『厄災の魔女』と翠眼
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黒い森の周りには何もなかった。
荒れ果てて何もない、誰もいない。そこに大きくて黒い森がぽつんとあるだけ。
「どこから入るのかな。」
森なんてどこから入っても良いけど、ここは木が多くて草が大きい、まじょの腰まで草がある。
「お嬢さん、どうかしたの。」
急に後ろから声がした。
びっくりした、まじょが魔法で誰もいないの確認したのに。女の人だけど、折れた角が頭の右側に付いてる。それに目に包帯を巻いている。
「ああ、急に声をかけてごめんなさい。あなた、人間なのね。私は魔族だけど、人間に敵意はないわ。その森に入りたいのなら、森に入っても良いですかって聞けば、きっと入れてくれるわよ。」
まじょ、魔族に会うの初めて。優しそうで綺麗なお姉さんだ。
「まじょはまじょだよ。わかった、ちゃんと森に聞くね。ありがとうお姉さん。お姉さんも森に入るの?」
「ふふ、素直な子ね。私は入らないわ。ここに来たのはそうね、聖地巡礼みたいなものよ。ここには昔、紫眼の魔族が住んでいたの。」
お姉さんはまじょが話すと、笑顔で返事をくれた。
「良くわからないけど、お姉さん、ユウくみたい。優しくて、笑ってて、いろんなこと教えてくれるもん。」
「ふふ、ありがとう。それじゃあ、その森の中は危ないから気を付けてね。小さな魔女さん。」
「うん、バイバイお姉さん。」
そういえばお姉さん、どうやって急に出てきたんだろう。まじょ、全然気付かなかった。でも石投げないし、まじょのことちゃんと見て話してた。あれ、包帯巻いてるから見えてはないのかな。でもユウくんみたいだったから、見つかっちゃたけど大丈夫。
とりあえず、早速やってみよう。
「森さん、森さん、黒い森さん、中に入れてくーださーいなー。」
…あれ、まだかな。
「森さーん、起きてますか。約束破ったらダメですよー。」
ビュッ
風ひとつで草が倒れて道を作る。
「すごい、これ通るの?」
まじょが通るとすぐに草が元に戻っていく。
「すごい、これ魔法?まじょ知らない、見たことない。すごいすごい。」
ユウくん、これを見せたかったのかな。じゃあこの先に、まじょの行くとこがあるんだよね。
ずっと歩いていくと、誰かいる。男の人で角があるからきっと魔族だ。なんかふらふらしてるけど、どうしたんだろう。あ、倒れた。
「おじちゃん、おじちゃん、地面で寝たら痛いし汚れるよ。」
全然動かない。水かけて起こす?葉っぱの上に動かす?うん、葉っぱの上に動かしてから水かけよう。
「浮け。水出ろ。」
パシャ
起きるかな、起きないかな。
目蓋が動いたけど、起きなかった。
「水出ろ。」
パシャ
その後も5回くらい繰り返してみた。
「うぐ、げほっげほっ。」
「あ、おじちゃん起きた。」
「な、紫眼…の子供?」
おじちゃんの眼、すごい綺麗な緑色だ。ユウくんと一緒の色だ、良いなあ。
「まじょはまじょ、『厄災の魔女』だよ。おじちゃん、誰?」
「『厄災の魔女』…こんな子供が。」
おじちゃん、変な人だな。全然返事してくれないのに、まじょのことじっと見てる。逃げないし、石も投げてこない。ユウくんとも他の人とも違う、どうしたら良いのかな。
「…俺の名前はティナス。見ての通り魔族で翠眼だが、人間にも紫眼にも偏見はない。信じられないかもしれないが、良ければ名前とどうしてこんなところにいるのかを教えてくれないか。」
やっぱりおじちゃん、変な人だな。
「まじょの名前は『厄災の魔女』だよ。」
「いやそうじゃなくて、親から付けられた名前を教えてくれないか。」
「?まじょのこと、皆『厄災の魔女』って呼ぶよ。お父さんもお母さんもそうだよ。ユウくんもそう呼んでくれたの。だから、まじょの名前は『厄災の魔女』だよ。」
ティナスのおじちゃんはまじょから目を逸らして、何か言おうとしたみたいだけど、結局何も言わなかった。
「ここにいるのはね、ユウくんが逃げてここに行けって言ってたの。だから来たの。」
「…その話、詳しく聞かせてもらえないか?」
言って良いのかな。この人が逃げる相手じゃないよね。ユウくん、ここに行けって言ってたから、ここにいるこの人に会わせたかったのかな。
考えたけど、わからなかったから話してみた。ここに来るまでの話以外にもまじょのことやユウくんのこと、村のことも聞かれたからいっぱい話した。
ティナスは何度かうつむいたり、目をそらしたり、怒ってるみたいな時もあったけど、ちゃんと最後まで聞いてくれた。
「『厄災の魔女』か…なら、俺とここに住まないか。」
「ティナスと?どうして?」
「ユウとやらはこの森に行けと言ったんだろう。なら、俺と会ったのも何かの縁だ。ここにいれば変に移動するよりも、ユウとやらも会いに来やすいだろう。」
確かにユウくんはこの森のことしか言ってなかった。うん、まじょここに住む。
「わかった、まじょティナスとここに住む。まじょ、ここ来たばっかりなの。ティナスはいつからここにすんでるの?」
「いや…昔はここに住んでたこともあったんだが、実は昨日着いたばかりだ。」
「…じゃあ、お家ないの?」
「ないな。いや、一応昔住んでいた跡地なら見つけたから、とりあえずそこに行こうかと。」
「うん、じゃあ早くそこ行こう。浮け。」
木があるから気を付けないと、ぶつかっちゃいそう。
「ちょっと待て、急に飛行魔法は危ないだろって、うおっ。あー、方角は向こうだ。」
「わかった。」
…
いろいろあったけど、ちゃんと着いた。
「うわー、おっきくてぼろぼろだー。」
いっぱい瓦礫があって、塀もほとんど崩れてるけど、すごく大きかったのはわかる。
「おえ、吐きそうだ。魔女の名はだてじゃないか。しかも、なぜか上半身が水浸しだったせいで、体が冷える。」
これくらいならまじょ、すぐに直せるかな。
「直れ。」
がらがらごとごと、がちゃがちゃぱきぱきとたくさんの瓦礫やガラス片が、一つにまとまっていく。
「おっきー、きれー、すごーい。ティナス、これですぐに住めるね。」
隣を見たら、いつの間にかティナス倒れてた。
「ティナス、また地面で寝たらダメだよ。」
全然起きない。しょうがないから、早速お家に運ぼう。
見切り発車+見切り更新=行き詰まる可能性大
未だ着地点は見えず