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3、芽生え

 


 香りに誘われて、ボクの意識は遠い記憶へと吸い込まれていった。


 そう、あれは一年半ほど前の事だった。

 中学二年の夏休み。ボクは彼女の部屋にいた。白を基調としていながら、各所にピンク色をあしらった可愛らしい彼女の部屋。隅に配置された勉強机の上にはカサブランカの花が一輪飾られていた。

 窓は開かれていて、真夏の熱い空気が流れ込んでくる。汗ばむ身体にまとわりつくように、カサブランカの濃厚な香りがボクと彼女を包んでいた。


「ごめんね、エアコンの調子が悪いの」


 彼女はそう言って上目遣いでボクを見詰める。

 彼女と初めて出会った日から、ボクはその大きな瞳に魅入られていた。



 彼女と初めて会ったのは小学三年生の時だった。彼女がボクのクラスに転校してきたのだ。ボクたちの街は、都会から少し外れたところにある小さな街だった。彼女は最近出来た新興住宅地に引っ越してきたのだ。

 ボクたち地元の者たちは全く意識していなかったのだが、彼女の出現で自分たちが田舎者であるという事を実感させられた。


 担任教師に連れられて教室に入って来た彼女の白い肌。『透き通るような肌』とは彼女のことを表現するために存在するのだろうと思った。長く柔らかそうに波打つ少し茶色がかった髪。可愛らしいフリルの付いた服。ボクたちと同じ世界の子供とは思えなかった。


 そして、彼女が自己紹介を始めた。彼女に見惚れているボクの視線を、彼女の大きな瞳がとらえた。慌てて視線をそらそうとしたボクに、彼女はまるで天使のように微笑んだのだ。ボクは視線をそらすどころか、すっかり彼女の虜になってしまった。


 それからというもの、ボクはいつも彼女の隣にいた。毎日遠回りをして彼女と一緒に登校した。学校が終われば、手をつないで彼女と話をしながら帰る。もちろん遠回りをして彼女の家まで送っていった。休日も彼女と一緒に遊んだ。次第に彼女の家族とも親しくなり、家に招かれることになった。

 やさしそうな彼女のお母さんは、美味しいお菓子と飲み物を振舞ってくれた。それはお母さん手作りのケーキやクッキーだった。ボク家では父も母も仕事で忙しく、両親の顔を見ない日もしばしばあった。ボクは誘われるまま、彼女の家に入り浸るようになっていた。



 中学生となったボクたちは相変わらず仲良しのままだったが、小学生の時と少し違ってきたのは心の成長によるものなのだろう。ボクの心に彼女への愛が芽生えてきたことは確かだった。彼女の心にも、同じような感情が芽生え始めていた。

 ボクたちは、その感情が不思議で仕方なかったが、結局その感情に従うことを選択したのだ。

 それが、ボクと彼女の離別を招くとも知らずに……。







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