赤黒い薔薇
あれ、おかしいな、と僕は霞む視界の中で思った。
貴女がいる。
手に温もりが……手を重ねている?
僕は驚きで息を変な方に吸い込んでしまったらしく、更にげほげほと咳き込んだ。まだ血痰が混じる。赤黒いその色が、彼女を汚してしまわないように、と、僕は必死で口元を手で覆った。視界が血の色に滲む。
汚れていない方の手には、何かを握らされている。頭がぐるぐると混濁して判然としない中、二人で握り合わせたそれがなんなのか、思考を巡らす。
巡らすうちに、僕はある記憶を思い出した。
それは遠い昔に貴女にプレゼントした、石だ。いや、貴女と話さなかった時間が長かったように思えて、遠く思えるだけで、時にすれば三、四年ほど前の話だ。
僕の小遣いでぎりぎり買えた、彼女のための御守り。
……持っていてくれたんだ。
ねぇ、少し勘違いをしてもいいですか?
僕が貴女に想われていたと、勘違いしても。
そう問いかけると貴女は首を横に振った。違うわ、と。
それは勘違いではないのだから、と。
それは、死に際の優しい幻のようだ、と僕は笑った。
とてもとても、満たされる。
ああ、可笑しな話だ。
先程まで殺そうとまで願っていたはずなのに。
──やはり僕は、貴女が好きだ。
貴女にお似合いなのは、黒百合などより、薔薇ですね。
血のように赤黒い、薔薇の花。
花言葉は──
『憎しみ』
『殺したいほど愛している』
そんな貴女の腕に、すがってもいいですか?




