私も付いてって良い?一緒に謝りたいから。」


「そもそも失敗した理由は貴女達です。当然、ウチを守る義務があると思いますが。」


「………」


良い子なんだけど、何処と無く捻くれてるる。

何だか、ちょっと昔の私を見ている気分だった。


「ねえ、此処に泊まってかない?」


前後の話を全く聞かずに現れたマイラが、そんな事を言い出す。

私は一瞬戸惑ったけど、ジズーチは即答する。


「ではソファで寝かせて下さい。何だかこの人と眠るのは大分不安です。」


「う…うん。良いよ。」


前言撤回。

全く心を開いてくれていなかった。



「おはようございます。」


「うわ!お…おはよう…」


私が目を覚ますと、ベッドの傍には正座で座っているジズーチがいた。


「ねえ、何時に起きたの?」


「四時です。ちなみに現在時刻は四時十五分です。約束の時間まであと十五分しか有りません。直ぐに出発します。」


「ええ…?でも…マイラは…?」


「置き手紙をしておきました。貴女もお強いらしいので。」


隣で寝息をたてるマイラを見る。

事が終われば直ぐに戻ってきて、仮病でも使おうか。


「早く行きましょう。」


「ねえディゼイ。出かけるけどさ、服を変えてよ。」


『…ああん?俺は今仮病で寝てるんだよ…仕事なら到着してから言えよ…パジャマでも行けるだろ…?』


特に何の変化も無く、ディゼイの声は消える。

あのサボリ魔め。


「え…?馬車…?」


「ウチが手配しておきました。お金は後払いです。」


私とジズーチがその馬車に乗り込むと、白毛の老人はゆっくりと手綱を引く。

馬車は古びた木の擦れる音を立てながら動き出す。


「あ…それ、もしかして寝巻きですか?ごめんなさい。よく見てなくて。」


「はあ…どうせ私の相棒が働いてくれないから、この格好は変わらないよ。それに、いつまでもあそこに住める訳でも無いから、仕立て屋さんには行けないし。ジズーチこそ、どうしてそんな格好なの?」


「ウチは…そうですね、滅多に他の人と会わないからですかね。」


最初、包帯が巻かれているから細く見えるのかと思ったけれど、何も身につけていない足も大して変わらない事に気付いた。

ジズーチは少女というより、幼女の様な危うさが見受けられる。


「何ですか?そんなにジロジロ見て。」


「いや、ちょっと細いなって。」


「…………」


すると、ジズーチは腰に巻いているコートのポケットから、茶色いブロックを取り出す。


「ウチのスキルは【土魔法レーション錬成】です。土とか岩とか砂とかを…」


ジズーチはその長方形のブロックを食べ始めた。

ぽりぽりとスナック菓子を噛み砕く様な音が、馬車の中に響いた。


「もぐもぐ…こんな風に携帯食料に変えられるんです。栄養はあるんですが、本当にお腹が空いた時にしか使わないので…ごくん。」


「つまり、君はずっとそれだけを食べて生きていたの?」


「水はサボテンから出てきますし。それだけで十分です。」


そうこうしている内に、馬車がガタリと動きを止める。


「着いたよ。代金は往復で鉄貨8枚。後払いで良いんだね?」


「はい。でも明け方までにウチと連れが帰ってこなかった先に行って良いですよ。砂漠の日の出は暑いですし。」


私とジズーチは馬車から降りると、あのタロスと戦った場所に向かって行った。

そう言えば、今私は裸足だった…後悔は先に立たないらしいので、その氷の様に冷えた砂を踏み抜いて進んでいった。


「あ、あの人です。」


黒いローブに身を包み、対照的に真っ白な天使の羽が目立つ人影が見えた。

タロスの残骸に腰掛け、イライラした様子だ。


「おい、これはどういう事だ?」


「すみません。失敗しました。始めは上手くやろうと思ったんですが、どうも気が乗らなくて。」


「失敗すればどうなるか言っただろ?」


黒ローブの天使は、指を天に向ける。

その瞬間、天使の指先から光気が天に抜けて行った。


「我が死ぬと言っただろ。天使としての我がな。」

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