黒水晶
水晶と呼ばれる中でまるで透明感のない黒い水晶がある、と彼は私に話してくれた。
酸化ケイ素から構成される名前に違わず黒ずんだ水晶を私にくれたのは、普段そんなに話さない彼。
寡黙だけれど博識で、なんとなく、惹かれていた。ただ、そんな気持ちに気づかれるのが恥ずかしくて、目が合いそうになるたびに逸らしていた記憶ばかりがある。
彼の顔を見ないようにした。
気持ちに蓋をして。
何故って、
私の周りでは惚れた腫れたの話が浮上するだけで、話のネタにされ、晒し者にされるのである。
するのなら純粋な恋というものにしたかった。
他人の言葉で貶されたくなかった。
だからあの黒水晶のプレゼントをひた隠しにして、私は彼とまるで関わりがないように振る舞った。
大きいものの方が、天然石というのはやはり効力があるらしいと教えてくれたのは、彼だったと思う。
だから、指の先に乗るような、小さなサイズのそれをあしらったネックレスを申し訳なさそうに私に差し出してきた彼の顔を、私はよくよく思い出す。
あまりにも久しく話していないもので、今ではどうして接点があったのだろう、と自分でも疑問に思うくらいの関係だけれど。
些細でも、そんなプレゼントが嬉しかった。
調べたところによると、この黒水晶──またの名をモリオンというこの鉱石は、最強の邪気祓いということで有名で、幻の水晶と呼ばれるほど稀少性の高いものだとか。
彼は一体私のためにどれだけ走り回ったのだろう……思うだけで、愛しさが増した。
ある日、彼がライターを持っていた。
彼はまだ煙草など吸わない、吸ってはいけない年齢である。何故そんなものを持つのだろうか。まさか非行に走ろうとしているのか? ──そんな彼が気になって、後を追った。
すると彼は人気のない空き地で、黒い花と、紙と……糸? のようなものをまとめて燃やし始めた。
ああ、法を犯すような非行ではなかった、とは安堵するも、胸の焦燥は鳴り止んでくれない。
ねぇ、何をしているの? ……炎が小さな三つを焼いて呆気なく消えるのと同時、私は声をかけようと久方ぶりに彼の方に向かった。
すると唐突に、彼は吐血して倒れた。
嘘でしょう? 嘘、と私は必死に倒れた彼の名前を呼んで必死に黒水晶のネックレスを握らせた。
彼の闇を祓ってください、と祈り。
けれどそういえば、黒水晶は、かつてその黒い姿から、死の象徴と言われたのだっけ。