第1話-夢の始まりと現実の終止符-
第1話 -夢の始まりと現実の終止符-
「あっ、望夢おはよー。」
教室に入ると幼なじみである、神岸 光が声をかけてきた。
「…おはよ。」
彼をちらりと見て言うと、彼は
「何だよ、テンション低いなぁ。もっと楽しくいかないとさ!」
「朝からそのテンションも十分おかしいよ。」 血圧低いんだよ俺、とぼやくと彼は笑顔でスルーした。
それよりさ、と彼は意味ありげに瞳を輝かせながら話を切り出した。
「俺さ、この前、蔵が山でサイクリングに行ったんだよ。」
蔵が山はここから5キロくらいのところにある標高800メートルくらいの山だ。彼はそこで廃屋を見つけたという。そこは昔村があったところで、今は既にほとんどの家は取り壊されていたのだが、サイクリングロードからただ一件 不自然に佇む廃屋があったらしい。
そこで気味悪がるくらいならまだいい。しかし彼はそうではない。
「で、行くよな?」
僕は、彼の瞳の奥にある本性を見定めるように彼を見つめるていたが…
「行くよな?」
どうやら本気らしい。
僕は大きくため息を吐くと、小さく頷いで見せると、彼の瞳はさらに輝いて見えた。
じゃあねー、という友人の声とそれをかき消す教室の喧騒を背に廊下に出ると、後ろから光が追い抜き、僕の背中を軽く叩いた。
「おい、早く帰るぞ!」
彼は僕を急かすようにその場で足踏みをしながら待っている。
「ったく…。」遊園地にでも行く小学生じゃないんだから。
わかったよ と、僕が急ぎ足で歩き出すと彼は満面の笑みでまた走り出した。
正直、彼の無邪気さや、行動力には到底ついていけないと思ってる。僕はそれは彼らしさとして認めているし、それが彼の長所だと思っている。
だけど、僕はそれを真似しようとは思わない。
彼の名前の通り、彼は僕の光だ。変な意味じゃなくて、でも彼は僕一人では到底見られない景色を僕に見せてくれる。
だから僕は彼について行く。
きっと彼なら僕の平凡な、いや 退屈な生活に光を差し込ませてくれると信じているから。
そんなことを頭に浮かべていると、いつのまにか家の前に着いていた。
「あれ、お前家ここだよな?」
光が不思議そうな顔で僕を見ている。
「ん、あぁ。」
じゃあ、と言って家に入ろうとすると、まだ光が心配そうに僕を見つめていた。
家のドアが閉まる寸前に彼は我に返ったように叫んだ。
「あぁ!てかしっかり時間通りに来いよ!」
んー、と生返事でドアを閉めた。
靴を脱ぎながらふと思った。
あれ、時間って何のことだ?
すると、見透かしたようなタイミングで外から声が聞こえた。
「四時半に蔵山公園!」
流石、付き合い10年は伊達じゃないな…まぁ、ちょっと彼の洞察力が怖いけど。
ふと時計を見ると、4時20分をまわっていた。家から蔵山公園までは軽く10分はかかる。急いで使い古したリュックに必要そうな物を突っ込み、履いていたジーンズのポケットにスマホを入れ、着ていたTシャツの上に薄手のパーカーを羽織った。
階段を駆け下り、キッチンにいる母に
行ってきまぁすっ と叫び、外に出た。
そろそろ9月も終わりな差し掛かってあるが、まだ居座っている残暑が執拗に僕にまとわりついてくる。
愛用のマウンテンバイクに跨り漕ぎ出すと体に吹き付ける風が心地よかった。
「おまたせぇ!」公園の前で気怠そうにスマホをいじる光に声を掛けた。
「ん?お前か…。てか遅えし。」
「あぁ、悪い、悪い。」
行くぞ と彼はスマホをしまい、最近新調した真新しいクロスバイクを漕ぎ出した。
この辺の田舎では、使い道が無い不憫なお年玉達が嫌味な程貯まっていく。
結局、そのお年玉達はこんな田舎でも使うに遜色ない、自転車とかにいってしまう。ゲームを買ってもいいが、一緒にやる相手もいないし、新しいソフトを買える電気屋すら無い。このスマホだって普及するのに苦労したものだ。
「あぁ!都会に行きてぇなぁ!」
叫ぶと光が、だよねー と肯定してくれた。