『厄災の魔女』という名だった少女
序章全部読み飛ばしたよって方は、少し分かりにくいかもしれません
まじょが寂しいをわかってから、二十日も過ぎた。
ティナスはまだまだいっぱい、まじょに教えてくれる。魔法使った戦い方とか、人と会ったらどうするかとか、魔族のこととか。
昨日も緑色の眼と紫色の眼のことを教えてくれた。
ティナスの眼は緑色だから、紫色の眼の人倒したのって聞いたらティナス、変な顔して眼が泳いでた。
ティナスはユウくんと違って、ずっと笑顔じゃない。でも、ユウくんよりも優しくて聞いたこと全部答えてくれるの。まじょは知らなくて良いとか、そのうち教えてあげるって言ったりしない。
ティナスは長く考えたあとに、一回だけあるって言ってた。じゃあティナスは英雄なのって聞いたら、ティナスはなんか怒ってた。
でも、そのあとごめんって言って、明日はすごく大事なことを教えてくてるって言ってた。ティナス、何教えてくてるのかな。
「ティナスおはよう。」
「おう、おはよう。」
ティナスは、ほとんどまじょのこと名前で呼んでくれない。まじょはティナスって呼んでるのに。
「ティナス、昨日の大事なことっていつ教えてくれるの?」
「あー、とりあえず朝食を食ってからだな。」
「わかった。今日のご飯、すごく良い匂いしてる、早く食べよう。」
名前で呼んでって言ったら、呼んでくれるかな。ティナス優しいから。でも、ティナスがまじょのこと『厄災の魔女』って呼ぶ時、ティナス変な顔してる。まじょの名前って変なのかな。
今度ティナスに聞いてみよう。
…
「ティナス、大事なことってなに?」
「…そうだな、引き伸ばしても良いことはない。いや、すでに今更遅すぎるかもな。」
「ティナス、なにいってるの?」
「ああ…大事なことっていうのはな、お前の名前のことだ。」
まじょの名前のこと?
「まじょの名前は『厄災の魔女』だよ。それがどうかしたの?ティナスがまじょの名前、呼んでくれないのと関係ある?」
「そうだ、まず『厄災の魔女』ってのは…お前の名前じゃないんだ。」
名前じゃ、ない?
「名前だよ。まじょは『厄災の魔女』だよ。だって、みんなそう呼んでたもん。お父さんもお母さんも、ユウくんもそう呼んでくれたもん。」
「それは、」
「まじょは…『厄災の魔女』じゃないの?」
「…まずは、落ち着け。先にそっちの話をしよう。まず、昨日紫色の眼と緑色の眼の話をしたのを覚えてるか?」
「うん、紫色の眼は厄災を呼んで、緑色の眼はそれを倒して英雄になるの。今では緑色の眼の英雄候補は勇者とも呼ばれるって、ティナス言ってた。」
「そうだが…お前は自分の顔を、見たことはあるか?」
自分の顔?
「まじょ、顔見たことない。ティナス、どうやったらまじょの顔って見れるの?」
「…そうか、自分の眼を知らなかったのか。ちょっと待ってろ。」
ティナス、また変な顔してる。あ、引き出しからなにか持ってきた。
「これは鏡というんだ。覗き込んでみろ。」
鏡?これでまじょの顔わかるの?
「わ、女の子だ…紫色の、眼?」
まじょの眼、紫。
「これ、まじょ?」
「…」
まじょの眼、紫。緑色の眼に倒される?まじょ、ティナスやユウくんに倒されるの?なんで?どうして?まじょ、厄災呼ぶの?
『厄災の魔女』
あ…
「まじょ…厄災を呼ぶ、魔女?」
「…」
ティナス、また変な顔してる。すぐに眼をそらした。違うって言ってくれない。
まじょ、『厄災の魔女』なんだ。まじょの名前、名前じゃない?
「じゃあ、まじょの名前なに?まじょ、誰なの?まじょ、名前ないの?まじょ、名前呼ばれたことないの?」
ティナス、なにも答えてくれない。まじょにいっぱい教えてくれるのに、まじょのこと、まじょの名前、教えてくれないの?
