白いシャツ
「死にたいな…。」
これが私の口癖。別に本当に死にたいとは思っていない。だけど、生きていたいとも思わない。そんなことを考えながら、いつもと変わらない帰り道を下を向いて歩いていた。
ドンッ。
誰かとぶつかって倒れた。最悪だ。
「ご、ごめんなさい。」
人と会話することが苦手な私は俯いたまま言った。
「大丈夫?怪我はない?」
そう言って手を差し伸べてきた。私は自然とその手に自分の手を重ねた。
「ありがとうございます。」
相手の手を借りて立ち上がると、目があった。白いシャツを着た男の人だった。
「本当にごめんね。そこの自販機でよかったらお詫びになにか奢るよ。」
「え、いや、そんなの悪いですよ!!」
口では断ったが、この人と話してみたかった。初対面なのに。だから私は
「私が下を向いていたのが悪いんで…その、私も奢ります。」
すると相手は
「さすがに年下に奢ってもらうことはできないよ。それに、俺はもう買っちゃったし。」
そう言って缶コーヒーを見せつけながら、クールに笑った。真夏の昼間、さっきまで騒がしいくらい鳴いていた蝉も鳴き止み、この世界には私たちしかいない気分になった。
彼は青黄 泉と言うらしい。20歳になったばかりで、大学には行っていない。
「私は、広見 笑海。15歳の高校1年生。」
近くにあった公園のベンチに腰をかけ、お互い自己紹介をしてから少しだけ世間話をした。初対面なのにとても話しやすかった。青黄さんの話は、とてもキラキラしてていたが、何故だかたまに深い闇が垣間見えた。その話に私は吸い込まれていた。
どのくらいの時間が経っただろう。気がつくと公園は子供たちで溢れていた。
「そろそろ帰らなきゃ。」
私はそういうと立ち上がった。本当はもっと話していたい。まだ一緒にいたい。青黄さんのことをもっと知りたい。こんな感情になるのははじめてだ。だからかもしれない。私は、考えるより先に口に出していた。
「あの、また会えますか?」
青黄さんは
「もちろん。笑海ちゃんが会いたいと思ってくれるなら。」
と答えてくれた。
「もちろんです!8月の20日、もう1回登校日があるから、その日にここで会いたいです!」
青黄さんはまた笑った。今度は優しく。
「待ってるね。」
8月1日。暑い夏の日。意味もなく輝く太陽の下で私は、ひとりの大人に出会った。いつもは体力を奪っていくこの暑さも、今日だけは特別に思えた。