「『厄災の魔女』って、なに?」
「『厄災の魔女』っていうのはな、お前のことを示す記号みたいなもんだ。」
「記号?」
「そうだ、周りがお前のことを勝手に『厄災の魔女』って言ってるだけだ。緑色の眼の奴が勇者って呼ばれるようなもんだ。」
「だから、名前じゃない?じゃあ、まじょの名前ないの?」
「…お前は、俺のことを好きか?」
「好き?」
「お前は、俺のことをどう思ってる?」
ティナスのこと?
「ティナスはユウくんみたいに優しくて、笑ってくれて、まじょにいろんなこと教えてくれる。それに、いなかったら寂しい。ユウくんの時は泣かなかったのに、ティナスいなくなるの嫌なの。ご飯毎日一緒に食べたいの。それと、」
「もういい、十分だ。それが好きってことだ。」
まじょ、ティナスのこと好きなんだ。これが好き。まじょ、ティナスのこと好き。
あれ、ティナスの顔赤い?それと、すごく柔らかい笑顔。
まじょ、ティナスの笑顔好き。
「俺は一ヶ月一緒に過ごして、お前のことを娘のように思っている。お前は俺のことを、父親のように思えるか?」
父親…お父さん?
「まじょのお父さん、村にいるよ。ちゃんと話したことないけど、ティナスとは全然似てないよ?」
「そういうとこじゃなくて、なんというか…本来、父親と母親は子供と一緒にいて、成長を見守るものなんだ。だからその、俺に育てて欲しいと思うか?」
ティナスと一緒にいて、ティナスに見守ってもらう?
「うん、まじょ、ティナスに育ててもらいたい。ティナス、まじょのお父さんになって欲しい。」
「…あー。」
ティナス、手で顔が見えない。急に上を向いて、顔隠しちゃった。
「ティナス、どうしたの?」
「いや、なんでもない。じゃあ…俺がお前に名前を付けてもいいか?名前は親がつけるもんなんだ。」
ティナスがまじょに名前くれるの?
「うん、ティナス、名前つけて。まじょの名前、なに?」
「お前の名前は…マヤだ。マヤ・アレグル」
マヤ、まじょの名前。
「まじょはマヤ。マヤ・アレグル。ティナス、アレグルってなに?」
「名前にはな、個人を表す名と生まれを表す姓というものがあるんだ。姓というのは親と同じもので、俺の正式な名前はティナス・アレグルだ。」
「じゃあ、まじょ、ティナスとお揃い?」
「ああ、今日からお前は、俺の子だからな。」
まじょはマヤ。ティナスの子で、ティナスがお父さん。
ティナス笑ってる。
「お、初めてだな。いい笑顔だ。」
「え?」
笑顔?初めて?ティナスはよく笑ってるのに?
「マヤだよ。気づいてなかったのか、今までて一番嬉しそうで、幸せそうな笑顔だよ。ほら。」
鏡の中には、まじょが今まで見てきた内の誰よりも、輝いた眼をした紫眼の女の子がいた。
「ティナス…お父さん、大好き。」
これが好き。これが嬉しい。これが幸せ。マヤ、いっぱいティナスに教えてもらった。
いつかユウくんが会いに来たら、今度はマヤがユウくんに教えてあげるの。
それとね、いつかティナスにも、マヤがなにか教えてあげられるように、マヤいっぱい頑張るの。
隣を見たらいつの間にか、ティナスが床に突っ伏して動かなくなってた。
ティナスと出会ったあの日みたいに。
「ティナス、床で寝たらダメだよ。」
「マヤ、かわいすぎるだろ。」
でも、まじょはマヤになったから。名前をもらって、名前を呼んでくれるお父さんもいる。
今のマヤは、マヤ・アレグルは幸せなの。
かなり短いですが、区切りがいいのでこれで1章完結です。
ありがとうございました。
1章は一旦完結ですが、すぐに2章始まると思います。
伏線全然回収できてない自覚ありありですが、ひとまずハッピーエンドで良かったです、本当に。
これからは少しペース落として、1章の番外編的なのをたまに書きつつ、2章を進めていこうと思いますので、またよろしくお願いします。